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Column


第13回 新型コロナウイルスのワクチンと抗ウイルス薬
<質問>
本羅先生、こんにちは。ようやく新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の対象区域から、39県が解除されました(5月14日)。しかし、8都道府県(北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県)については、特定警戒都道府県として、引き続き、自粛を余儀なくされています。社会が落ち着くには、治療法や特効薬が開発されるまでは、という覚悟が必要かもしれませんね。実際に新しい薬が特別に認可される、といったニュースもありますが、どのような薬なのでしょうか。またワクチンとは、どう違うのかについても教えてください。(神奈川県 N.S.)

<回答>

N.S.さん、ご質問ありがとうございます。私も、自粛で在宅ワークが続いています。しかし、感染防御(3密を避ける/手指の殺菌とマスク装着の徹底)と医療従事者の献身だけで、ここまで日本が持ちこたえていることに、正直、驚いています。そうは言っても、いつまでも閉じこもったままでは経済が持ちこたえられませんから、できるだけ早く治療法を確立して欲しいところです。

増殖するウイルスを騙して混乱させる薬!!
さて、N.S.さんの質問に戻りますが、とりあえずは日本での話に限定します。まず、新型コロナウイルスに効くことが期待されていて、5月7日に特例承認が適用された薬は、レムデシビル(製品名・ベクルリー)です。5月4日の申請から、たった3日の承認でした。

また、早ければ5月末にかけて承認される見通しの薬が、ファビピラビル(製品名・アビガン)です。両者ともに抗ウイルス薬で、「ヌクレオチド(nucleotide)」の「アナログ(analog)」かつ「プロドラッグ(prodrug)」という点が共通の特徴です。

ヌクレオチドは核酸DNARNA)の構成単位のことで、アナログとは薬学でいうところの「類似物質」を意味します。そしてプロドラッグとは、投与されてから体内で変化して、活性化する薬の総称です。

要するに、レムデシビルやファビピラビルは、核酸の偽物で、増殖するウイルスの核酸を混乱させる薬なのです。特に、RNAを遺伝物質として持つウイルスにだけ作用します。

ちなみに、一般的な用語としては、アナログ(連続的に変化する値)とデジタル(離散的/飛び飛びに変化する値)は対になる語として使われるので、違和感を覚える方も多いと思いますが、元々はアナロジー(analogy:類似性、例え)から派生した語であることを知れば、腑に落ちるのではないでしょうか。

レムデシビル
さて、レムデシビルは、元々、エボラ出血熱(エボラウイルスを病原体とする急性感染症)に対する薬として開発されました。

しかし、最終的には別の治療法と比べて優位性がなかったことから、安全性は確認されたものの、開発は止まっていました。

しかし、エボラウイルスはRNAウイルスだったので、別のウイルスでもRNAが遺伝物質ならば、薬の標的として成立します。今回の新型コロナウイルスもRNAウイルスだったので試されたというわけです。


ファビピラビル
ファビピラビルも同様で、元々は既存のワクチンが効かないくらい突然変異したインフルエンザに対応するために備蓄されていた薬です。

インフルエンザもRNAウイルスですから、新型コロナウイルスに効果が期待できたというわけです。まだ認可はされていないようですが、エボラ出血熱に対する治療薬としても有望です。ただし、感染初期の投与が肝心なようです。

一部に「催奇性(胎児に奇形を生じる性質)があるので、子供を作れなくなる」という話が流れたのですが、間違った情報です。「催奇性がある」のは事実ですが、投与を終えて1週間ほどで薬が体内から抜けますから、その後であれば、子供をつくることに何の問題もありません。


ワクチンの働き
次にワクチンの説明です。レムデシビルやファビピラビルのような抗ウイルス薬が、ウイルスの増殖そのものを抑えるのに対して、ワクチンは、体内のウイルスを除去する、つまり免疫を獲得させるために投与されます。

免疫と一口に言っても、広義には、体表から体内の深奥まで、全身で働く感染防御に関わるネットワークのシステムです。免疫の解説だけで、それこそ1冊の教科書になってしまいますので、ここでは一部を簡単に説明します。

まず、ウイルスが体内に侵入し、細胞に感染すると、主に白血球などが、感染細胞を攻撃します。これは非特異的に異物を排除するシステムで、「自然免疫系」と言います。

自然免疫系が機能すると、感染細胞と周辺組織は炎症を起こします。つまり、炎症が起きるということは、免疫が体内から異物を排除する第一段階というわけです。

自然免疫系は、非特異的に機能しますから迅速に対応できるのですが、逆に長期にわたって機能するわけではありません。

そこで次の段階として「獲得免疫」が機能します。獲得免疫の主役はリンパ球です。リンパ球は、ざっくりと二種類に分けられます(T細胞B細胞)。

T細胞は胸腺(thymus)で、B細胞は骨髄(bone marrow)で成熟することからの命名です。実は、B細胞のBは、鳥類に特有の器官である「ファブリキウス嚢(bursa of Fabricius)」からの命名だったのですが、偶然にも、哺乳類でB細胞の成熟が骨髄であったことから、そのまま使われるようになりました。


ものすごく簡略化して説明すると、T細胞が異物(今回はウイルス感染細胞)を分析して抗原を見つけ、B細胞は、その抗原を目印にして、抗体を作ります。抗体は、抗原に結合して、異物を無効化するのです。

「抗原」と「抗体」については、第11回の迅速診断についての説明で少し触れましたね。ここからがポイントなのですが、一度、抗体を作れるようになると、次の感染ではB細胞が抗原を認識して、いきなり抗体を作り出します。だから、二度目の感染は軽くで済むのです。

説明が長くなってしまいましたが、ワクチンとは、要するに「毒性の弱まったウイルスや細菌(生ワクチン)」や「死んだ細菌やウイルスないし、それらの欠片(不活化ワクチン)」のことなのです。

そしてワクチンの目的は、異物を認識するB細胞を体内で作ること、つまり獲得免疫を得ることにあるのです。

実際、免疫の全貌や、抗ウイルス薬の仕組みについては、もっと複雑なシステムなのですが、また別の機会に解説することにします。