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Column


第1回 はじめまして

はじめまして。本螺新一郎と申します。
この度、生命科学をテーマに本コラムを執筆することになりました。

皆さまからの様々なご質問にお答えする形で、素朴な疑問から最新ニュース、実験技術の解説まで、生命科学諸分野のトピックを分かりやすくご説明していきたいと考えております。

生命科学は、日々猛烈な速さで進歩し続けています。私が今までに得てきた広範な研究経験が、皆さまの理解の一助となれば幸いです。

さて、ご挨拶はここまでにいたします。今回は、もちろん、どなたの質問もございませんので、自己紹介を兼ねて、以下、私の研究歴に雑想を交えながらの1人がたりとなります。

専門分野
ざっくりとした言い方では、私の専門分野は「生理学」ということになるでしょうか。

アカデミックで一番長く研究した分野は、いわゆる脳科学です。ケージ内を自由に動くラット脳の神経伝達物質を分析したり、培養細胞を使って神経発達の解析を行ったり、細胞から個体まで、様々に実験していました。また、幹細胞(ES細胞やiPS細胞)を用いて、応用デバイスの開発や発生にまつわる基礎研究を行っていた時期もあります。
 

あるいは細胞レベルの試験と動物実験、そして人の病理検査を橋渡しできる低侵襲な検査技術の開発にも携わっていました。民間で製薬会社のお世話になることもあり、新規医薬品候補のスクリーニングや薬物動態に関わりました。こうして振り返ると、我ながら本当に広範な研究歴だと苦笑するところです。

まだまだ薬が足りない!
製薬といえば、皆さんは、この世に出回っている医薬品が何種類あるのかをご存知でしょうか?

いわゆる「認可された医薬品」は、「薬局方」に登録されています。薬局方とは「医薬品や生薬の品質規格書」なのです。ちなみに薬局方は世界各国にあり、日本の場合は厚生労働大臣が「医薬品医療機器等法(薬機法)」に基づいて定め公示する公定書です。その薬局方ですが、米英日では、それぞれ約2万種類の生薬や医薬品が掲載されています。

一方で、この世の疾病が何種類あるのか、ご存知の方はおられますか?

世界保健機構(WHO)の作成した国際疾病分類(ICD)によれば、疾病の数は3万から4万種類にも達します。つまり、単純に考えて「まだまだ薬の無い病気が数多く存在する」と言えそうです。

もちろん、詳細に述べれば、抗生物質のように何種類もの病原菌に効果を発揮する薬も存在しますし、同じ病原菌でも異なる病態として報告される疾病もありますから、荒い数字ではあるのですが、ざっくりとした感覚で「万のオーダーの疾病に薬がない」と考えて間違いないと思います。いかに近代科学が進んだとはいえ、人類が病を克服するには、もうしばらく時間が必要なようです。

 

動物実験

私は、アカデミックでの基礎研究が長かったこともあって、動物実験(特にマウス・ラット)を多く行いました。もちろん無益な殺生をしてきたつもりはありませんが、実験データになってくれた実験動物の供養として、慰霊祭には必ず参加しています。

閑話休題。動物実験に際して、彼らに苦痛を味あわせてはならないことは、国際的な常識になっています。いわゆる「実験動物の福祉」ですね。最近では動物実験に「Replacement(代替)」「Reduction(削減)」「Refinement(改善)」の3Rが提唱されています。つまり、同じ効果を確認できるのなら代替可能な実験材料(細胞など)に代え、実験に動物を使うとしても統計学的に必要な最小限度の数に押さえ、その場合も飼育環境に気をつけて麻酔などで苦痛を最小限にする、という指針です。

しかしながら、そもそも人体実験が倫理上不可能であるからこそ必要とされる動物実験であれば、まだまだ未解明の謎を多く抱えたままの医学で、どこまで可能とするべきか、議論の尽きないところですね。

麻酔薬
ところで、もちろん人間にも使用される麻酔薬ですが、実は「なぜ全身麻酔が効くのか?」という根本的なところが分かっていません。何とも恐ろしいことなのですが、「ここまでは安全だろう」という、半ば経験則的に使われています。かつて、不眠症に悩まされていたマイケルジャクソンが使用過多で亡くなったことを覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。

ある研究によれば、全身麻酔時の脳波は、睡眠時とは異なり、むしろ昏睡時に近いのだそうです。もちろん麻酔科医の管理下で慎重に投与される分には心配ありませんが、素人が簡単に使える代物ではないようです。マンガやアニメ、映画などではハンカチに含ませたり、微小な針に仕込んだりした麻酔薬で簡単に相手を眠らせることが出来ますが、現実では相当に怖い薬です。

さて、話は尽きないのですが、この辺りで今回はお開きにいたしましょう。次回からは、皆さまの質問にお答えする形で進めてまいります。ぜひ、上記の「質問箱へ投稿する」をクリックしてお気軽に皆様の質問をお寄せください。それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
(2019年5月)