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翻訳会社の経営分析


「翻訳会社の経営分析」は、2006年9月~10月にかけて丸山均がブログに連載した記事を編集したものです。

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1)「全企業52社の平均値」と「粗利益」

「TKC経営指標・平成18年度版」(*注1)をもとに、翻訳会社の経営分析をやってみましょう。

「TKC経営指標」とは、株式会社TKCが発行する財務分析資料のことで、そこには、全国の税理士事務所の顧問先企業22万社から上がってくる膨大な量の決算書をもとに、分析された財務データが満載されています。

各業種ごとに詳細な数字を使って分析されており、中小企業が、同業他社の財務内容と自社のそれとを比較検討できるようになっています。

翻訳業(著述家業を除く)のページには、52社(内黒字企業27社)の財務分析データが掲載されていました。

「全企業52社の平均値」 と 「内27社の黒字企業の平均値」という2つのデータがありますが、「全企業52社の平均値」から見ていきましょう。

全企業平均(52社) 平均従業員数 7.7名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 98,368 100.0%
売上原価 49,093 49.9%
売上総利益 49,275 50.1%
販管費 45,259 46.0% 内役員報酬 10,794
営業利益 4,015 4.1%
営業外収益 799 0.8%
営業外費用  723 0.7%
経常利益 4,092 4.2%

まずは、言葉の意味から説明していきます。

「売上原価」・・・翻訳会社の場合、売上原価=外注費と考えてまず問題ないでしょう。

「売上総利益」・・・純売上高から売上原価を差し引いたもので、一般的には「粗利(荒利でも正解)」と呼ばれています。

1個60円で仕入れたタワシを100円で売ったスーパー(小売業)は40円の「粗利」を得たことになります。

製造業の場合、30円で仕入れた原材料を加工して100円の製品にして売れば、70円の「付加価値を創造した」ことになります。

「付加価値」の学問的定義はともかく、市場価値が30円でしかない「原材料」を仕入れ、社内で加工を施し、市場価値100円の製品にしたわけですから、その会社は70円分の価値を創造したことになります。

その創造した価値は「技術力」によるものであったり、「営業力」によるものであったり、「ブランド力」によるものであったり、「立地力」(超一等地に立つ百貨店など)によるものであったりするわけです。

これを上記の翻訳会社の場合にあてはめれば、外注翻訳者から仕入れた「翻訳」に社内で加工を施し、製品価値を2倍に創造して売ったことになります。

(*注1)株式会社TKC
全国の会計事務所に対し、情報サービスを提供している東証1部上場企業。大型コンピュータを全国の税理士事務所とオンラインでつなぎ、経理事務を一手に引きうける、いわば経理のプロのための計算情報センター。


2)「販管費」・「役員報酬」・「営業利益」・「経常利益」

「販管費」・・・「販売費および一般管理費」の略。

社員の給与と賞与、役員の給与(賞与は除く)、法定福利費、退職共済掛金、通勤費、厚生費、広告宣伝費、家賃、管理費、水道光熱費、消耗品費、通信費、保険料、営業交通費、リース料、減価償却費、その他たくさんあります。

ざっくり言って「翻訳会社」にかかるたいていの人件費や経費はこの「販売費および一般管理費」に入ると考えていいでしょう。

「役員報酬」・・・役員に対する月々の給与のこと。

役員賞与は損金(≒費用。費用にあたる税法上の概念)としては認められないため、支払えば会社が法人税を支払ったあとに、役員個人が所得税を支払わねばなりません。

いわゆるこれが「税法の往復ビンタ」というやつで、これによりオーナー経営者に役員賞与が支払われるケースはまれです。

また、この「役員報酬」の中には「従業員兼務役員」の報酬が入る場合もあります。

たとえば「取締役営業部長」などという肩書きの人が、月給60万円をもらっているとしたら、50万円が営業部長の給与で10万円が取締役(役員)の給与だ、などと勝手に決めて「10万円×12ヶ月=120万円が役員報酬」などとしているケースもあります。

社長の奥さんを「専務取締役」にして、パートタイマーのような簡単な仕事をさせて月々20万円の役員報酬を支払っている、なんてケースもあり得るでしょう。

もっともこの場合は奥さんが「仕事をしているという実態」がないと、「認定賞与」となり、がっぽり税金を持っていかれますが・・・。

つまりここで言いたいことは、必ずしも「役員報酬」の全てが社長の給料とは限らないということです。

ちなみに2006年4月の税制改正で、同族会社のオーナー役員の給与については、一部損金算入が制限されることになり、大幅増税となりました。

「営業利益」・・・本業であげた利益を示す。

「営業外収益」・・・本業以外であげた収益。

たとえば、銀行預金の受取利息など。ほかにも会社保有の土地を誰かに駐車場として貸していた場合、その賃貸料収入はこの営業外収益となります。

ちなみに当然のことですが、賃貸料収入が本業の不動産屋さんにとっては営業外収益とはなりません。

「営業外費用」・・・本業以外にかかわる費用。たとえば借入金の支払利息など。

「経常利益」・・・営業利益+営業外収益-営業外費用。会社の当該営業年度の業績を最もよく反映する利益。


3)「黒字企業平均」

次に「黒字企業平均」の資料を見てみましょう。

黒字企業平均(27社) 平均従業員数 11.3名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 160,314 100.0%
売上原価 83,403 52.0%
売上総利益 76,910 48.0%
販管費 68,715 42.9% 内役員報酬 13,904
営業利益 8,195 5.1%
営業外収益 1,381 0.9%
営業外費用 1,067 0.7%
経常利益 8,510 5.3%

売上規模が少々大きくなり、利益率も若干良くなっているという点以外、「全企業平均」とそう際立った違いはありませんね。

しかし、以下の点に注目してみてください。

「黒字企業平均」は売上規模別に4つのカテゴリーに分けられ再分析されています。つまり、

売上0.5億円未満、

0.5億円~1億円、

1億円~2.5億円、

2.5億円~5億円  の4つです。

この中の売上0.5億円未満の企業に注目してみました。

売上0.5億円未満の黒字企業平均(13社)
 平均従業員数 2.5名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 26,615 100.0%
売上原価 5,617 21.1%
売上総利益 20,997 78.9%
販管費 19,108 71.8% 内役員報酬 8,918
営業利益 1,889 7.1%
営業外収益 198 0.7%
営業外費用 60 0.2%
経常利益 2,027 7.6%

なんだか、社長と創業の仲間達、あるいは奥さんとパート社員達が悪戦苦闘しながらも嬉々として仕事をしている、という姿がこの数字を通して目に浮かんできますね。

脱サラして奥さんと一緒に、サラリーマン時代の3倍働いて、翻訳で2,600万円売り上げたけど、年収はサラリーマン時代と変わらなかった・・・・みたいな感じでしょうか。

ただ、私が言いたいことはそんなことではありません。


4)「粗利益率8割弱」・・・超高付加価値企業?

私が注目した数字は売上総利益率78.9%です。

粗利が8割弱ということは原材料の価値を5倍にして売る、つまり翻訳は「超高付加価値商品」ということになります・・・と聞いたら誰もが「???」と思いますね。

そうです、おかしいですね。社長自らが翻訳していて、自分のキャパをオーバーフローした分だけを外注しているわけですから、そのような分析自体がほとんど何の意味もないわけです。

現場をわかっている人たちにとっては当たり前のことですが、「経営分析」だけをしている門外漢にとっては必ずしも当たり前ではなく、この数字だけを強調して「これは超高付加価値商売だ」などと言い出す輩も時々いるわけです。

ここらへんが経営分析の面白いところでもあり、盲点でもあります。

かつて「粗利益率90%以上」のキャッチフレーズに騙されてお好み焼屋さんを始めて失敗した人の話を思い出しましたが、その人は「率」だけに目が行ってしまい、客単価700円という「額」が目に入りませんでした。

世間によくある「売上至上主義」がダメなのは言うまでもありませんが、この例のように「木を見て森を見ず」もまたダメですね。

さて、「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉があります。

これは経済学の用語で「ミクロの視点で正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、かならずしも同じ理屈が通用しない」という意味です。

たとえば、不況になったので多くの企業や個人がお金を節約して「必要最小限のことにしかお金を使わない」ようになったとします。

この「必要最小限のことにしかお金を使わない」という行為そのものは、不況に対抗する手段としては実に正しい選択なのですが、もし日本中が一斉に節約に走ったらどうなるでしょうか?

ますます日本経済は不況に陥り、デフレスパイラルから抜け出せなくなってしまいます。

「売上0.5億円未満の企業」の資料をみてこの「合成の誤謬」という言葉を思い出しました。

「こんなに付加価値が高いなら」とか「こんなに利益率が高いなら」と言ってどんどん規模を拡大していくとやがて「合成の誤謬」に陥ることになります。


5)「黒字企業平均と大手翻訳会社との比較」

それでは以前見た黒字企業平均(27社)の数字と大手翻訳会社H社の損益計算書を比べてみましょう。

黒字企業平均(27社) 平均従業員数 11.3名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 160,314 100.0%
売上原価 83,403 52.0%
売上総利益 76,910 48.0%
販管費 68,715 42.9% 内役員報酬 13,904
営業利益 8,195 5.1%
営業外収益 1,381 0.9%
営業外費用 1,067 0.7%
経常利益 8,510 5.3%

H社(2006年3月期)連結損益計算書
従業員145名+臨時雇用社員66名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 3,488,291 100.0%
売上原価 1,841,776 52.8%
売上総利益 1,646,514 47.2%
販管費 1,313,400 37.7% 内役員報酬 89,820
営業利益 333,114 9.5%
営業外収益 301 0.0%
営業外費用 6,949 0.1%
経常利益 326,466 9. 4%

おもしろいですね、売上1億6,000万円の翻訳会社と売上35億円の翻訳会社のどちらも売上原価の比率が52%台ですね。

両者の際立った違いは売上に占める販管費の割合でしょうか。

「黒字企業平均」に対してH社は5.2ポイントほど販管費の比率が低いですね。

つまりこの数字だけをみてわかることは、「パパママショップ」の翻訳会社を除けば、売上に占める外注費の割合は、中規模、大規模を問わず半分ちょっとだということがわかります。

そして規模の拡大に伴い、売上に占める販管費の割合を落としていくことにより「利益を捻出している」ということがわかります。

逆に言えばそれ以外に利益を生み出す方法はない、と言えるのかもしれません。


6)「他業種との比較」

TKCの資料の中に「5業種比較財務諸表」というものがあります。5業種とは

「翻訳業」

「広告制作業」

「不動産鑑定業」

「行政書士事務所」

「他に分類されない専門サービス業」  の5種類です。

このうち「不動産鑑定業」「行政書士事務所」に関しては、売上≒粗利に近い業種であり、「他に分類されない専門サービス業」はあまりに種々雑多すぎるのでここでは外し、「広告制作業」に注目してみます。

内制と外注という点では比較的翻訳業に近い業態と思えるからです。

広告制作業(185社) 平均従業員数 7.6名
項 目 金額(千円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 148,205 100.0%
売上原価 86,305 58.2%
売上総利益 61,900 41.8%
販管費 54,835 37.0%
営業利益 7,065 4.8%

翻訳業界と比べて売上規模も売上総利益率や営業利益率も極端な違いはありません。

それでは、広告業界最大手、それも超大手の株式会社電通の損益計算書を見てみましょう。

株式会社電通 2006年3月期 連結損益計算書
項 目 金額(百万円) 純売上高に
対する比率
備 考
純売上高 1,963,296 100.0%
売上原価 1,637,400 83.4%
売上総利益 325,896 16.6%
販管費 267,120 13.6%
営業利益 58,776 3.0%

売上規模があまりにも大きいので、単位が千円から百万円に切り替わっていますが、それにしてもやはり違います。

売上原価が83.4%ですから思いっきりスケールメリットを使って、「規模の利益」を出しています。

翻訳会社も電通さんのようになれるのでしょうか?いやなれなければ大きくはなれないでしょうね。

  翻訳会社の財政状態 へ続く