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Column


第16回 アレルギーについて
<質問>
長い梅雨が明けたと思ったら、途端に猛暑が続きますね。極端な気候の変化のせいなのか、体の調子もイマイチです。お盆休みの少し前から花粉症になってしまいましたし、大好きだった魚介類が、急に食べられなくなってしまいました。お医者さんには、どちらもアレルギーだと言われました。

花粉症はまだしも、今さら食べ物のアレルギーに罹るなんてショックです。卵や小麦粉などのアレルギーは、子供の頃から見聞きしていたのですが、大人になってからでもアレルギーになるのですね。そういえば、友達は、大人になってから金属アレルギーになったと言っていました。

アレルギーって不思議ですね。何だか、よく分かりません。(神奈川県 N.M.)
(2020年8月)
<回答>
そもそもアレルギーってなに?
N.M.さん、ご質問ありがとうございます。実は、アレルギー(allergy)については、症状の個人差が大きく、よく分かっていないことも多いです。

N.M.さんもご指摘のように、一口にアレルギーと言っても病態が幅広いのですが、ざっくり説明すると「本来、異物を排除することで身体を守る免疫機構が、逆に身体に悪い影響を与えている状態」と言えます。

免疫については、以前のコラム(第11回と第13回)で少しだけ触れました。おさらいしておきましょう。

まず初めに、白血球などの「自然免疫系」が、非特異的に異物を排除します。次に、特異的な異物を排除するシステムである「獲得免疫」が機能します。

 

獲得免疫では主にリンパ球(T細胞やB細胞など)が働くのですが、役割分担として、T細胞が異物を分析して抗原(antigen)を見つけ、B細胞は、その抗原を目印にして、抗体(antibody)を作ります。

抗体は、この特定の抗原に結合する抗原抗体反応(antigen-antibody reaction)によって異物の排除を開始するのです。

アレルギーは害をなす免疫反応です。アレルギーを引き起こす抗原(および、それを含有するもの)は、アレルゲン(allergen)と言います。allergyとantigenの合成語ですね。

4種類のアレルギー
冒頭で触れた「アレルギーの病態が幅広い」ということは、すなわち「アレルゲンとなる対象物質が数多くある」ということですが、メカニズムに注目すれば、大きくⅠ型からⅣ型の4種類に分けられます。最近はⅡ型の亜型を分けて5種類とすることもあります。

Ⅰ型アレルギー「即時型」とも呼ばれ、アレルゲンを取り込んでから15~20分で発症による反応が最大になります。

特に、全身性で劇症なものをアナフィラキシー(anaphylaxis)と言い、時に呼吸困難やショック状態にもなります。

余談ですが、医学用語の「ショック」は「ビックリした!」という意味ではなく、全身で急激な血圧や血流の低下が起きることを言います。当然、適切な処置を施さなければ、重要臓器の機能障害や細胞死を引き起こして、死に至ります。治療にはアドレナリンの筋肉注射が有効で、医療機関外ではエピペン(商品名)をよく使います。

代表的なアレルゲンは、食物や花粉、昆虫(蜂や蟻、ダニなど)、薬剤(抗菌薬や造影剤など)、ハウスダスト、真菌(カビなど)などです。特殊なタイプでは、高温・低温刺激や運動、日光などが組み合わさったときに生じることもあります。

Ⅱ型アレルギーⅢ型アレルギーは、一種の自己免疫疾患です。Ⅱ型では自分自身の細胞に抗体が結合し、Ⅲ型ではアレルゲンと抗体などの結合したもの(免疫複合体)が別の組織に沈着したために生じます。

Ⅱ型では不適合輸血や薬物による溶血性貧血が、Ⅲ型では急性糸球体腎炎(扁桃炎・咽頭炎の溶連菌がアレルゲンとなって腎臓に沈着)や過敏性肺炎(気管や間質で有機粉塵などがアレルゲンとなって肺全体に沈着)が代表的な疾患です。他にも、様々な難病が該当します。

Ⅳ型アレルギー「遅発型」とも呼ばれ、24~72時間で発症による反応が最大になります。

Ⅰ~Ⅲ型が抗体を中心にした「液性免疫」であったことに対し、Ⅳ型は感作T細胞の働きによる「細胞性免疫」であることが特徴です。

感作T細胞は、特異的なアレルゲンに強く反応して、生理活性物質を分泌します。それによってリンパ球が集合し、組織に炎症を生じさせます。

代表的な疾患には接触性皮膚炎(漆や金属など、様々な物質による「かぶれ」)や移植免疫(いわゆる拒絶反応)、ツベルクリン反応(結核菌に対する免疫の確認)などがあります。

ちょっとやっかいな「交差反応」
ここまで、駆け足でアレルギーについて概観してきました。色々なアレルゲンがありますが、中には思いもよらぬところに、同じアレルゲンのあることもあります。これを交差反応といいます。

簡単に説明すると、一見異なるものが、実は、よく似た(あるいは同じ)抗原であるために免疫反応を生じることです。以下に幾つかの例を挙げてみます。

たとえば花粉症の場合、異なる植物の花粉に反応することがありますし、場合によっては異なる植物の果実に反応することもあります。

 

有名な例では、ブタクサの花粉症でメロンやスイカに反応したり、カバノキ科の花粉症でリンゴやモモに反応したり、ラテックス(天然ゴム)のアレルギーでクリやバナナ、アボカド、キウイフルーツに反応することがあります。

金属アレルギー
N.M.さんのご友人が罹られた金属アレルギーですが、実は、金属そのものはアレルゲンではありません。正確には、イオン化した金属がある種のタンパク質と結合したものが、アレルゲンになっています。

たとえば、アクセサリーの金属部分がイオン化する(汗に溶けた)ことが一因です。意外なところでは、革製品(なめすときに金属を使います)やポケット内の硬貨に反応した例もあります。

よく「金やプラチナでは金属アレルギーにならない」というのは、科学的に安定でイオン化しにくいためですね。

アレルゲンとして多い金属はニッケル(Ni)やコバルト(Co)、スズ(Sn)、クロム(Cr)あたりですが、食物と交差反応が生じることがあります。

特にニッケル、コバルト、クロムを多く含むのがチョコレートです。さらに納豆には4つの金属全てが多いという資料もあります。健康に良いとされる納豆ですが、金属アレルギーの方はご注意です。

サーファーは納豆アレルギー?

 

納豆といえば、2000年以降と比較的新しく解明された交差反応があります。湘南のサーファーに納豆アレルギーが多い、という話から見つけられたアレルギーで、なんと大本はクラゲの刺傷でした。

実は、クラゲの刺胞が射出されるときに用いられるγポリグルタミン酸(γ‐polyglutamic acid, γ‐PGA)は、納豆の糸(いわゆるネバネバ)の成分なのです。

自然は不思議ですね。PGAがアレルゲンであることは、大豆をテストしただけでは気が付きません。最近はPGAを添加した食品などが販売されているので、PGAアレルギーの方は注意が必要です。

さて、最後は納豆の悪口みたいになりましたが、私自身は納豆が大好きです。クラゲに咬まれないように気を付けたいと思います。