「第三の開国」 日本はTPPに参加すべきか否か?

2011年1月18日の朝日新聞朝刊で、「日本はTPPに参加すべきか否か」で二人の論客の意見を紹介しています。私たちの翻訳業界にも深いかかわりをもつ話題なのでここにその要旨をご紹介させていただきます。

ちなみに「第三の開国」とは、幕末、戦後に続く「3回目の日本の開国」を意味しています。
(以下、朝日新聞の記事)

(*注) TPP(環太平洋パートナーシップ協定)
太平洋を囲む国々が国境を越えて、人、モノ、カネの移動を自由にしようという約束。2006年にシンガポールやニュージーランドなど4カ国で始まった。現在は米国や豪州などが参加交渉に入っており、今年11月にも9カ国に拡大する見通しだ。

2011.1.18 朝日1
中野剛志氏
京都大助教・元経済産業省課長補佐

デフレがますます進むだけだ

・TPPへの参加など論外。今でも日本の平均関税率は欧米よりも韓国よりも低い。日本はすでに十分開国している。

・「安ければいい」という途上国市場でいくら製品を売っても、開発力はつかない。

・日本人という「うるさい消費者」を相手にしてきたから、日本企業は強くなった。ところがデフレが進み、安さばかりが求められるようになって、国内の「目利きの消費者」が減ってしまった。だからこそ一刻も早くデフレから脱却すべき。

・グローバル化した世界で輸出を増やそうとするとデフレを促進する。

・日本の輸出がGDPに占める割合は2割にも満たない。ドイツなどよりはるかに低い。日本は実は輸出立国ではなく、内需大国。

・ 内需拡大に即効性があるのは、政府が公共投資をすることだが、開放された経済の中で公共投資をしても、海外企業が受注しては景気刺激につながらない。

・そのため「一時的な関税引き上げ」や「保護主義政策」が必要。それが無理というならば、せめてこれ以上の貿易自由化はやめてほしい。

・公共投資で需給ギャップが埋まれば、デフレは収まる。貿易自由化が自動的に経済を成長させるのではなく、国内経済が成長してはじめて、貿易が拡大する。

2011.1.18 朝日2
戸堂康之氏
東京大教授

中進国に落ちぶれてもいいのか

・日本経済は長い停滞が続いている。このままだと近い将来、先進国から脱落し、落ちぶれた国になってしまう。2020年には韓国より下、マレーシアとほぼ同じという予測もある。

・TPPへの参加は、日本の閉鎖性を打ち破る契機になり、日本人全体の意識改革につながる。

・経済成長の源泉は技術進歩。ここでいう「技術」とはモノづくりでいう技術だけではなく、効率的な生産手法やマネジメント、ビジネスモデルなども含めた広い概念。

・一国の中だけの技術革新には限界がある。鎖国時代を考えれば明らか。

・もしグローバル化がデフレの原因なら、グローバル化が進んでいる他の先進国では日本よりデフレが進行しているはず。実際そうではない以上、デフレの主因がグローバル化でないことは明らか。

・50年代から70年代にかけて、ラテン諸国が積極的な保護主義政策で内需を高めようとしたが結局うまくいかず、積極開国派のアジア諸国に追い越されてしまった。

・日本の農業を見ればわかるように、国が政策的に保護することで産業は成長できない。

・十分な国際競争力があると思えるのにグローバル化していない日本企業が各地にたくさんある。適切な情報を得て海外市場でのリスクを低減できれば、世界でかなりやっていけるはず。こうした企業群がグローバル化することが、日本経済再生の起爆剤になる。

(以上で記事終わり)

結論から言うと私は戸堂氏の意見に賛成です。公共投資の増加や国内産業の保護により、この20年間続いた日本経済の低迷を脱却できるとはとても思えないからです。

中野氏の言うとおり、日本はGDPに占める輸出比率が低い「内需大国」ではありますが、リーマン・ショック後日本よりもはるかに高い輸出比率を持つ多くの国々が、日本よりもずっと早く景気回復した姿を見て、改めてグローバル化の重要性を認識しています。

競争のない国鉄時代と競争を始めたJRを比べてみれば全てが一目瞭然です。保護主義から発展は生まれません。

一部に「発展する社会など必要ない」という考え方も確かにあります。

私が大学生のころ、エアコンのない満員電車に乗って、エレベーターのないビルの階段を昇り降りしていました。あの当時はそれがあたりまえでしたし、それでも幸せに暮らしていました。

しかし一度エアコンとエレベーターの味を知ってしまった私たちが、またあの時代へ後戻りできるでしょうか?

最低限の生活を維持するためには最低限の「経済発展」が必要です。そして天然資源や豊かな農地を持たない日本が経済発展するためには「輸出」で外貨を稼ぐ必要があり、輸出で勝ち抜くためにはなんとしても「グローバル化」が必要なのです。

国内市場に雌伏する数多くの優秀な日本企業群が、世界へ飛び立つために、私たち日本の翻訳業界が力になれればこんなにうれしいことはありません。