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技術翻訳プロフェッショナル講座 「翻訳の真髄」


21 ソフトウェアの危機 和文英訳
【問題】次の和文を英訳してください。

ハードウェアの急速な技術進歩、性能の向上、それに伴うコストパフォーマンスの改善に比較して、ソフトウェアの生産性は向上していない。ところが、ソフトウェアの開発需要は、ますます増大、かつ巨大化している。このため、ソフトウェアの開発の大幅なコストダウンを図らなければ、開発需要に応じられなくなる。このような状況をソフトウェアの危機という。

【解 説】
・ 技術: technology (art, technique, technology などとある中で、technologyを選びます)。

・ 性能: performance (capacity, power, efficiency, performance, property などと辞書にある中からこの語を選びます)。

・ 生産性: productivity も正しい訳ではありますが、訳文中では調子の関係から(software) production efficiencyという語を選びました。

・ ソフトウェアの開発需要: the demand for software development

・ ~は、ますます増大、かつ巨大化している: ~continue(s) to grow, both in amount and scale of ~(~はcontextにより変わります)。

・ 大幅なコストダウン: a drastic reduction in the cost of ~(同上)。ついでにコストアップは、an increase in costと研究社の『新英和大辞典(第4版)』には出ています。

・ (需要に)応じられなくなる: ~cannot be met

・ ~を・・・・・という: ~is referred to as ・・・・・, ~ is called (termed) ・・・・・

【表 現】
最初の文章を読むと、「進歩」「向上」「改善」とほぼ同じ意味の言葉が3回使われていることに気がつきます。

そこで同じ意味の語が一つの文章に3回現れる愚を避けるため、これらをひとつの動詞句を使って表現することにします。

つまり「ハードウェア技術」「性能」および「コストパフォーマンス」を主語にして、これら三つが急速に進歩向上しているのに、ソフトウェアの生産性はほぼ一定のままである、と解釈します。

こうするほうが論理的な文章構成にもなるからです。

以上を頭の中で整理して英訳してみましょう。

While hardware technology, performance and cost performance have been advancing by leaps and bounds, software production efficiency has remained comparatively constant.

第3番目の文章は、下記のように表現します。

Unless there is a drastic reduction in the cost of software development, this demand cannot be met.

第2番目の文章の「ところが」および第3番目の文章の中の「このため」という副詞は、それぞれ however とか、for this reason とか強いて訳す必要のない語句ではないでしょうか。

もちろん、真に意味のある副詞は訳さなければ、誤訳(あるいは訳抜け)となります。

このようなところでも、翻訳者の判断が入るので、一つの文章にもいくつもの訳が可能であるといえます。

したがって、翻訳者には常に客観的に正しい判断(解釈)ができるように、語学のみならず、背景になる知識や常識を豊かにする努力が要求されます。


本問題の記述では「ソフトウェアの危機」という言葉の意味(定義)を説明していることが分かるので、主題になる語を先に出すという一つの訳し方の技術(方針)から、訳文では

The software crisis is attributable to the fact that ~ 

「『ソフトウェアの危機』という言葉は~という事実のために生まれた」というような、和文にはない表現を付け加えました。

「和文にはない」とは言っても explicit でないだけで、本問題の意味全体からすれば implicit に記述されていると考えることができるからです。

原文を勝手に翻訳者が削除したり、加筆したりしてはならないことは言うまでもありません。

そうするときには、客観的にそうせざるを得ないような事情(理由)- たとえば、彼我の習慣とか表現形式の違いなど-がなければなりません。

もちろん、ここに問題が一つあります。

「原文が間違っているときでも、そのとおりに訳さなければならないのか」という問題です。

「同等価値の原則」というものがあるので、翻訳論的には、これは確かに問題ではありますが、翻訳現場では原文が間違っているところはそれを直した上で納品しているのが実情です。

もっともこの場合でも、明らかに間違いだと判断できる場合に限り、かつ発注元へその旨をコメントとして付けておくことが重要です。

以上、長々と解説してきましたが、こういうことをあまり気にとめないで、いわゆる原文に忠実に訳した英文(訳例1)と、次いでその英文だけを見て書き直した英文(訳例2)を示します。

(訳例1)原文に忠実に訳した英文
Software production efficiency has not improved as compared with the rapid progress in hardware technology, performance and cost performance. Nevertheless, software development demand has been increasing both in amount and extent. For this reason, unless we attempt to reduce the cost of software development drastically, we cannot meet this demand. Such a situation is referred to as the software crisis.

(訳例2)訳例1を英文だけを見て書き直した英文
Software production efficiency has not improved at as high a rate as progress in hardware technology, performance and cost performance. Nevertheless, software development demand continues to increase, and unless the cost of software development can be reduced drastically, the demand will not and cannot be met. This situation is called the software crisis.

以下に示す訳文は、【表 現】の項で説明してあることを考慮して作成したものです。可能な訳の一つとしてお考えください。

[訳 文]
The software crisis is attributable to the fact that while hardware technology, performance and cost performance have been advancing by leaps and bounds, software production efficiency has remained comparatively constant. The demand for software development continues to grow, both in amount and scale of software. Unless there is a drastic reduction in the cost of software development, this demand cannot be met: that is the software crisis.