世界一の中小企業(その5)

標準歯車で国内シェア60%、小原歯車工業

以前このブログの中で「世界最小の歯車を開発した樹研工業」の事をご紹介しましたが、今度は「標準歯車」で圧倒的な強さを誇る歯車メーカー、小原歯車工業(こはらはぐるまこうぎょう、略称KHK)をご紹介します。

「歯車にはオーダーメイド歯車と標準歯車の2種類がある。オーダーメイド歯車というのは、顧客であるセットメーカーの設計図通りに製造した歯車。自動車メーカーの系列会社に多く、設計図に基づいて作るだけなので下請け的な要素が強い。一方、標準歯車というのは、歯車メーカーが自社の規格に基づいて作る歯車。大量生産が可能なので価格を抑えることはできるが、顧客のニーズに合った商品を出さなければ、系列外ゆえに生き残ることは難しい。この標準歯車でシェア60%を占めている企業が、小原歯車工業(埼玉県川口市)。」(「小さなトップ企業」日経BP社)

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<KHK標準歯車133品目、4,000種類の品揃え(同社のホームページより)>

私はこの「標準歯車」の話を知ったとき、あの「マブチモーター」の創業期の話を思い出しました。マブチモーターは今でこそ売上1,000億円を超える超優良の大企業ですが、やはりかつては小さな下請けメーカーでした。

オーダーメイドによるモーター生産は、完全なる下請けだったため、「作ったけど売れない」というリスクが少ない反面、値段を抑えられ、利益を出しにくい、という体質がありました。

しかも、おもちゃ用の小型モーターには季節要因による「繁忙期」と「閑散期」があり、「繁忙期」には、さばききれないほどの注文があるかわりに、「閑散期」には仕事がなくて頭を抱える、という状況があったそうです。

そこでマブチモーターは、思い切って「オーダーメイドモーター」の注文を捨て、「標準モーター」の生産に踏み切りました。

そして馬渕社長自らが「これからは、様々なサイズのモーターを各種取り揃えますから、今後はうちの会社の仕様に合わせて、御社の製品をお作りください」と顧客巡りをして説得に歩きました。

当然、下請けメーカーの社長にそんなことを言われて、顧客側が納得するわけがありません。「ふざけるな!顧客に向かって何を言う。二度とお前の会社の製品など買ってやるものか!」と多くの顧客が激怒したそうです。

ところが、繁忙期、閑散期に関係なく、計画的に大量生産する製品は、当然コストが低く、なおかつ、ジャストインタイムに納品できるマブチモーターは、しだいに顧客の間の評判となっていきました。

やがて一度逃げていった顧客達も、あちらのほうから戻ってきました。なにはともあれ、その圧倒的な価格競争力の魅力には勝てなかったからです。

さて、小原歯車工業の話にもどります。

「歯車は基本的な技術を持ったところであれば、どこで作っても大差がない。商品自体で差別化できないため容易に他社の追随を許してしまう。この対策として小原歯車工業が選んだ戦略が、『商品の種類』で差別化するというものだった」(前述の本)

同社のホームページによると、現在4,000種類にもおよぶ歯車を取り揃え、自社倉庫に大量の在庫を抱えているそうです。そしてコンピュータを駆使して、在庫リスクの軽減を図っている、とのことです。

オーダーメイドを捨て、標準仕様にすることによりコストを大幅に削減し、かつ圧倒的多品種をそろえることにより、顧客ニーズを確実にとらえて、他社からの侵食を防止する、結果として強力な顧客囲い込み戦略となる、ということでしょうか。

「翻訳」は完全なる「オーダーメイド生産」であり、しかも、量産して「作り置き」できる商品ではありません。だからわれわれの業界とはまったく関係ない、と思うでしょう。

しかし、遠い将来、いや、あるいはそう遠くない将来、「翻訳の作り置き在庫品バーゲンセール」なんて事態がおこるかもしれません。

圧倒的大多数の良質な「翻訳メモリー」が、Web上に出現すれば・・・・・・。