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第26回 動物の言葉
<質問>
最近、ネコを飼いはじめました。うちの子はオスなんですが、すごくイケメンで可愛くて、すっかり親バカになってしまいました。頭も良くて、名前を呼んだら「ニャーン」と返事してくれるし、私が落ち込んでいたら慰めてくれたりもします。

でも、友達からは「それって、一方的に話しかけているだけでしょ?」と笑われてしまいました。私は、この子と、ちゃんと会話できていると思うのですが、先生は、どう思いますか? 人間みたいに話せなくても、動物だって言葉を理解できますよね? 動物同士でも、意思の疎通はあるはずだし、どうなんでしょうか。(神奈川県 S.H.)
(2021年6月)
<回答>
S.H.さん、ご質問ありがとうございます。ペットは良いですね。お話を伺うだけで、思わず笑みがこぼれます。さて、S.H.さんとネコくんとの会話ですが、個人的には「成立している」と思いたいですね。

もう20年近く前に亡くなってしまったのですが、私も実家でマルチーズを飼っていました。ブラシを持って「キレイにするよ!」と声をかけると「ワン!」と鳴いて膝に乗ってきたり、ブラシをかけると「クーン!(うーん、そこそこ!)」という甘えた声で鳴いたりするんです。ごはんを準備しているときの「ハッハッハッ(食べたい!早く、早く!)」という急かした声や、悪戯した後で怒られたときの「ヒューン……(ゴメンなさい……)」という反省している声も可愛くて、しょうがなかったです。

しかし残念ながら、多くの場合、こうした人間と動物との会話は人間側の一方的な思い込みに過ぎなくて、動物側からは「条件反射(conditional reflex)」に近いものと解釈されます。

動物側は、私たちの使う言葉など知りません。彼ら彼女らにしてみたら「目の前の、この偉そうなヤツは、何なの? まぁ、好きだけど」とか「ゴハンくれる!遊んでくれる!大好き!」という気持ちが主で、私たちの行動に対して「嫌だ!」「怖い!」「嬉しい!」「良かった!」と感情的かつ反射的に行動しているだけなのでしょう。

ましてや「言葉の意味」なんて、何のことか「意味不明」でしょう。とは言え、飼い主の声色を聞き分けたり、表情の変化を読み取ったりすることはできているようです。ただし、動物たちの言葉が分かるドリトル先生ならば、「そんなことないさ。もっと動物たちは饒舌だよ!」と笑って訂正されるかもしれませんが。

 


ドリトル先生は口先だけの怠け者?
ドリトル先生の綴りは「Dr. Dolittle」。「Dolittle」は「Do little」、つまり口先だけの怠け者という意味なのですが、これだとドリトル先生はヤブ医者ということ? 優れた獣医の代名詞という割には、不思議な気がします。

実は、この奇妙な名前の由来は、ドリトル先生のモデルの一人と言われているジョン・ハンター(John Hunter, 1728-1793)が従軍外科医をしていたときの渾名にあると思われます(ドリトル先生のフルネームは「ジョン・ドリトル」)。

本コラムの筋から外れるので詳細は控えますが、18世紀当時の医学は中世からの迷信がはびこっていて、例えば「銃で撃たれた手足は切り落とす」という残酷な治療が行われていました。

当時は「火薬は毒なので銃創から全身が毒に侵されてしまう」という迷信が常識だったのです。当然、麻酔も消毒もない時代なので、切断手術の痛みや出血多量、不衛生ゆえの術後感染症で死ぬ兵士の数の方が、銃創そのものによる死亡者数をはるかに上回るという笑えない状況でした。

そんな戦場で、ハンター先生は「止血と傷の縫合しかしない」という治療法で負傷した兵士の救命率を飛躍的に上げたのでした。「手術をしない医者」だから「怠け者先生」というわけです。ハンター先生からすれば、むやみやたらと切断手術をして患者を殺す方が、よほどヤブ医者なのでしょう。

他にも、医学の近代化を推し進めたハンター先生の逸話は面白いです。興味のある方は調べてみてください。

非言語コミュニケーション
確かに、動物と私たちの間で言葉による会話が難しいとしても、S.H.さんとネコくんの間には、少なくとも感情のコミュニケーションは成立しているように見えます。そもそも、私たち自身が、言葉以外で基本的な感情の交流を行っているのです。

例えば、ボディランゲージ(body language)ジェスチャー(gesture)といった身振り手振りや、外見、身体の姿勢、態度、雰囲気、表情、話し方、声の調子や高さなど、皆さんにも思い当たるところがあると思います。

意識的か無意識的かを問わず、こうした言葉以外の手段をキュー(cue, 非言語的手がかり)にして行うメッセージのやり取りを非言語コミュニケーション(nonverbal communication)と言います。

多くの場合、それぞれのキューが意味するところは、文化によって異なります。例えば、「手招き」のジェスチャーが有名です。

アジアやロシア、地中海圏では、手のひらを下に向けて「こっちに来て」と手首から先を振りますが、同じジェスチャーは欧米の多くで「あっちへ行け」の意味に受け取られてしまいます。

一方で、顔の表情をキューにした感情の伝達は、文化圏を超えて共通している部分があるようです。もちろん否定的な研究もありますが、おそらくは、基本的な感情の一部には、人類に共通する非言語コミュニケーションがあるのかもしれません。

当然、それは進化の中で培ってきた能力でしょう。そうであるならば、動物と人間の潜在的な能力に、種を超えて共通する非言語コミュニケーションが含まれている可能性もゼロではないでしょう。

だからこそ歴史的に、人類は、野生動物を家畜として飼育できたと考える方が自然です。したがって、少し強引な結論ですが、非言語コミュニケーションのレベルとは言え、S.H.さんとネコくんの気持ちは通じ合っていると言ってよいと思います。

超音波でコミュニケーションを取る動物たち
それでは、動物同士では、どうでしょうか。もちろん同じ種の間では、盛んにコミュニケーションを取っています。例えば、研究に使われるハツカネズミは、人間に聞こえないほど高い超音波で鳴いて、コミュニケーションしています。

もちろん人間のように言葉を話すわけではありませんが、ハダカデバネズミでは、社会的な上下関係や雌雄の関係(夫婦か否か)で鳴き声の高さや大きさが変わるという報告もあります。

 

超音波といえばエコーロケーション(echolocation, 反響定位)を行うクジライルカが賢いのは有名ですね。エコーロケーションとは、自ら発した音波の反射音を聴いて周囲の状況や他の個体の方向や距離、大きさなどを認識することです。

たとえば大海を泳ぐクジラは、水中を伝わる超音波を使って、何百kmも離れた個体とコミュニケーションしているそうです。イルカに至っては、道具や手話を使って訓練すれば、人間とコミュニケーションが取れるという報告もあります。

同じくエコーロケーションを行う動物に、コウモリがいます。不思議なことに、狭い洞窟で何匹も群れになって飛んでいても、コウモリは、ぶつかったり混乱したりしません。

各々に発する超音波が混ざってしまわないのでしょうか。実は、お互いの声が邪魔にならないように、それぞれの個体で少しずつ発声する音の高さを変えるのだそうです。

さらに、エコーロケーションの合間に、それまでと違う高さの音で、群れの中での個体識別(自分
の名前を言ったり、仲間か否かの確認をしたりするイメージ)や、食料と休憩場所などの情報を交換しているという研究もあります。

超低周波音で会話するゾウ
人間に聞こえない音は、超音波のように高い音(20kHz以上)だけではありません。逆に、低すぎる音(超低周波音:20Hz以下)も聞こえないのです。

そんな超低周波音で会話している動物が、ゾウです。もちろん「パオーン」という鳴き声を聞いたことのある方も多いと思いますが、どちらかと言えば、動物園のゾウは物静かなイメージです。

ところがゾウは、超低周波を使って盛んに会話しているそうです。意外に、おしゃべりなんですね。ゾウが、そんな低すぎる声で会話することには、理由があります。

低周波の音は減衰しにくく、遠くまで響くのです。特に、硬い地面なら何kmも先まで音が届きます。ゾウは、巨体に似つかわしくない繊細な足裏の感覚で、10km以上も先から伝わる超低周波を聞き取り、会話できるのだそうです。

2004年のスマトラ沖地震で、ゾウが津波を察して避難したという話を聞いたことのある方もおられるかもしれません。このとき、ゾウは、人間に聞こえない地鳴りの低周波を聞き取っていたと考えられています。

 

一瞬で仲間に情報を伝えるプレーリードッグ
近年では、北米が原産のリスの仲間、プレーリードッグ(prairie dog)が、「動物言語」の研究で注目されるようになりました。

一夫多妻制ですが、向き合って抱き合ったり、口と口でキスをしたりする写真が可愛くて、インターネットではおなじみですね。

巣穴のそばに盛り土で見張り台を作って後ろ足で立ち上がり、敵が近づくとイヌのように「キャンキャン」と鳴くことが、「草原(プレーリー)のイヌ」と呼ばれる由来です。

実は、この1秒に満たない鳴き声の中に「敵の種類」や「色、形、大きさ」「どのくらい怖いか」などの情報が圧縮されているのだそうです。

 

人間に飼育されている動物たち
また、人間に飼育されている動物たちの間では、種を超えて交流がある、なんて話も報告されています。たとえば、ウマイヌが遊ぶときに非言語コミュニケーションが成立しているのではないか、というようにです。

コンピューターや実験機器が高性能になったおかげで、これまで謎だった動物の言葉が少しずつ明らかになってきています。私たちがドリトル先生のように動物たちと会話できる日も、そう遠くないかもしれませんね。