コンクリートから人へ

2013年2月6日 日本経済新聞夕刊

マクロ経済学の教科書に出てくる議論に均衡財政乗数がある。例えば、1万円の増税を行い、その金額を公共投資に使うと、1万円分だけ国民所得が拡大するというものである。逆に1万円の公共投資を削減し、その分を国民に直接給付すれば、国民所得は1万円減る。貯蓄に回る分が多い直接給付に比べ、公共投資は実際に使われる分、乗数効果は1以下にはならない。

通常、国民所得が縮小する政策を行うことはあり得ない。だが民主党政権は2009年に「コンクリートから人へ」のスローガンのもと公共投資を縮小し、その分を子ども手当や農業への所得補償に回す歴史的実験を行った。

こうした一連の政策を国民は強く支持した。当時の空気は「公共投資は悪」というもの。公共投資には無駄が多く、効果も低下しているとの意識が圧倒的だった。一方、国民のあいだに格差への意識が強まり、政府の役割は直接国民に給付する分配政策にあるとした生活者重視の姿勢を、国民は強く支持した。

ただし、当時、ある海外投資家から質問されたのが先の均衡財政乗数議論だ。日本は意図的に国民所得を引き下げる政策を行うことに疑問を感じないのかとの指摘だ。成長を無視した環境にある国の企業の株式は買えないと言われたことを改めて思い出す。

1990年代以降のバブル経済崩壊後も、国内の株式相場は欧米市場と連動して動いてきた。しかし09年9月以降の政権交代の時期に、その連動は断絶する。すなわち、欧米の株式相場はその後回復に向かったが、日本株はほとんど上昇しない状態が続いた。さながら日本株の「失われた3年」であった。

昨年の11月から日本株が上昇基調にあるのは、失われた3年の呪縛が解かれ欧米株式との連動に戻ったことを意味する。だが過去3年のギャップはあまりに大きい。今の状態を先の海外投資家はどう評価するか聞いてみたい。

(記事終わり)

上記は日経新聞夕刊の5面に出ていた小さな囲み記事でしたが、思わず熟読してしまいました。

リーマンショック後、なぜ日本経済だけが立ち直れなかったのか?

なぜ、日本の株式市場だけが落ちたまま浮上してこれなかったのか?

米国のサブプライムローンで大打撃を蒙ったのは、欧米の金融機関であり、日本の金融機関はほぼ無傷に近かったにもかかわらず、なぜ日本経済だけが極度の不振に陥ったのか?

答のひとつがこの記事の中にあるのかもしれません。

この説に反論する学者もいるでしょうが、上記の説明にあるように、日本の株式市場は、1990年のバブル崩壊以降、常に欧米の株式市場と連動していました。

しかし、政権交代以降断絶し、欧米をはじめとする世界中の株式市場が回復したにもかかわらず、日本株だけが極端な低迷を続けたという事実を鑑みれば、この説にはかなりな説得力があります。

世界中の投資家たちが、日本政府の奇妙な政策に「NO!」をつきつけたからなのでしょう。

日本の民主党の行った「歴史的大実験」は失敗に終わったということは間違いないようですが、これから自民党が行おうとしている「デフレ下におけるインフレターゲット」も人類初の「歴史的大実験」となるはずです。

成功すれば「アベノミクス」は世界の歴史の教科書にのるような偉業としてたたえられるでしょうが、もし失敗したらハイパーインフレという恐ろしい事態もありえます。

とにかく、今後の日本経済に一番必要な「成長戦略」をまずはしっかり策定し、着実に実行していってほしいものです。