米中貿易戦争と日本の翻訳業界

翻訳会社と世界情勢

もう37~38年前の話ですが、そのころよく都市銀行の営業マンたちと私との間で下記のようなやり取りがありました。

銀行員:「ジェスさんは、神奈川県や横浜市で規模的には何番目くらいの翻訳会社ですか?」

丸山:「んー、わかりません」

銀行員:「それでは神奈川県あるいは横浜市に翻訳会社はいくつあるのですか?」

丸山:「んー、まったくわかりません」

そう答えると大銀行の担当営業マン達は、決まって「御社も近隣のライバル情勢を把握しておいた方がいい」という趣旨のアドバイスをしてきました。

しかし、私はいつも次のように答えていました。

丸山:「近隣にいくつ翻訳会社があるか知りませんが、ほとんど興味はありません。重要なことは常に世界情勢ですから」

「何をエラソーに」という態度を露わにする銀行マンもいましたが、当時ジェスコーポレーションは、マンションの1室の有限会社でしたからそう思われてもしかたがなかったでしょう。

当時は日本の中小企業の多くを土木建築業が占め、地元の公共投資の予算がいくらで、地元にライバル企業が何社あって、自社はそこで何番目・・・それがとても重要な指標だったのです。

そのため私はエラソーな気持ちで「重要なのは世界情勢」と答えていたわけではありません。事実、その後幾度となく繰り返される世界情勢の激変に多大な影響を受けながらも、風を読み、潮の流れを読み、太平洋に浮かぶ木の葉のような船を操りながら、38年間サバイバルしてきました。

つまり翻訳会社にとって重要な指標は、国内情勢や公共投資や個人消費ではなく、国際情勢ということです。現在であればアメリカ、中国、アジア新興国、ヨーロッパの経済、それに影響を与えるエネルギー、国際紛争というところでしょうが、特に株価や為替の動きはとても重要です。

米中貿易戦争

さて、昨今マスコミを騒がせているいわゆる「米中貿易戦争」ですが、これは両国の関税の掛け合いによる我慢比べという問題だけではありません。よく言われているようにその裏に両国の世界への覇権争いや安全保障が潜んでいるやっかいな問題です。

そしてこの問題の中心となっているのが、中国によるアメリカの技術・情報の盗用疑惑、もっと具体的に言うと、中国の巨大企業ファーウェイによるバックドア疑惑です。

バックドアとは、正規のセキュリティ手順を踏まずにパソコンやスマートフォンの内部へ侵入するドア、つまり裏口(backdoor)のことで、ファーウェイはそれを各機器に忍ばせていると言われています。実際2019年3月にはマイクロソフトがファーウェイ製ノートパソコンの中にバックドアが設置されているのを発見したと報道されています。

次世代通信網である第五世代(5G)へ向けて、ファーウェイ製品は着々と世界中に浸透しつつあるため、将来へ向けて安全保障上大変な脅威になる、とアメリカは主張しています。 そして、この主張はあながち不当だとも言えない事情があるのです。

それは中国が2017年6月に施行した「国家情報法」で、その第7条に以下の文言があります。

「第 7 条 いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。」

この条文は一般的には、以下のように解釈されています。

「第7条 いかなる組織および個人も、国家の情報活動に協力する義務を有する」

今から数年もすれば全世界に第5世代の通信網が行きわたるでしょう。そのときに中国という巨大国家に後押しされた巨大企業ファーウェイが価格競争をしかけて、世界中のライバル企業を蹴落とし、第五世代の覇者になっていたらどうなるでしょうか。世界中の通信部品メーカーは、ファーウェイなしには存在し得ない状況になっていることでしょう。

そのためファーウェイを操る中国共産党の世界支配を止めるには、今しかないとアメリカは現在やっきになっています。

いや、「時すでに遅し」という声も聞かれます。「中国は必要な部品をすべて自国で賄い、より力をつけ、13億人という自国の巨大マーケットだけで十分食っていける」・・・そう主張する人もいます。「いや、そんなことは不可能だ」と主張する人もいます。さて、どうなるでしょうか。