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Column


第8回 寒い季節と心筋梗塞
<質問>
先日、父が風呂場で倒れてしまいました。幸い、家族が早く気づいて一命はとりとめたのですが、心筋梗塞との診断でした。

父は、特に、これといった持病もなく、健康診断で心臓に異常があると言われたこともなかったので、油断していました。どうやら、この時期は、父のような患者が増えるそうで、気を付けるようにと医師から言われました。

そこで本螺先生にご質問なのですが、なぜ寒い時期には心筋梗塞が増えるのでしょうか?(神奈川県 D.O.)

<回答>

D.O.さん、ご質問ありがとうございます。お父様、大変でしたね。1日も早いご回復をお祈りいたします。

さて、東京都健康長寿医療センター研究所の研究調査によれば、2011年の1年間で17,000人が入浴中に急死したと推計しています。

ヒートショック
おそらく、お父様を含め、多くの症例は、ヒートショック(Heat shock)が原因と思われます。ヒートショックとは、「環境温の急激な変化に伴う健康被害」を言いますが、具体的な重症例としては、血圧の乱高下を引き金として、心筋梗塞脳梗塞くも膜下出血を生じさせるのだろうと考えられています。

また、そこまで重症ではなくとも、起立性低血圧(いわゆる、立ちくらみ)のように、血圧の急激な変化自体が、意識レベルを低下させることも考えられます。

たとえば、温かい室内から浴室のような寒い場所に移動して、かつ脱衣するような状況を考えましょう。人体は、寒さを感じると、体温が奪われることを防ごうと、体表付近の血流を少なくするために、末梢の血管を収縮させます。

つまり、血液の量は変わらないのに、血管内部の容積が減ってしまうわけです。これによって、血液による血管内壁を押す力が強くなる(=血圧が上がる)のです。

さらに、寒さから逃れようとして、急いで熱い湯船に浸かることを考えましょう。すると、先ほどとは逆に、体温より高い熱を逃がそうとして、体表付近の血流を増やすために末梢の血管を広げます。

こうして、結果的に血圧が急激に下がります。もともと血圧は一日の内でも上下動しますが、短時間での大きな変動は、身体にとって(特に心臓や血管)、大きな負担になります。


アテローム性の動脈硬化と「梗塞」
さらに、アテローム(Atheroma)性の動脈硬化を持っていれば、危険度が増します。アテロームは、動脈血管内壁に蓄積した、コレステロール中性脂肪カルシウム、さらにマクロファージ(白血球の一種)など細胞の死骸が混ざったカタマリで、粥腫(じゅくしゅ)とも言います。

血圧が急に上下するということは、血管内壁が引っ張られて、すぐ縮むということです。内壁にくっついたアテロームの接着が弱くなることは、容易に想像できるでしょう。

さらに、勢いよく血管を流れる血液が内壁からアテロームを引きはがしたら、どうなるでしょうか。当然のことながら、アテロームの小片は、末梢の細い血管に詰まって、以降の組織が酸素も栄養も受け取れなくなります。

これが「梗塞」と呼ばれる状態です。そうです。これが心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞という訳です。おそらく、これが、D.O.さんのお父様に起きたことだと思われます。

特に冬場は、部屋と浴室やお手洗いなどと温度差が大きくなりがちです。浴室だけではなく、トイレなどでも、同じようにヒートショックは問題になります。

ヒートショックの予防策
一番の予防策は、暖房設備を工夫するなどして、寒暖差の少ない住環境で過ごすことでしょう。たとえば「あらかじめ浴室に温シャワーを出しておく」「脱衣所の床に乾いた厚めのマットを敷いておく」など、簡単な工夫をするだけでも随分と違います。

なぜなら、環境温に応じた血管の収縮や拡張は脊髄反射で、足裏に寒気を感じるだけでも、全身の血管が収縮を始めるからです。ただし、湿気がこもるとカビが心配ですので、入浴後の換気やバスマットの乾燥を忘れないようにしてください。

サウナも危険?
実は、今回の話と逆のヒートショック(暖から寒へ)も、ありえます。それはサウナです。オジサン文化の代名詞かと思いきや、最近は若い女性の間でも流行りつつあるのだとか。あまり暑さを我慢しすぎるのは危険ですし、さらに、水風呂に飛び込むとなると危険が増すことは言うまでもありません。


サウナの場合、脱水によって一時的に血液が濃くなることも、梗塞の可能性を高めます。これは熱いお湯の入浴が好みの方にも共通です。汗をかくことは気持ち良いですが、その分、適度に給水することをお薦めします。

しかしアルコールや甘いジュースをガブ飲みすることは、かえって脱水を進めますので、水やお茶、スポーツドリンクなどにしておきましょう。ただし、意外にスポーツドリンクは糖分の高いものがありますので、少しご注意ください。

実際、心筋梗塞に比べ、脳梗塞に季節差はないという統計があります。寒い季節は寒から暖のヒートショックが、熱い季節は脱水が、脳梗塞の引き金になっているのではないか、という考察もあるようです。

それにしても、入浴という文化によって、清潔さを手に入れて寿命を延ばした面がある一方で、自然環境ではありえない極端な寒暖差に身体のメカニズムがついていけないということは、なんとも皮肉ですよね。