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技術翻訳プロフェッショナル講座 「翻訳の真髄」


5 Digital Computer Electronics 英文和訳
【問 題】 次の英文を和訳してください。

Computer architecture depends on the application. If a computer is to be timeshared (used by many people at the same time), it will be large, powerful, and expensive. On the other hand, a computer dedicated to only one program is usually small, limited, and inexpensive (like a microcomputer).

The SAP (simple as possible) computer has been designed for you, the beginner. The main purpose of SAP is to show you all the crucial ideas behind computer operation without burying you in unnecessary detail. But even a simple computer like SAP covers many advanced concepts. Rather than bombard you with too much all at once, we will examine there different generations of the SAP computer.

SAP-1 is the first phase in the evolution toward modern computers. Although primitive, SAP-1 is a big step for a beginner. Really dig into this chapter; master SAP-1, its architecture, its programming, and its internal circuit operation. Then you will be ready for SAP-2.


【解説】
今回は、コンピュータのしくみについての本 Digital Computer Electronics by Albert Paul Malvino(マグローヒル社刊)から抜粋しました。まず、語句の意味から考えてみましょう。 

・Computer architecture: これはそのままコンピュータ・アーキテクチャでよいでしょう。強いて訳せば、コンピュータの構築(構造)ですが、かえってわかりにくいと思います。マイクロプロセッサの設計方式とでも言ったほうが良いでしょう。具体的には、ワードのビット数、レジスタの数はどうか、蓄積プログラムはどんなものか、どんなサポート回路が必要か、インターフェースはどうか、試験方法、保守の要件をどうするか、その他の動作機能はどうか、などのマイクロプロセッサの構築条件です。 

・application: 用途。情報処理関係では適用業務と訳されることが多い。文脈によってはアプリケーションと書かれて、業務処理または問題解決のプログラムをさすこともあります。この語の動詞形はapplyですが、この用法で一つだけ注意すべきことを、ついでに述べますと、例えば「本仕様書は電子回路部品の購入に適用される」という和文を英訳せよ、という問題が与えられたとして、皆さんはどんな訳文をまず頭に思い浮かべますか? This specification is applied to the purchase of electronic circuit parts. と考えた人は、英和辞典をひいてみてください。この動詞は自動詞として使われることもありますが、その時の訳文は「適用される」とあります。従って、正解は、This specification applies to the purchase of electronic circuit elements. です。(partsとelementsはここでは同義です)。  

・timeshared: 「時間分けされる」あるいは「時分割される」と訳せばよいでしょう。時分割にあたる英語は、time divisionやtimesharingです。この反意語は、space division(空間分割)です。本問では一つのコンピュータ(こういう場合はcentral processing unit-CPUを指しています)が、時間的に分割されて、多くの人、すなわちその人たちの行う仕事またはデータ処理にほぼ同時に使われることを意味しています。なぜこういうことをしようと考えるようになったのかと申しますと、コンピュータ・システムの入出力装置の動作速度がCPUの動作速度に比べて非常にのろいためです(because there is a wide disparity between their operation speeds)。 つまり、入出力装置の動作中、CPUは仕事を一瞬のうちに終わり、次のデータが入力され、または処理結果が出力されるまでの間、遊んで待っていなければならないということが起こります。CPUの動作時間は一つのジョブの実行だけに使うものとすれば、動作している時間よりも遊んでいる時間の方がずっと多いことになり、CPUの効率的利用という面から不経済ということになります。そこで、CPUの利用可能な時間を分割して、いくつかのジョブを並行して走らせるというアイディアになったものだと思います。ここでいうジョブとは一連のプログラムの流れでひとつのまとまった業務を処理する場合に、そのプログラムのグループに対して名付けられた言葉です。 

・dedicated: 専用の。動詞のdedicateは、1. 奉納する, 2. (生涯を)ささげる、事業に専念する、 3.(著書、作品などを)献呈する、などの意味があります。2.の意味で使われた例文を一つ挙げますと、JES is a company of dedicated translators. です。ここではa computer dedicated to only one program ですから、一つだけのプログラム実行専用のコンピュータとなります。
 
・limited: 限られた、わずかの、というのがこの語の意味です。前のpowerful (強力な、高性能の)に対して使われた語(形容詞)ですから、「限られた性能の」というような意味に訳せばよいでしょう。 

・simple as possible: できるだけ簡単な。この英語句の頭文字をとって、覚えやすくするために、computer にSAPという名前をつけたわけですが、このように各語の頭文字をとって出来上がる語のことを acronym (頭文字)といいます。その代表的な例は laster=light amplification by stimulated emission of radiation です。ついでに、各語の頭文字をとるかどうかには関係なく、たとえばコンピュータの instruction (命令)を覚えやすい形にしたものは mnemonic instruction code (ニューモニック命令コード)といい、各種の名前を覚えやすくしたものをmnemonic, また覚えやすい形の記号を mnemonic symbol とか mnemonic code とか呼んでいます。

・crucial: 重要な、重大な、決定的な、(少し変わって)厳しい、苦難の(trying)というような意味のある形容詞です。crucial ideas behind computer operation の中の behind はここでは「の」と訳しておいてよいでしょう。すなわち、コンピュータ動作の重要な概念、というような訳でよいでしょう。「半導体技術のすばらしい革新はたえずコンピュータ発展の原動力となってきた」という和文があったとします。それを筆者は次のように訳しました。 The remarkable semiconductor revolution has been a continual driving force behind computer development. 例文を暗記しておくと、和訳・英訳の両方の場合に役立つことが多いものです。

・without burying you in unnecessary detail: あなたを不必要な詳細な事柄に埋没させることなく→あなたをあまり細かいことに深入りさせないで。 bury (ブューリーと読まないでください)正確な発音とアクセントの位置をその都度、各語について確実に覚えていくことにしましょう。[béri]と発音します。辞典の語義で最初に出ているのは、埋葬する、です。二番目に、埋める、埋蔵する。三番目に(おおい)隠す、です。以下は省略します。

・many advanced concepts: 多くの進んだ概念。さきに idea と使ったので、ここでは concepts という語を使ったのでしょう。 Random House の英英辞典によりますと concept: a general notion or idea です。

・bombard: ?砲撃(爆撃)する、?質問[不平・嘆願]攻めにする、?<原子などに>衝撃を加える、などの意味が辞書に出ています。本問の文脈では?の意味にとります。?の意味で使われるこの語の用例は下記のようになります。

「試料に電子線を照射すると試料の表面から2次電子が発生するが、2次電子の発生率は物質・試料形状によって変化する」

The surface of a sample bombarded by an electron beam emits secondary electrons at a rate depending on the sample shape and material.

・all at once: みんな一緒(同時)に、突然に、たちまち、などの意味を持つidiom(慣用句)です。研究社の『新英和中辞典』の例文をあげますと、Don’t all speak at once. 「みんな一緒に話してはいけない」です。 

・generation: 世代。両親の誕生からその子供の誕生までの期間と、一般に受け取られている期間。 

・the first phase: 第1段階 

・the evolution toward modern computers: 現代コンピュータへの発展/進展。evolutionには他に、(生物の)進化、(熱、光などの)放出、(軍の)機動演習、などの意味が辞書に出ています。

・primitive:原始の、初期の、幼稚な、素朴な、などの意味を持つ語です。そして本問でもこういう意味の訳を行なうわけですが、辞書に、根本の、基本の、という意味も出ていることにも注意しておきましょう。また、このことは一般的に言えることですが、辞書を尊重すると同時に「辞書は万能ではない」または「全てを載せている辞書などあるはずがない」ということも、英語を学ぶ者として覚えておきましょう。その場、その局面でピッタリした語句なり表現は自分が造り出すのだ、ということを銘記しておきましょう。なぜならば、辞書は常にわたくしたちの言語生活、あるいは第一線の研究者達のずっと後からついてくる、いつでも時代遅れの宿命を負わされているものだからです。

・step: 進歩、前進、進捗、はかどり、段階など。もちろん第一番目の意味は歩み、歩です。足音という意味もあります。辞書で調べてください。その他いろいろの意味がでています(辞書を引くのは楽しいものです)。
 
・dig into: [米語]<仕事・勉強などを>熱心に始める、と辞書にあります。 

・master: <一芸・一道に>熟達する、十分に習得する、と他動詞としての一つの意味が辞書にでています。 

・programming: プログラム作成、と一語で訳せますが、具体的には、プログラムを設計し、書き、テストすること、です。 

・internal circuit operation: 内部回路動作 


以上で語句の説明は一応終わりにして、次は全体を直訳してみましょう。

[直訳]
コンピュータ・アーキテクチャはその用途に依存します。もしコンピュータが時分割(同時に多くの人に使用)されることになっているならば、それは大型で、強力で、かつ値段も高いでしょう。一方、ただひとつのプログラム実行専用のコンピュータは通常は(マイクロコンピュータのように)小形で、性能的に限られていて、かつ値段も安いでしょう。
SAP(できるだけ簡単な)コンピュータはあなたがた初心者向けに設計されました。SAPの主な目的は、あなたがたを不必要な詳細な事柄に埋没させることなくコンピュータ動作の重要な概念をすべて示すことです。しかし、SAPのような簡単なコンピュータでさえも多くの進んだ概念を網羅しています。一度に多すぎる情報であなたを攻めるよりも、むしろわたくしはあなたとともにSAPコンピュータを三つの異なる世代に分けて調べていきたいと思います。
SAP-1はコンピュータが現代のコンピュータまで発達していく過程での第一段階です。SAP-1は発達の初期段階のものですが、初心者にとっては大きな前進となるものです。本章を本当に熱心に勉強してください。すなわち、SAP-1のアーキテクチャ、プログラム作成および内部回路動作を十分に習得してください。そうすれば、あなたはSAP-2へ進む用意ができたことになります。

以上で直訳は終わりです。訳文を工夫していくにあたり、もう少し翻訳の難しさ、あるいは不可能性について考えてみましょう。例えば、SAP (simple as possible) です。このカッコの中を「できるだけ簡単な」と訳してしまうと、日本語で読む人達はなぜSAPがそう訳されるのかがわかりません。すなわち、SAPは何かの頭文字であるという情報を日本人読者に伝えることができません。したがって、多くの日本人読者は英語をある程度理解できるという前提に立ち、SAP (simple as possible) とそのままの形にしておいたほうが、むしろ原文の情報が伝わるのではないか、という考えも成り立ちます。しかしそうなると、英語のわかる人達へなぜ翻訳してあげなければならないのか、ということに議論は発展してしまいます。これは一例に過ぎませんが、「100%完全な翻訳は不可能だ」ということになり、以前にも書きましたが、“The translator should be a counterfeiter.” となるのだろうと思います。

それにもう一つ、訳しづらい「youという人称代名詞」が本文中に出てきます。著者から読者への親しみのある呼びかけを訳出することはできませんが、日本語ではあまり「あなた」と本の中で読者に呼びかける習慣がありませんので、以下の[訳文]では「読者」として訳しておきます。 

[訳文]
コンピュータ・アーキテクチャは用途により異なります。時分割用、すなわち多くの人が同時に使用するコンピュータは大型・高性能で高価になりますが、ひとつのプログラムを扱うだけのマイクロコンピュータは、小型で性能も限られていて低価格となります。

英語で「できるだけ簡単な」という意味の句(simple as possible)の頭文字をとって作ったSAPという名前のコンピュータは、コンピュータを初めて学ぶ読者を対象に設計されたものです。 その主な目的は読者を不必要な細かなことに深入りさせないで、コンピュータ動作の基本となる概念をすべて示すことにあります。SAPは簡単なコンピュータですが、これによって多くの進んだ概念を説明できます。筆者は一度に盛りだくさんの情報を読者に示すことをやめ、SAPを三つの世代に分けて、ひとつひとつを読者とともに調べていくつもりです。

SAP-1はコンピュータが現代のコンピュータまで発展していく過程での第一段階であって、極めて初歩的ではありますが、初めてコンピュータを学ぶ人たちには大きな進歩をもたらすものです。本章をよく勉強してください。具体的にはSAP-1のアーキテクチャ、プログラム作成、および内部回路動作を十分に習得してください。そうすれば、読者はSAP-2へ進む用意ができたことになります。