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「旧来型の翻訳市場」と「新しい翻訳市場」


「「旧来型の翻訳市場」と「新しい翻訳市場」 」は、2006年8月~9月にかけて丸山均がブログに連載した記事を編集したものです。


1) 「狭義の意味での翻訳市場」と「広義の意味での翻訳市場」

まず最初に私が考える「狭義の意味での翻訳市場」と「広義の意味での翻訳市場」についてご説明します。

狭義の意味での翻訳市場
企業や公共団体等の組織が、翻訳会社や個人翻訳者に発注する”翻訳業務”のこと

広義の意味での翻訳市場
(1)企業内で正社員として翻訳業務に携わっている人たちの人件費
(2)大企業が子会社に発注する”翻訳業務”。この場合、親会社から子会社へ天下ってきた人たちの人件費も含まれる。
(3)”翻訳者を派遣する派遣会社”の売上高
(4)”機械翻訳”や”翻訳ソフト”関連の売上高
(5)”機械翻訳”や”翻訳ソフト”の研究開発費用総額
(6)翻訳学校、通訳学校
(7)外国へ輸出する製品ドキュメントの制作費や印刷代
(8)ソフトウエアローカライズの総額

このうち(7)と(8)は「翻訳ではないだろ!」とお考えの方も多くいらっしゃると思いますが、実際には企業側で作業の境目がはっきりしないため、「翻訳関連費用」として「翻訳料と一緒くた」にしているケースもしばしば見られます。

従って「日本の翻訳市場の規模は、1兆円だ、いや10兆円だ」とかなり威勢のよい発言をする人たちの頭のなかには、きっと「広義の意味での翻訳市場」があるのだと思います。


2) 「旧来型の翻訳市場」とは?

私の考える「旧来型の翻訳市場」とは、前回触れた「狭義の意味での翻訳市場」を意味します。つまり「企業や公共団体等の組織が、翻訳会社や個人翻訳者に発注する”翻訳業務”のこと」です。

また、世の中には様々な呼び名の「翻訳」があるためこの”翻訳業務”の中には、

技術翻訳、実務翻訳、一般翻訳、産業翻訳、出版翻訳、映像翻訳、文芸翻訳、特許翻訳、工業翻訳、医薬翻訳、商用翻訳、ビジネス文書翻訳、Web翻訳、IT翻訳、等々

さまざまな呼び名の翻訳が含まれています。

これら様々な種類の「翻訳」のほとんどをひっくるめて、「実務翻訳」あるいは「産業翻訳」と呼んでもよいかもしれません。

この「実務翻訳」や「産業翻訳」という名称は、主に翻訳学校が「出版翻訳」や「映像翻訳」と区別するために考案した名称ではないかと私は“推測”しているのですが、これらの明確な定義はどこにもないため、とりあえずここでは、私の考えをご紹介しておきます。

「実務翻訳」の定義
広辞苑によると「実務」とは「実際の事務。実地に使う業務」とあり、漠然としている。「実務」とは「お金を稼ぐことを目的とした、仕事現場で使う業務」のこととも言えるので、「実務翻訳」とは「趣味や勉強や人助けのための翻訳」ではなく、「職業としての翻訳」のことであると定義できる。そう考えると翻訳業界で金銭により取引されている「翻訳」はすべて「実務翻訳」ということになる。

「産業翻訳」の定義
広辞苑によると「産業」とは、①生活していくための仕事 ②生産を営む仕事、工業、とある。したがって、意味的には「実務翻訳」に近い。「技術翻訳」、「工業翻訳」、「ビジネス翻訳」はもちろんのこと、「一般翻訳」までも含めた「実務翻訳」、つまり金銭によって取引されている翻訳のこと、と言ってよいであろう。「趣味や勉強や人助けのための翻訳」を除く、「職業としての翻訳」のこと、とも言える。


翻訳業界以外の一般の人たちが「翻訳業」という言葉からイメージすることは、第一に、「映画の字幕翻訳」であり、第二に「外国語小説の翻訳」のようです。

しかし、「映画の字幕翻訳」も「外国語小説の翻訳」も目立ちはしますが、実際、翻訳マーケット全体から見ると、数パーセントにも満たないと言われています。

つまり、「ハリー・ポッター」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「ダヴィンチ・コード」の翻訳をしているほうが面白そうですが、実際には日本全体の翻訳需要からするとほんの微々たる量でしかないというわけです。

また、一般の方々は「翻訳」というと「英語から日本語への翻訳」が思い浮かぶようですが、実際にはその逆「日本語から英語」の仕事もかなりあります。

1985年のプラザ合意による円高以降、英語から日本語への翻訳量は急速に増えてきました。

もちろん英語以外の言語の翻訳も増えてきていると思いますが、近年はやはり中国語の翻訳需要が急速に伸びてきています。


3) 「インターネットの普及」と「翻訳メモリーの出現」

さて、それではそろそろ「新しい翻訳市場」の話をしましょう。

ここ10年間でわれわれ翻訳業界を大きく変えたものは、言うまでもなく、「インターネットの普及」と「翻訳メモリーの出現」です。

インターネットの普及は業種業態を問わず、あらゆる業界に多大な影響を与えたわけですが、ことさら翻訳業界に影響が大きかったでしょう。

eメールの普及は、まさに翻訳者の住む地域と国の垣根を取り除きました。

また、翻訳者個人の売り込み情報がネット上に氾濫し、まだ玉石混交の状態であるとはいえ、ユーザー側からみれば、自由に翻訳者を選択できる時代になってきたと言えます。

もうひとつは、「翻訳メモリー」の出現です。

「翻訳メモリー」とはTRADOSに代表される翻訳支援ツールによって作成される翻訳データベースのことです。

翻訳支援ツールとは過去に人間が翻訳した訳文とその原文を一対にして、データベース(翻訳メモリー)に格納し、次回以降同じ文章(あるいは似た文章)が出てきたときに、翻訳メモリーから該当する訳文を引っ張り出してきて、翻訳者をサポートするツールです。

「ローカリゼーションの世界では、自社開発した翻訳支援ツールを翻訳者に無料貸与し、巨大サーバーを使って世界中から集まる翻訳データを独占的に活用しようという動きが出始めています。

まさにスケールメリットが翻訳業界を根底から変えかねません。」

まだ、実務上の問題は色々残されているようですが、このような動きが現実化していることは事実です。

「翻訳業にスケールメリットはない」と言われ続け何十年も経ちましたが、その検証が今後行われていくことになります。


4) 翻訳メモリーのWikipediaの出現?

さて、皆さんよくご存知のとおり、"Linux” や”Wikipedia” や “英辞郎” はWeb上で無数のボランティアの人たちが情報を提供し、中身をアップデートしています。

当初は「無責任なボランティアが勝手にアップデートした情報など信用できん」と考えていた人たちも、最近は考えを変え始めています。

身近なところで言えば ”Wikipedia” の情報はお金を払って買った百科事典よりも、内容が新鮮でむしろ信頼性があります。

ところでその"Linux” や”Wikipedia” や “英辞郎”で見られるボランティアワークの動きが、「翻訳メモリー」に起きたらどうなるでしょうか?

いや、最近の”Wikipedia” をみていると「無料翻訳メモリーのオープン化」の動きはもはや避けられないでしょう。

1. 充実した翻訳メモリー
2. 進化した機械翻訳ソフト
3. Web上の無尽蔵の無料情報
4. 翻訳の適材適所を検索できる検索エンジン

これにより、「内容の簡単な翻訳」や「繰り返しの多い翻訳」しかできない翻訳者は完全に職を失うでしょう。

しかし、やはり「人間にしかできない判断力を必要とする翻訳」は依然残り続け、優秀な翻訳者がその職を奪われることはやはり「ない」でしょう。

機械翻訳が人間の持つ「常識」を備えるとは考えられないからです。機械が「常識」を持てば次には「心」を持つでしょう(もっともアニメの世界に出てくるロボットのような人工知能が開発されれば話は別ですが)。

上級翻訳者は「より高度な判断をともなう翻訳の仕事」に専念するようになるはずです。

さて、そのような状況の中で求められる翻訳会社の存在価値とは何なのでしょうか?


5) 近未来のメディア業界を予想する“EPIC2014”

皆さん“EPIC2014”はもうご存知でしょうか?これはインターネット技術の急激な発展により2014年までにメディア業界が激変してしまう「近未来の歴史」を描いた話題のネットムービーです。

この8分間のネットムービーの内容を簡単に紹介するとこうなります。

『2008年にGoogleとAmazon.comの合併企業”Googlezon”が登場、サーチエンジン技術と個人の嗜好の解析・推定技術の融合、そして圧倒的な資本力により様々なサービスの統合化を進め、2014年に “EPIC(進化型パーソナライズ情報構築網)”を完成させる。

これは無数の情報源から発信されるネット上の情報を自動的に収拾・選別し、パーソナライズされた情報として個々のユーザーに届ける、マスメディア企業を不要とする仕組みであり、Googlezonは情報のマッチング量に連動した広告収入を積み上げ、莫大な収益をあげるビジネスモデルを築く。

その過程で20世紀のIT企業の代表・Microsoftは主役の座を追われ、既存マスメディアの代表・New York Timesはインターネットの世界から退出し、ニッチな紙媒体として細々と生き長らえることになる。』


つまり「Googlezonの出現により、ネット上のあらゆる情報が収集され、各個々人の望みや好みにあわせて取捨選択され、発信される。もちろん無料ですから、紙や映像により一方的に情報を流す従来型のマスメディア企業は消滅し、マスメディアから「マス」をとった、小さなメディア企業に転落する」というわけです。

この“EPIC2014”の予言が全てピタリと当たるかどうかはわかりませんが、かなりいい線をついていると感じます。

ただし、このムービーの中では触れられていませんが、「人間が取材して、人間が記事を書く」という点は従来のやり方と何も変わらないはずです。

それではその点も踏まえて、この“EPIC2014”をわが翻訳業界にあてはめ、これからの「新しい翻訳市場」とその「新しい翻訳市場での翻訳会社の存在価値」について考えてみましょう。


6) ”翻訳メモリーのWikipedia化”と”Googlezon”の融合が生むもの

”翻訳メモリーのWikipedia化”と”Googlezon”が組み合わさったらどうなるでしょうか?

世界中のボランティアにより無限に増殖する翻訳メモリーの中を”Googlezon”が闊歩し、カスタマイズされた情報を各業界、各企業、各個人へ無料発信し始めたらどうなるでしょうか?

「誰が作ったかもしれない怪しげな翻訳メモリーなど使いもんになるわけがない」・・・・・こうお考えの方々も大勢いらっしゃるでしょう。

正直言って現在の私も半信半疑です。

しかし、高度かつ莫大な専門知識を必要とするOperating Systemや百科事典が”小さな力の結集”であの”マイクロソフト”や”ブリタニカを脅かす存在にまで発展するとはいったい誰が予想したでしょうか?

もはや「情報のオープン化」は避けて通れない世界の潮流と言ってよいでしょう。

一方、企業の立場から考えると最低限守るべき知的財産は法律によりしっかり保護しつつも、積極的に自分達から情報発信することにより、Website上の集客力を高め、ライバルに差をつけていく・・・・・そういう時代がすでに始まっていると言ってよいでしょう。

もう少し具体的に言うと「長年受け継がれて来たこのノウハウや情報は大切だから誰にも渡さない」と握り締めていたら、実はネット上に出回っていて、いつの間にか誰もが知っていた、なんてことになりかねないわけです。

それよりも「より良い知識やアイディアを持つ人はいないか?」と情報発信し、世間(というよりも世界)の波に揉まれるうちに”井の中の蛙”から脱することが大事です。

やがて自社の中から”幅広い視野を持つ技術者”や”タフな情報ネゴシエーター”が育っていくでしょう。

そして彼らを率いてスピード経営で勝負を決する・・・・そんな時代に突入してきたと私は感じています。

さて、それでは私の考える「新しい翻訳市場」とはいったい何なのでしょうか?

「オープン化された膨大な量の翻訳メモリー」とそれをカスタマイズして特定の業界や企業や個人へ発信する”Googlezon”が出現すれば、簡単な翻訳や繰り返しの多い翻訳はもうすでに熟練した翻訳者の仕事ではなくなっているでしょう。

しかし完全に人間の手をかけずに問題のない翻訳ができるのか?となるとはなはだ疑問が残ります。

そこで、ここで始めて「翻訳者予備軍」の話が登場してくるわけです。


7)「翻訳者予備軍」

現在の日本では40%を越える高校生が4年制の大学に進学しています。

1963(昭和38)年 12.5%
1973(昭和48)年 23%
1983(昭和58)年 25%
1993(平成 5)年 28%
2003(平成15)年 41.3%
(文部科学省の資料 短大や専門学校を除く4年制大学への進学率)

これだけの高学歴社会かつ豊富な国際経験(海外渡航や留学、海外赴任等々)にもかかわらず、翻訳でお金につながる仕事力を持ち合わせて“いない人の数”は“いる人の数”を圧倒しています。

たとえば日本の一流大学を卒業して、海外留学をした、あるいは帰国子女で米国や日本の大学を卒業して、翻訳学校へ長年通っている、という若年世代のケースがあります。

このような人たちは一般的な語学力はあるのですが、翻訳に必要な語学力と専門の技術知識がないため、実務上の翻訳ができるレベルに達するまでに相当な時間がかかり、途中であきらめてしまうケースが多く見られます。

あるいは逆に日本の一流大学を卒業後、一流企業でエンジニアとして働き、長年海外赴任も経験してから、定年を迎えたという熟年世代のようなケースがあります。

このような方々は自分の専門分野の技術知識はあり、海外生活も長いのですが、やはり語学力があまりにも足りません。

一般の語学試験(TOEICや英検)では結構な点数を取るのですが、プロの翻訳者に求められる語学力には遠く及ばない、ただかろうじて自分の専門分野の仕事に関しては、「だましだまし」であれば、なんとか最低限の翻訳はできる・・・・そのようなケースが多くみられます。

上記のような人たちに一番欠けているものは一体何なのでしょうか?

私はズバリ「ハングリー精神」だと思います。

私が26年間この翻訳業界を見て得た直感では、伸びる翻訳者は例外なく「虎のように鋭い、ギラギラした目」を持っています。

背景にある個人的な事情はよくわかりませんが、いつも剣が峰に立たされたような死に物狂いの「必死さ」を感じます。

また意外に思うかもしれませんが、翻訳は頭を使う仕事ながら、かなり体力と神経を酷使します。したがって翻訳業は競争の激しい「ハングリージョブ」であるともいえるでしょう。

せっかく翻訳のできるポテンシャルを持ちながら今ひとつ実務レベルに届かず、かつ、結構ヤル気のある人たちのことを私は”翻訳者予備軍”と呼んでいます。

この”翻訳者予備軍”は日本に無数にいます。

この”翻訳者予備軍”と後述する”スーパーリライター”と前述の” 翻訳メモリーのWikipedia化”と”Googlezon”の4つの組み合わせが、これからの新しい翻訳市場を創造していくキーワード・・・・・、私はこう考えています。

8) 「低価格・低品質の翻訳」

「人工知能の第一人者J・マッカーシー氏に聞く--AI研究、半世紀の歴史を振り返る」を読んでも、人工知能が人間の常識を持つためには、まだ相当な時間がかかりそうです。

実際、機械翻訳システムはかなりの進歩を見せてはいるのですが、実務レベルではとても使えず、“低品質の翻訳”のカテゴリーにも入らない“翻訳以前のもの”であると私は考えています。

しかし、” 翻訳メモリーのWikipedia化”と”Googlezon”の出現により、質量ともに圧倒的に充実した翻訳メモリーがこれに加わったらどうなるでしょうか?

現在よりはるかに精度の増した機械翻訳システムの誕生も夢ではありません。

文章によっては下手な翻訳者より正確で読みやすい訳文ができるかもしれません。

「人間にはできない仕事」を、機械が行い、劇的に料金が下がり需要が拡大し、私たちの生活がどんどん便利になっていった・・・、これは18世紀から19世紀にヨーロッパで起きた産業革命以来、常に続いてきた人類の歴史といってよいでしょう。

逆にこの半世紀は「人間にしかできない仕事」を電子機器類が取って代わり、劇的に料金が下がり、私たちの生活がどんどん便利になっていったわけです。

その例を挙げたら枚挙にいとまがありませんが、われわれ翻訳業界にとって身近なところで考えれば、英文タイプや写植やトレースあるいは印刷などの仕事が挙げられます。

1980年代前半、写植機を使って和文タイプを1枚打ってもらうのに数万円のコストがかかりましたが、現在ではワープロを使ってその50分の1から100分の1ほどの金額になりました。

また1890年代には烏口(カラスグチ)やロットリングを使って作図されていたものが、作図ソフトの出現により劇的に料金が安くなり、かつ無限に再生可能となりました。

印刷にいたっては紙そのものが激減してしまいました。

しかし、それにより写植の会社や英文タイプの会社や作図の会社が大もうけしたという話は聞いたことがありません。

料金が劇的に下がることにより、マーケットが爆発的に広がったにもかかわらずです。

つまり「オープン化された膨大な量の翻訳メモリー」とそれをカスタマイズして特定の業界や企業や個人へ発信する”Googlezon”が出現すれば、“簡単な翻訳”の料金は暴落し、現在一般の人たちが何の問題もなくワープロを使いこなすように、web上で無料提供されている翻訳ソフトを使って、とりあえず翻訳をこなしてしまうでしょう。

ここで言う“簡単な翻訳”とは、“それほど正確性を要求されない翻訳”とか“定型文や繰り返しの多い翻訳”とか“専門用語の羅列に近い翻訳”のことを意味します。

これを私は「低価格・低品質の翻訳」と呼んでいます。

これはかなりの潜在需要があるはずです。したがって、この手の「低価格・低品質の翻訳」サービスは、現在翻訳会社やフリーランス翻訳者が形成している翻訳マーケットの中から完全に消滅していくでしょう。


9) 「中価格・中品質の翻訳」

さて、それでは前述の“翻訳者予備軍”が機械翻訳の欠点であるの常識面の欠如をチェックし、補い、使える翻訳商品に仕上げていったらどうなるでしょうか?

「中価格・中品質」―この潜在需要はより莫大なものがあると私は読んでいます。

まさに日本の製造業が世界を制覇した基本戦略が「中価格・中品質」です。

自動車でもオーディオでも家電品でもマニア向け「超高品質・超高価格」の製品を作った会社の多くは倒産し、ライバル会社に買収されていきました。

つまり業種業態を問わず「中価格中品質」は常に一番需要が多いのです。

そこからさらにこれを「中価格・高品質」にもって行った日本のメーカーは新たな需要を創造し、爆発的に売上を増大させていきました。

これを翻訳業界に当てはめて考えれば、” 翻訳メモリーのWikipedia化”と”Googlezon”と“翻訳者予備軍”の3点セットでこの需要を創造していくことになります。

「オープン化された膨大な量の翻訳メモリーとそれをカスタマイズして特定の業界や企業や個人へ発信する”Googlezon”が出現すれば、簡単な翻訳や繰り返しの多い翻訳はもうすでに熟練した翻訳者の仕事ではなくなっているでしょう。

しかし完全に人間の手をかけずに問題のない翻訳ができるのか?となるとはなはだ疑問が残ります。」と以前に書きましたが、「常識」を持たない機械が行った仕事をそのまま鵜呑みにして使えるほど、翻訳という仕事は甘くはありません。

最低でも1度は人間がチェックする必要があります。この仕事はまさに「翻訳者予備軍」のための仕事と言ってよいでしょう。

ある程度の語学力と技術知識ときめ細やかな神経を持つ真面目な人間は「翻訳者予備軍」の中に無数にいるからです。

大量に発生するチェック仕事を“安く迅速に”行える「翻訳者予備軍」は、世の中にある潜在的需要を一層喚起させるはずですが、当然激しい価格競争が予想されます。

そして、この市場において今後“規模の利益”が機能するかどうかはいまだ未知数です。

世界地図を広げてみてください。日本は極東の国で、英国は極西の国です。

つまり、日本語と英語は世界で最も距離のある言語であり「根底を流れる思想が世界で一番違う言語」であると私は考えています。

従って、機械翻訳を使った翻訳の実現はまずヨーロッパ語圏から始まり、順次シルクロードを伝って東へ流れてくるはずです。

「英語と他の欧州語」、「英語とトルコ語」、「英語とロシア語」、「英語とペルシャ語」、「英語と中国語」、「英語と韓国語」、そして最後に「英語と日本語」となるでしょう。

私たち日本人は、他国の状況を見極めながら機械翻訳に備える時間的余裕があるので、今すぐ、いたずらにあわてる必要はありません。


10) 「スーパーリライター」

それでは「中価格・中品質」と「超高価格・超高品質」の間にある「高価格・高品質」の翻訳市場はどうなるでしょうか?

今まで“翻訳メモリーのWikipedia化”を盛んに強調してきましたが、翻訳メモリーを作るのは人間であり、人間にしかできません。

誰かが翻訳しなければ翻訳メモリーはできないからです。

また、「翻訳メモリー+機械翻訳+翻訳者予備軍による翻訳」をリライトしてほしいという需要は必ず残るでしょう。

「正確な翻訳」や「読みやすい翻訳」を求める需要がなくなることはまずあり得ないからです。

私はこのリライトをする翻訳者のことを「スーパーリライター」と呼ぼうと思っています。

ここでも価格競争がおこらないとは言いませんが、「虎のように鋭い、ギラギラした目」を持つ翻訳者がこの飽食の時代にそう増えていくとは思えないので、他のレベル(低品質、中品質)に比べれば、この市場においてはそう激しい価格競争は生じないと私は見ています。

また、翻訳コーディネーターや翻訳チェッカーの仕事は、より重要性を増していきます。

仕事をするのは常に「人間」だからです。

優秀な翻訳者が常に優秀な仕事をするとは限りません。

昔ジェスコーポレーションのあるクライアントが翻訳者の登録制という制度を実施しました。

納品する全ての仕事に翻訳者(およびリライター)の署名を求め、翻訳者ごとに点数をつけ、ランクをつけたのです。

ライバル会社がジェスコーポレーションのAランク翻訳者を何人も引き抜いていきました。

しかし、JESではAランクなのに他社が使うとBランクやCランクになるのです。

引き抜いたくらいですから、当然単価はJESより高いわけですが、そのうちライバル会社も引き抜くのを止めました。

JESのコーディネーターと品質チェックチームによるきめ細やかなフォローとプレッシャーにより、翻訳者も常に気が抜けなかったからでした。

まさに組織の勝利です。

今後、情報過多の時代に玉石混交の度合いはさらに強まっていきます。

良い翻訳者や良い翻訳を見抜く目の必要性は、いつの時代にも変わらないものです。

この項の最後に一言だけ付け加えておきます。

ダーウィンの「種の起源」の中に、次のような言葉があります。

「強いものが勝つわけではない。
賢いものが勝つわけでもない。
変化するものだけが勝つのである。」