イチロー、日米通算4000安打を達成

2013年8月22日 日本経済新聞

米大リーグ、ヤンキースのイチロー選手は21日、ブルージェイズ戦に「2番、右翼」で先発し、1回の第1打席で、相手の先発投手ディッキーから左前打を放ち、日米通算4000本安打を達成した。

(後 略)

2013年8月22日 イチロー

(以上で記事終り)

ニューヨークヤンキースのイチロー選手が、日米通算4,000本安打を達成しました。

今回はこの偉大なる記録達成を記念して、“人と文化の輸出”について思うところを述べさせていただきます。

1981年、学生時代の私がアメリカのカリフォルニアで1か月間ホームステイした時のことを思い出します。

GM(自動車)の工場、リーバイス(ジーンズや衣料)の本社、コントラ・コスト・タイムズ(新聞社)の編集室、その他、日本の宅急便のような宅配サービスの集配センターにも見学に連れて行ってもらいました。

そしてその時、どこへ行っても、多くのアメリカ人達から「日本は素晴らしい!」という賛辞をもらったのです。

「トヨタはすばらしい!」 「ホンダはすばらしい!」

「キヤノンはすばらしい!」 「ソニーはすばらしい!」

「日本の製品はどれも品質が素晴らしく、故障がほとんどない」

「車は信じられないくらい燃費が良い」

「ユーザーフレンドリーで使い勝手が抜群に良い」・・・・等々です。

どこへ行っても日本の製品を称賛してくれるので、悪い気はしないのですが、その時私は彼らに対し、いつも同じ質問を投げかけてみました。

「ところで、誰か日本人の名前を知っていますか?」

こう聞いてみると、とたんに誰もが考え込み、結局一人の名前も出てきませんでした。

当時、黒澤明監督の「影武者」という映画が、カンヌ映画祭でグランプリを取り、「世界のクロサワは世界中で絶賛されている」と日本では連日報道され、大騒ぎをしていました。

しかし、私が少なくとも数十人のアメリカ人に

「カゲムシャを知っていますか?」

「映画監督のクロサワを知っていますか?」

と聞いたところ誰も知りませんでした。

その後日本に帰国後、日本にいる英語ネイティブ(アメリカ人、カナダ人、イギリス人、オーストラリア人、ニュージーランド人)と知り合うたびに、同じ質問をしてみました。

「日本へ来る前に名前を知っていた日本人はいましたか?」

一人のアメリカ人が天皇ヒロヒトとA級戦犯トウジョーの名前を知っていただけで、答はいつも同じく「誰も知らない」でした。

戦後日本は、世界第2位の経済大国になったわけですが、作った“モノ”は評価されても、残念なことに海外で評価される“人”は驚くほど少なかったと言えるでしょう。

モノ作りや品質管理で高い評価を得ることは、それはそれで誇らしいことではありますが、いくらお金を稼いでも、人や文化を輸出できない国は外国から「尊敬」される国にはなれないと私は思っています。

しかし、ここにきて少しづつ変化が現れ始めました。

アメリカにおける野球やヨーロッパにおけるサッカーで日本人選手の活躍が目立ち始めただけでなく、ゲームソフトやマンガやアニメ、そして和食が俄然世界で注目を集め始めたからです。

文化が輸出されれば、必然的に“人”の名前も一緒について輸出されます。

すばらしい和食に感動し「いつの日か僕もこんな料理を作ってみたい」と思った人は、きっとその板前さんのことを心の底から尊敬するでしょう。

宮崎駿のアニメに感動し「いつの日か自分もこのような作品を作ってみたい」と夢見る少年の目に、宮崎駿は神として映るでしょう。

イチローが打ち立てた数々の記録を超えようと、世界中の人たちが挑戦するたびに、その偉大さを実感することになるはずです。

“人材”と“文化”を輸出し、世界から尊敬を集める“文化大国日本”の実現を私は夢見ています。その時日本は真に豊かな国となっていることでしょう。