「対外直接投資」と翻訳業界

2009年9月8日、日本経済新聞1面トップ記事からの抜粋

「中国での販売 日本抜く 製造業、依存高まる

自動車や建設機械の販売で日中逆転が起きている。日産自動車は1~7月の中国での版台数が日本を抜き、建機ではコマツの2009年4~6月の中国売上高が地域別のトップになった。大手メーカーは対外直接投資を米欧中心から中国など新興国に切り替えており、収益面でも対中依存は高まっている。日本を含む先進諸国が伸び悩むなか、中国が日本メーカーの最重要市場になってきた。」

2009.9.8日経(1)
2009.9.8日経(2)

(以上で記事終り)

「対外直接投資」の意味についても同じ日の日経新聞に説明が出ていました。

「国内企業が海外で実施する投資のこと。日本銀行の調査では日本の製造業による1~3月の対外直接投資は米欧向けが激減。7,848億円となり対前年同期比48%減少した。一方で対中国、対インド、対ブラジルは前年同期を上回った。日本の製造業は投資先を中国など成長余力のある新興国に切り替えつつある。

中国など新興国向け投資では、コスト圧縮や現地需要の獲得を狙った日本からの工場移転が目立つ。もたつく先進諸国を尻目に景気回復が期待される新興国市場で、他社に先駆けて存在感を示せるかどうか。これが今後の成長力を左右するというコンセンサスが、日本企業の間にうまれつつある。」

日本製造業の海外への工場移転に関しては、ブログ等で何回か指摘してきましたが、大変憂慮すべき問題です。今回の不況に円高が加わり多くのメーカーがその製造拠点を新興国へ移す準備を始めています。まさに「産業の空洞化」が加速していきます。

さらにそれに追い討ちをかけるように今日本では「製造業への派遣禁止」を法制化する方向へ向かっています。「不況で首を切られた派遣社員がかわいそうだから、製造業への派遣を禁止すれば、きっとメーカーは派遣社員を正社員として雇うだろう」と。

はたしてそうでしょうか?私はこの規制は「産業の空洞化」を助長させるだけだと考えています。

ソフトブレーン創業者の宗文洲氏の説によると、「日本はいつのまにか江戸時代の身分制度に逆戻りした国家になってしまった。『士農工商』ならぬ4段階の身分制度、つまり『正社員、契約社員、パート社員、派遣社員』だ。」

私も宗さんと同感ですが、派遣社員を規制する前にもっと日本の労働人口の流動化をはからねばなりません。つまりかつて明治政府が行ったように『士農工商』制度を廃止して下克上や転職がしやすい社会に変えていくのです。

ただ現実的になって、冷静に海外事情を分析すれば、これからも企業のグローバル化は増えることはあっても減ることはないでしょうから、製造業の海外移転を憂えたって実はしかたがないのです。世界の大きな流れは止めようもないからです。

このグローバル化の波そのものはわが翻訳業界にとって大変良いことなのですが、日本という国家そのものが弱体化してしまっては本も子もありません。

かつて1970年代、経済低迷に苦しんだ米国は製造業に見切りをつけ、ソフトウェアやコンテンツ産業を重点的に育成し、金融・エネルギー・食料政策を重視して、かつ知的財産の徹底した保護を行いました。それにより「ジャパン・アズ・No.1」を引き摺り下ろす国家戦略を打ち立てたのです。

グローバル化の波に乗り遅れたかつての「ものづくり大国」日本が、ただの「斜陽国家」に落ちぶれることのないよう、正しい方向へ舵をきって欲しいものです。

具体的には、環境、エネルギー、農業等の“新しい産業”への国家ぐるみの重点投資と、いまやその公共投資の額で世界の三流国になりはててしまった国民教育への重点投資です。