History
 2006年2月から4月にかけblogで連載したJES Historyの保存版です。
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 第 1回 技術翻訳のパイオニア
 第 2回 パンナムでのランチタイム
 第 3回 50通の葉書と初仕事(その1)
 第 4回 50通の葉書と初仕事(その2)
 第 5回 6畳間からのスタート
 第 6回 タイピストと赤ん坊
 第 7回 羽田空港へ猛ダッシュ
 第 8回 竹内均先生
 第 9回 仕事の安定と営業活動
 第10回 プロは常に基本に返る
 第11回 将来は確実に見えている
 第12回 散歩と草笛
 第13回 心に空虚
 第14回 黙想ノート(その1)
 第15回 黙想ノート(その2)
 第16回 黙想ノート(その3)
 第17回 米国人捕虜と終戦
 第18回 利益と税金
 第19回 福利厚生、横浜市第一号
 第20回 学問に王道なし
 第21回 スペイン語
 第22回 新製品が大好き!
 第23回 商売と山っ気
 第24回 JFK
 第25回 ニクソン・ショック
 第26回 オイル・ショック
 第27回 父からの手紙(その1)
 第28回 父からの手紙(その2)
 第29回 俺は医者になる!
 第30回 この世に人類が存在する限り・・・
(最終回)

2006/03/14

第12回 散歩と草笛

私が小学校低学年だったころ、父から「散歩に行こう」と突然誘われることがありました。回数でいえば年に数回だったと思いますが、子供からすれば大変迷惑な話です。学校から帰ってきて近所の子供達と楽しく遊んでいるのに、ただ「歩き」につれて行かれるわけですから。

散歩という行為は大人にとっては健康増進や気分転換などの意味があるのでしょうが、子供からすれば、なんのためにただ「歩く」のかが理解できません。あげくのはてにまた同じ場所へ戻ってくるわけですからなおさらです。

でも断るのも悪いと思っていつも黙って父について行きました。

ただ一度こんなことがありました。

その日は車に乗って近くの大きな公園まで行き、その中をしばらく散歩しました。珍しく父が「少し休憩しよう」と言うので二人で草むらに腰を下ろしました。

背広を着たまま腰掛けた父は、おもむろに手元の草をつまむと自分の唇にあてました。

草笛だったのです。

不思議な音色が誰もいない公園の水面をさまよいます。私はタンポポを見つめながらしばらくそのメロディに聞き入っていました。

「僕にも吹き方を教えて」

何度もせがむ私をなだめて

「均の手はまだ小さいから無理だな。もう少し大きくなったら教えてあげよう」

そう言って父は楽しそうに笑いました。

久しぶりに見た父の笑顔になぜかとても幸せな気分がこみ上げてきました。

父の顔が“技術翻訳業”を始める前の顔だったからです。

天国で父にあったら散歩に誘い草笛を教えてもらうつもりです。遠いあの日の約束どおりに。



<丹沢で父と>
1967(昭和42)年頃。確か教会の皆さんたちと丹沢へ車で出かけた記憶があります。山へ行くにも背広にネクタイはいかにも私の父らしいですね。


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