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Column


第4回 熱中症について
<質問>
今年は一段と暑さが堪えますね。外を歩くと汗が止まりません。私が子供の頃は、今よりは暑くなかったと思いますし、まして熱中症で亡くなる人なんて、ほとんど聞いたことがありませんでした。

そこで質問なのですが、実際のところ、熱中症で亡くなるとき、私たちの身体の中では何が起きているのでしょうか? もしかして、今と昔を比べて私たちは暑さに弱くなったのでしょうか?(神奈川県 S.U.)
(2019年8月)

<回答>

S.U. さん、ご質問ありがとうございます。今年は特に梅雨が長かったせいか、蒸し暑さが辛いです。S.U. さんがおっしゃるように、確かに、昔よりも夏は暑く長くなっているようですね。

平成30年の6月に気象庁が公表した「ヒートアイランド監視報告2017」を参照すると、日本の気温は過去100年間で上昇しているようです。

中でも都市部の温暖化は著しくて、例えば東京の年間平均気温は100年前と比べて3.2度も上昇していますし、S.U. さんがお住いの神奈川県における都市部の代表として、横浜市の年間平均気温は2.8度も上昇しています。

熱中症と日射病
さて、私も昔は、熱中症より「日射病(熱射病)」の方をよく耳にしていたように思います。実をいうと、熱中症とは包括的な概念で、高温多湿な環境下で生じる不適応症状の総称です。つまり、日射病は熱中症に含まれる病態というわけです。

近年、熱中症を耳にすることが多くなったのは、住環境が変わったせいで、夜間に発症して救急で運ばれることが増えたから、かもしれません。地球温暖化のようなことを軽々に論ずるのは、分を越えるので控えますが、私たちの住環境が昔よりも著しく変化していることは間違いありません。

 

高齢者に多いのですが、「エアコンは体に悪い」という俗信から夜の就寝時にエアコンを切ってしまうことが熱中症の大きな原因にもなっています。特に体温調節の未熟な5才以下の幼児や、身体の水分量が減っている65才以上の高齢者には、注意が必要です。

地球環境とお財布に配慮することも大切ですが、まずは健康あってのお話であることは意識しても良いのではないでしょうか。

日射病、熱失神、熱痙攣、熱疲労
それでは、熱中症について、簡単に説明しましょう。
先に述べたように、熱中症には、日射病の他、熱失神と熱痙攣、熱疲労が含まれます。

まず、日射病は、直射日光などによって体温が上昇し、大量の発汗によっても体温調節が効かない状態のことです。特に、体温が40度を越えて意識障害を起こした上に無発汗で、むしろ皮膚が乾燥するほどになったものを熱射病といい、ここまでくると命も危ぶまれる状態です。

熱失神は、日射病ほど酷くはないのですが、意識を失うという意味では怖い症状です。原因としては、高温における発汗過多からくる脱水症状に加えて、放熱を目的とした末梢血管の拡張から血圧が低下し、脳に循環する血液が足りなくなることが挙げられます。

熱痙攣も、四肢の痙攣や硬直といった症状がパニックに繋がりやすいため注意が必要な症状です。原因としては大量の発汗に伴って失われた電解質(ミネラル)が補充されていないことが挙げられます。ようするに水分だけ補給して、ミネラル分が極端に薄まった状態なわけです。

最後に熱疲労ですが、これは発汗によって体表温度は正常なのですが、深部体温(身体の内側中心の温度)が高いまま下がっていない状態のことです。脱水によって血液の量が一過性に少なくなったことから、血液循環が悪くなり、深部の熱を体表まで運べないために引き起こされると考えられます。

総じて、熱中症のときには、体内の水分や電解質の量がアンバランスになって、体温が高くなりすぎた状態をコントロールできなくなっているわけです。

ホメオスタシス
そもそも私たちの身体では、様々な調節が複雑なメカニズムで働いています。特に、体温などのように、一定の範囲内に体内環境の変動を押さえるような調節機能をホメオスタシス(Homeostasis、恒常性)といいます。

体温の他には血液や体液、中でも血圧や浸透圧、pH、カルシウム濃度、血糖などがホメオスタシスで調節されています。

またホメオスタシスには、広義の免疫機能(異物の排除)や創傷の修復なども含みます。ようするに、外部環境の変化によって及ぼされる体内環境への影響を最小限にするためのメカニズムといって良いでしょう。

それぞれのメカニズムについて説明することは、ここでは煩雑になりすぎるので、個別の機会に触れることにします。いずれ個人差はあるにせよ、外部環境の影響が大きすぎて、ホメオスタシスの能力を越えてしまうことが、病気の原因の一つといって良いでしょう。

人間は暑さに弱くなっている?
S.U. さんの、もう一つのご質問ですが、私たちが後天的に暑さに弱くなっている可能性については、今の子供たち世代にはありうるかもしれません。というのも、汗腺の数は新生児から幼児期にかけての生活環境で決まるそうなのです。

つまり、温度変化の少ない室内で過ごしてばかりいると、汗腺の数が減るため、体温調節が下手になるというわけです。もちろん世代に特有と言うわけではなく、私達、大人世代でも、快適すぎる環境で育ってきた人は同様です。

 

結局のところ、子供の頃から適度に汗をかく体験をすることには、キチンとした意味があるということです。とはいえ、ものには限度がありますから、ホメオスタシスの効く範囲の環境で、水分やミネラルを適度に補充しながら、熱中症を予防してくださいね。