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Column


第5回 猫のクローンについて
<質問>
先日、実家で飼っていた三毛猫が亡くなってしまいました(たぶん老衰です)。そこで、ペットロスの母のために保護猫の譲渡会に行って、できるだけ毛色の似た子を見つけてあげたのですが、やはり「あの子とは違うわね」と言われてしまいました。幸い、貰ってきた子が母になついてくれたので、母も慰められているようで良かったのですが…。

人間のエゴだということは百も承知なのですが、SFのように(クローンというのでしょうか)、最新の科学で亡くなった猫をもう一度生み出すことはできるのでしょうか?(神奈川県 K.N.)

<回答>

K.N.さん、ご質問ありがとうございます。長く時を過ごしたペットは家族も同然ですよね。お母様の悲しいお気持ちはお察しいたします。

さて、ご質問のお答えですが、今の技術で、亡くなった猫のクローンを作製することは可能です。ただし、全く同じ猫の再現は現時点では叶いません。残念ですが、お母様のお気持ちを慰めることは、難しいでしょう。

今回は、このあたりの事情について、少し詳しくお話ししたいと思います。

猫の毛色を決める遺伝子
まず、下の表に猫の毛色を決める遺伝子をまとめました。

White、全身が白色
Orange、茶色
Agouti、1本の毛に濃淡縞が入る
Black、黒色 *Brownと表記することもある
Color Point、顔や耳、四肢、尾のような先端の色が濃い
Tabby、虎縞
Inhibitor、銀色
Dense、色を濃くする
Spotting、白斑(部分的な白色)

すべての猫の毛色は、9種類の遺伝子の組合せで決まります。そして、通常の遺伝子は2つ1組で、どちらか一方が発現します。どちらが発現するのか、ですが、実は、同じ遺伝子でも発現しやすいタイプ(優性)と発現しにくいタイプ(劣性)があります。ちなみに優性の遺伝子はアルファベットの大文字、劣性は小文字で表します。


三毛猫が生まれてくるには
さて、たった9つとはいえ、すべての組合せを解説するのは大変なので、ここでは、K.N.さんのお母様が愛された、三毛猫を例にしましょう。

そもそも三毛猫が生まれてくるには、茶色(O)と黒色(B)、そして白斑(S)の遺伝子が必要です。3つのうち、最も影響の大きな遺伝子は白斑(S)です。したがって三毛猫の遺伝子は、必ず白斑の優性「S(ラージエス)」が含まれている「S, S」か「S, s」で、劣性「s(スモールエス)」だけの「s, s」では白斑は現れません。ちなみに、白斑は腹側から手足に向かって広がり、「S, S」の方が「S, s」よりも面積が大きいです。

次に影響の大きい遺伝子は茶色(O)です。日本人の感覚では「茶色」なのですが、西洋的には「Orange(橙色)」と表現されるのは少し面白いですね。それはともかく、もし茶色の優性遺伝子「O(ラージオー)」が2つある「O, O」の場合、白斑の影響範囲外は、すべて茶色になってしまいます。一方で、劣性遺伝子「o(スモールオー)」が2つの「o, o」の場合、茶色の毛は生えません。したがって三毛猫の茶色遺伝子は、必ず「O, o」の組合せです。

残りの遺伝子は黒色(B)で、優性の「B(ラージビー、黒色)」と第二優性「b(スモールビー、焦げ茶色)」、そして劣性「b-(スモールビーマイナー、明るい茶色)」の3タイプがあります。つまり、黒色(B)遺伝子の影響が薄まると、少しずつ茶色になっていくわけです。以上より、三毛猫には、次のような遺伝子の条件がそろっていることになります。

1)白斑の優性遺伝子(S)を持っていること。 「S, S(広い白斑)」、「S, s(狭い白斑)」
2)茶色の優性遺伝子(O)と劣性遺伝子(o)を持っていること。 「O, o」
3)黒色の遺伝子(B, b, b-)を持っていること。 「B, B(黒色)」「B, b(黒色)」「B, b-(黒色)」「b, b(焦げ茶色)」「b, b-(焦げ茶色)」「b-, b-(明るい茶色)」

そして、こうした遺伝子条件を持った猫では、皮膚の各部分において、次のようにして毛の色が決まります。


オスの三毛猫
ちなみに、オスの三毛猫がほとんどいないことは有名ですが、その理由は茶色遺伝子(O)にあります。実は、OはX染色体に含まれているのです。X染色体を2本持つ場合(X, X)は女性で、X染色体とY染色体を1本ずつ持つ場合(X, Y)は男性になることは、聞いたことのある方もおられるかもしれません。

先に説明したように、三毛猫になるためには、2種類の茶色遺伝子(優性「S」、劣性「s」)が必要です。しかし、そのためにはX染色体を2本持つ必要があります。つまり、基本的には、三毛猫はメスでしか生まれない毛色ということです。ただし、まれにX染色体を2本持つオス(X, X, Y)が生まれることがあります。これは、染色体異常(突然変異)の一種で、クラインフェルター症候群といいます。このように偶然に生まれる特殊な症例でのみ存在するのが、オスの三毛猫なので、とても珍しいわけです。

クローン猫について
話を戻して、クローンについてお話ししましょう。ここでは作成法など、専門的すぎるお話はいたしませんが、要するにクローンとは「人工的に生み出された、遺伝情報が全く同じ個体」のことです。つまり、新しく生まれたクローン猫と亡くなった猫の遺伝情報は全く同じです。

しかし、クローン猫は、元の毛色と全く同じになるとは限りません。なぜなら、猫の毛色は遺伝情報だけでは決まらないからです。そうした、後天的な遺伝子調節のことを「エピジェネティクス(epigenetics)」と言います。つまり、愛猫の毛色の模様は、一匹一匹がかけがえのないものなのです。

それでは、毛色以外については、どうでしょうか。たとえば性格や体質などは、クローン猫に引き継がれるのか、気になるところですよね。

とはいえ、今回は少し長くなりすぎました。続きは次回に持ち越すことにいたします。