Column
| 第85回 ダイビングについて(前編) |
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| <質問> 本螺先生、こんにちは。ずいぶん暑くなってきましたね。今年、関東の梅雨明けは7月の後半じゃないか、と朝の情報番組でお天気コーナーのお姉さんから聞きました。きっと、海開きは、その後ですよね。私は、海で泳ぐのが好きなので、待ち遠しいです。と言っても、泳ぐのは好きなのですが、息継(いきつ)ぎが下手で、距離も時間も、そんなに長くは泳げません。いつかは、イルカと並んで、一緒にスイスイ泳ぎたいのですけど。そんな話を友達にしたら、「だったら、先にダイビングでもやれば?」と言われました。確かに! 実際に、TVや映画にあるような、きれいな海の中を自分の目で見たら凄いんだろうなぁと思います。でも、海に流されて遭難(そうなん)したり、死亡事故もあったりすることを考えると、やっぱり躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。少しは泳げるので溺(おぼ)れないと思うのですけど、陸地から離れた海に取り残されたり、海中に潜っているときに何かあったりしたら、と思うと怖くなります。やっぱり、憧(あこが)れのイルカやクジラのような、海の哺乳類って凄いですね。私たち、ヒトや陸上の哺乳類とは、身体の作りが違うのでしょうか?(神奈川県 M.N.)
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| <回答> M.N.さん、ご質問ありがとうございます。梅雨明けですが、日本気象協会(注1)が、7月2日付けで発表した予想によれば、関東甲信は、7月20日となっていますね(※)。ちょうど、今年の「海の日(2026年7月20日)」に重なっています。「海の日」は、7月の第3月曜日の祝日ですから、土曜日から3連休!お天気が良いことを期待したいです。
ちなみに、実際、海に入るかは別にして、梅雨明けと海開きは関係ないようです。例えば、M.N.さんがお住まいの神奈川県だと、有名どころの海水浴場は、早々に海開きしているようですよ。 ●片瀬江ノ島: 7月1日 ~ ●逗子海岸 :7月3日 ~ ●由比が浜海水浴場:7月1日 ~
ちなみに、日本で初めての海水浴場、「海水浴場発祥の地」は、M.N.さんがお住まいの神奈川県、大磯海水浴場ですよ。今年(2026年)は、7月12日が海開きだそうです。 わりと新しい文化だった「海水浴」 意外かもしれませんが、日本における「海水浴」が一般的なレジャー(leisure, 余暇の楽しみ/趣味の活動)になったのは、そう古くありません。なんせ、大磯に初めての海水浴場が開かれたのが、明治18年(1885年)と言います。初代陸軍軍医総監にして陸軍軍医本部御用掛(後の陸軍省医務局局長/軍医に関する一切の権限を持つ実質的な最高権力者)である、松本順(松本良順)が開設しました。松本順は、江戸末期から明治にかけて、幕府の奥医師(今で言う厚労省の医官)や将軍の侍医(専属医)、新政府の医官を歴任し、日本の近代化に沿った、西洋医学の普及/発展に貢献したことで有名です。 公衆衛生の考えを広める過程で、肉食によるタンパク質摂取の重要性や、牛乳の摂取を進めたことでも知られているのですが、彼が広めようとした、当初の「海水浴」は、病気の治療/保養/健康増進が目的でした。ですから「温暖な気候と遠浅の海」として、大磯が選ばれたようです。松本順は、温泉での入浴法にも積極的に取り組んだそうなので、海水浴も、その一環(いっかん)だったのでしょうね。 というわけで、実のところ「海開き」は、古来より続く文化ではありません。おそらく、近年になって、山岳信仰(さんがくしんこう)における「山開き」に肖(あやか)ったのでしょう。一方、山開きは、古い神事/祭礼で、修験者(しゅげんじゃ)や僧侶(そうりょ)たちの宗教的な修行の場である山岳を一般に開放するときに行います(注5)。平たく言えば「安全祈願(きがん)」ですね。「海開き」も、海難事故の防止を祈(いの)って、取り入れたのではないでしょうか。
ダイビングは危険? さて、警察庁の資料によると、令和6年(2024年)の水難事故は1535件で、死者/行方不明者が816人、その内、海難事故によるものは、372人でした。スキューバダイビング(scuba diving,※)が原因であるのは16人とのことです。そもそも、海で亡くなる/行方が分からなくなる方は、大人/子ども含め、毎年300人台半ばから400人弱おられ、その内の10名強~20名弱は、スキューバダイビングが原因だそうです(※※)。これを少ないと見積もるか、多くの命が失われている!と考えるかは、私には判断の難しいところです。しかし、海に限らず、水難事故としては、毎年、「水遊び」で40人強~70人弱、「釣り/魚とり」で200人前後が亡くなることを踏まえると、ことさら「スキューバダイビングは危険」とも言えない気がします。
ただし、やはり危険が伴(ともな)うことは事実ですから、業界団体の「Cカード協議会(注6)」は、起きた事故の情報は詳(つまび)らかにしています。もちろん、被害者/関係者の個人情報には触れません。ただ、「もし自分だったら、どうするか/どうしたらいいのか」を考える機会と資料を提供する意味合いがあるのでしょう。
実は本螺も経験者 スキューバダイビングは、基本手順やルールが明確で、とても安全に配慮(はいりょ)しています。個人的には、レジャーとして、それほど怖がることはない、と考えています。というのも、実は、私、若かりし頃にスキューバダイビングを体験しているのです。かれこれ20年以上前になりますが(苦笑)。当時の私は、とても疲れて、気が抜けていました。というのも、ようやく修士論文(master's thesis)を書き上げて、大学院の修士課程(a master's course of a graduate school)の卒業を取り付け、博士課程(doctor's course)への進学も決まったところだったからです(※)。
そんな、ぐったりしていた私に、旧友から、何とも風変わりな、日本の切手が貼られたエアメール封筒が届きました。
はてさて?と封を開くと、殴り書きで、
なんと! しばらく姿を見ないと思ったら、そもそも日本にいなかったとは……。なるほど、資格を取るための勤め先( しかも海外!)で、仲良くなった日本のお客さんが、帰国後に投函(とうかん)してくれた、と。 だから「日本の切手で、エアメール」だったのですね。いやはや。 驚きながら、続きを読むと、
おぉ! 南海の孤島かぁ……。 ひととき研究から離れて、久しぶりに羽を伸ばせる春休みです(※)。
南の暖かい海に、疲れた心と身体をプカプカ浮かべる誘惑に駆(か)られた私は、パスポート(passport, 旅券)と10日往復の航空券(Air ticket)を握りしめ、大き目のバックパック(backpack)を背負(せお)って、国際便の飛行機に乗ったのでした。もちろん、旅行会社のツアー(tour)でもなければ、何の予約もしていません。「行けば何とかなる!」と、友人が寄越(よこ)したエアメールに畳(たた)まれた、手描きの地図が頼りの一人旅。しかも、なんと、これが初の海外旅行でした。振り返れば、無謀極(むぼうきわ)まりない冒険ですね。いちおう、簡単な現地語の会話本とガイドブック「某国の歩き方」は、航空券を手に入れる道中の本屋さんで買って、行きの機内で読みましたけど、いやはや、”若さ”でしたね(苦笑)。 現実逃避(escape from reality)の勢いで飛んで行った南の島では、友人に「まさか本当に来るとは!」と大笑いされました。そして「せっかくなら体験していけば?」と勧められたのが、私の「スキューバダイビング初体験」だったのです。ちなみに、最初は興味も薄くて、ただボンヤリと海に浮かぶはずだったのが、あまりに透明な海の美しさに舞い上がり、調子に乗って、30 mまで潜っても大丈夫な「中級コースの”Cカード”」まで取ってしまったというオチが付きます(初級コースは水深18 mまでの制限付き)。 スキューバダイビングについて 閑話休題。そもそも「スキューバ(スクーバ, SCUBA)」は、”Self-Contained Underwater Breathing Apparatus(自給式水中呼吸装置)”のイニシャル(initial, 頭文字)を並べた頭字語(acronym, アクロニム, ※)です。つまり、元は「潜水器具」を意味したのですが、今では「スキューバ」あるいは「ダイビング」だけで、潜水器具(器材)を使ったダイビング、スキューバダイビングを意味し、あまりに一般名詞化したことから、小文字で”scuba”と綴(つづ)ることが、ほとんどです。
特殊な訓練は別にして、水中で自在に活動したいという遥か昔からの想いは、空を飛ぶ鳥への憧れに並んで、人々に様々な工夫を産み出させてきました。そのような技術の結晶が、スキューバダイビングで使う器材です。ざっくりと以下のようなものがあります。
こうした器材は、もちろん本格的な趣味とするなら、自分の身体のサイズと好みに合った物を購入すればよいのですが、総じて高価です。気軽に試したい/偶(たま)にしかやらないのであれば、多くはショップでレンタルできます。私が初めて体験したときは、全てレンタルしましたが、2回目からは、視力が悪いこともあって、度付きレンズ(corrective lens)に入れ替えたマスクだけは、自前で購入しました。 素潜りの超人たち 様々な器材を用いることで、多くの人が気軽に楽しめるスキューバダイビングですが、基本的な「ダイビング(潜水)」ができれば、さらに安全です。もし何かあっても、落ち着いて対処(たいしょ)できますからね。と言っても、特別な訓練が必要なわけではなく、周囲の安全を確保した上で、できれば経験者と共に、リラックス(relax)して行えば良いと思います。スキューバダイビングでもそうですが、決して独りにならないことが、水難事故防止の鉄則です。 さて、ダイビングの基本は、「大きく息を吸い、吐かずに我慢して、水中に潜る」こと、いわゆる「素潜り(すもぐり, skin diving)」ですが、極(きわ)めれば、古代より続く、海中から食料や資源を採集する漁業の技術でもあります。日本では、海女(あま, Ama / Japanese sea women)と呼ばれる、潜水漁業の従事者が有名ですよね。ちなみに、歴史的には、アマを「海人/海士」と書くこともあって、必ずしも女性だけを意味しませんでした。そもそもが「あをうみ(青海)に、すまふもの(住む者)」の略称のようで、つまり「船を家として、海上に居住する人々」を指したようです。
同じ「素潜り」でも、現代になって、無呼吸での潜水深度/泳続時間/泳続距離を競うスポーツである「フリーダイビング(freediving)/アプネア(ラテン語:apnea, 無呼吸)」が始まりました。一般には、健康な成人であれば、少し練習すれば水深 5 ~ 7m 程度は潜水可能と言われていますが、フリーダイビングの選手たちは、特別な訓練を繰り返して、肺活量と体内の酸素貯蔵量を高め、代謝を下げて酸素消費を抑え、二酸化炭素への耐性を高めることで、私たち素人からすると、とんでもない記録を打ち立てています。そんな、超人たちの記録を一部、以下に記しておきます。
もちろん、レジャーとして楽しむ私たちの目標ではありませんが、ヒトも頑張れば、ここまでできるのか、と驚いていただけたのではないでしょうか。 さて、次回の後編では、素潜りのときに私たちの身体の中で起きていることと、M.N.さんが憧れる海生哺乳類(海獣(marine mammals))との違い、そしてスキューバダイビングをしているときの身体の変化と注意などに触れてみたいと思います。 |
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