翻訳業界におけるボリュームディスカウント

以前このブログの中で、売上高42兆円、世界最大の売上を誇る、ウォルマート・ストアーズの話題をとりあげました。

その中でウォルマートが仕入先のメーカーへボリュームディスカウントを要求する話をしました。「年間生産量の10倍を発注するので、単価を半分にして欲しい」と・・・・。

さて、わが翻訳業界にもボリュームディスカウントと言う慣習があるのですが、本来、製造業や小売業で行なわれている慣習を、わが翻訳業界にも適用して妥当なのかどうか、を考えてみたいと思います。

昔、ダイエーホークス(今のソフトバンクホークス)が熾烈な優勝争いをしているときに、テレビのニュース番組で、スーパーダイエーの店長ならびに店員一同が、ホークスのユニフォームを着て、「お願いします!ホークスを優勝させてください」とお祈りしているシーンが大写しになりました。

私はそのシーンを見て「なんと不思議な光景だ」と思いました。なぜならば、「あの人たちのやっていることは逆だろう。だってホークスが優勝してしまったら、ダイエーは優勝記念バーゲンをやらなければならないのだから」と思いました。

優勝記念バーゲンを始めたら、昨日の価格の3割引、5割引で売らなければならないわけです。当然、ダイエーの店長は戦々恐々で、「ホークスが優勝しないように」と祈るはずです。ところが現実はまったくその逆です。

なぜでしょうか?・・・・・・・答えは簡単です。

「在庫が整理できるからです」。

本来のバーゲン品と共に、ドサクサに紛れて「死に筋商品」や「不良在庫」や「ゴミ」が飛ぶように売れてしまうからです。結局損するのは、購入した消費者の方で、狭い家に、使わないガラクタ品とゴミの山が積みあがります。

小売業や製造業にとって、「売れない在庫」つまり「死に筋商品」ほど怖いものはありません。「いかに在庫のロスを少なくするか」は、「いかに売上を伸ばすか」とか「いかにコストを下げるか」と同じくらい大事なことなのです。

大量購入することにより、安く商品を仕入れ、予想に反して売れ残った「死に筋商品」をバーゲンで売り切ってしまうのです。

さて、翻訳業です。ご存知のとおり翻訳業に在庫はありません。しかし、クライアント側は、「いっぺんにたくさんの仕事を出すのだから、ボリュームディスカウントしてくれ」と要求してきます。

確かに「翻訳会社にとって経済的な受注単位」というものはあります。あえて大雑把に言えば、数十枚から数百枚ほどの単位の受注が、一番経済的です。

数枚ほどの小さな仕事の場合は、翻訳前後の基本工程はほとんど同じなので、一枚あたりのコストがかさみ、翻訳会社にとっては非効率的です。翻訳者にとっても、翻訳の能率は、尻上がりに上がっていくのが普通です。したがって、内容を理解し、スピードアップし始めたときには、もう仕事が終わっている、というような少量のジョブは非効率的です。

それでは、数千枚、数万枚という大型ジョブの場合はどうでしょうか?

500枚の独立したジョブ10本と、5,000枚の1本のジョブとではどちらが効率的か、となるとなかなか微妙なところです。

今どき「納期はおまかせ。できたときに納品すれば良い」などというありがたい仕事はありませんので、短期間での用語・表現の統一のための工程を考えると、たいていの場合、ジョブが大きくなればなるほど、余計な負荷がかかることになります。

つまり、「経済的な量」の複数のジョブが、規則正しく整然と流れて行くのが、翻訳会社にとっては理想的な状態であり、やみくもに量が増えたから値引きもできる、というわけではないのです。

「納期までに5,000枚翻訳できると思って受注したんだけど、4,500枚しか完成しなかったので、残りの半製品、500枚は、5割引でバーゲンセールします」とか

「ジャイアンツが優勝したので、納期までに完成しなかった半製品は、3割引とお安くしておきます」

などとできれば、翻訳会社も万々歳なのですが(笑)。