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Column


第10回 牡蠣の食中毒
<質問>
今年は暖冬とはいえ、まだまだ寒さが身に沁みます。お鍋が美味しい季節ですよね。私は、牡蠣の土手鍋が好きなんですが、友人は、牡蠣にあたるのが怖いと言って、なかなか付き合ってくれません。そこで質問なのですが、「牡蠣にあたる」ことは、他の食中毒とは異なるのでしょうか?(東京都T.Y.)

<回答>

T.Y.さん、ご質問ありがとうございます。実は、私、今までに2回ほど、牡蠣にあたったことがあります。でも、懲りずに毎年食べてしまいます。

先日も、友人たちと、牡蠣を肴に痛飲してしまいました。さて、一口に牡蠣(oyster)と言っても、いわゆる「Rの付く月」に食べる冬のマガキ(真牡蠣:学名Crassostrea gigas)と、身の大きな夏のイワガキ(岩牡蠣:Crassostrea nippona)があります。要するに、通年で牡蠣を楽しむことができるわけです。逆に、牡蠣にあたる可能性も一年中あると言えるわけですが。

食中毒の原因
いわゆる、食中毒の原因としては、大きく細菌ウイルス自然毒(フグやキノコなど)、化学物質(ヒスタミン)、寄生虫(アニサキスなど)などに分類されます。

俗に「牡蠣にあたる」というのはウイルスが原因で、ノロウイルス属のノーウォークウイルス(Norwalk virus)による食中毒です。ノーウォークウイルスは牡蠣に限らず、多くの二枚貝に存在しており、消化管に濃縮されています。

実は、日本においては「野呂」姓の子供がイジメに合うという理由から、ノーウォークウイルスを名称として使うように奨励されています。ノーウォークはアメリカのオハイオ州にある地名で、1962年に小学校の集団食中毒事件で初めて検出されたことから名づけられました。ちなみに、コネチカット州にもノーウォークという地名があります。牡蠣の養殖で有名だそうですが、こちらとは関係ありません。

ノーウォークウイルスは、経口感染によって腸管(十二指腸~小腸)で増殖し、潜伏期間1-2日で急性胃腸炎を引き起こします。胃腸炎は、毒素によるものではなく、ウイルスの増殖に伴う上皮細胞の脱落が原因です。


要するに、ウイルスに感染すると、小腸の内壁がボロボロと剥がれ落ちてしまうわけです。そのために、激しい「嘔吐・下痢・発熱」が症状として現れます。

残念ながら、ノーウォークウイルスの感染に対する治療法は、まだ確立していません。なぜなら、ノーウォークウイルスの培養は難しく、研究が進んでいないのです。ただし、ようやく、2018年になってiPS細胞を応用した培養法が確立されましたから、今後の研究に期待ですね。

治療法がないとはいえ、通常、容体は1~2日で落ち着きますし、後遺症も残りません。まれに、免疫の弱い乳幼児や老人では重症化することもありますが、死亡するほどではなく、「のどに吐しゃ物を詰まらせる」「誤嚥性肺炎」などに注意すれば、また、脱水に対して、適切に補水して経過観察すれば、問題ないと思います。

ただし、止瀉薬(下痢止め)の使用は慎重に判断するべきです。結局のところ、増殖したウイルスを全て排泄しなければ、回復にならないからです。

ノーウォークウィルスには効かないアルコール殺菌
前回、解説したコロナウイルスインフルエンザウイルスと違って、ノーウォークウイルスにはアルコール殺菌が効きません。また、乾燥にも強く、ドアノブなどに付着したウイルスが、1か月近く感染力を失いません。

そもそもの感染力も強く、たった数十~数百個のウイルスだけで感染が成立すると考えられています。したがって、感染予防には、共有設備を次亜塩素酸ナトリウム塩素系漂白剤で消毒し、流水による手洗いを徹底することが重要です。

また、ノーウォークウイルスは、75度で1分以上の熱を加えないと死滅しませんから、食材の中までしっかりと火を通すことも大切です。ちなみに厚生労働省は、食材の中心部が85~90度になるようにして、90秒以上加熱することを推奨しています。

ずいぶんと安全になった生牡蠣
牡蠣に話を戻すと、最近は、生食用の養殖牡蠣が広く出回るようになりました。実は、牡蠣の消化管内ではノーウォークウイルスは増殖しません。なので、出荷前の数日を滅菌した人工海水の中で過ごさせ、牡蠣の中身を洗浄しているのだそうです。もちろん、絶対に大丈夫とまでは言えないのですが、一昔前に比べれば、ずいぶん安全になりました。


平成30年分の厚生労働省による資料では、報告のあった食中毒のうち、ノーウォークウイルスを原因とするものだけで半分を占めるそうです。

ところが、そのノーウォークウイルスによる食中毒の内、牡蠣を含む二枚貝を原因とする食中毒は、たった7.4%しかありませんでした。しかも、ほとんどが加熱不足です。

もっとも多かったノーウォークウイルスによる食中毒は、実に、67.2%が「調理者の不衛生」によるものでした。食器や調理器具の衛生を徹底することで、こうした被害は防ぐことができるというのに、残念なことですね。そして、牡蠣の食中毒は、データ的にはイメージほど酷くはないことが分かります。

T.Y.さんのご友人にも、安心して牡蠣を楽しんでもらえますように。