中小企業とBRICs (その1)

業績絶好調の日本の大企業は、海外で大儲けしている!

日経ベンチャー(日経BP社発行)という月刊誌に、フリーのジャーナリスト、財部誠一(たからべせいいち)氏が連載している記事があります。「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」という題名なのですが、なかなか興味深い内容です。また、われわれ翻訳業界にも大いに関係があるので、これから何回かにわたってその内容をご紹介しながら考えていきたいと思います。

まず、第1回は「中小企業が好景気に乗れない理由」という題ですが、その内容を下記にまとめてみます。

日本の景気拡大は、「いざなぎ景気」を抜いて戦後最長。
上場企業は4年連続増益。直近の3年は、毎年史上最高益を更新
大手企業のボーナスは去年(2006年)史上最高額に達した。

ところが、多くの中小企業経営者は好景気を実感していない。
そこから生まれた発想が「格差」、
景気がいいのは「東京だけ」、
調子がいいのは「大企業だけ」

しかし、「景気がいいのは東京だけ」はまったくのウソ。
トヨタのお膝元である愛知県、
大規模な自動車工場の集積地となった福岡県、
液晶テレビでリードするシャープの工場誘致に成功した三重県など、
好調な地方は少なくない。今起こっているのは東京と地方の格差ではなく、地方間格差であり、その差は業績好調な大企業誘致の成否の差である。

要するに今の景気拡大のエンジンは大企業の劇的な業績回復に尽きる。
しかし、大企業ならどこもみな好調というわけではない。
業績好調組の共通点は、海外でとてつもない利益を上げている、ということだ。
海外で巨大な営業利益を上げている日本企業の例は、
トヨタ  8,023億円
日産   5,117億円
ホンダ  5,024億円
松下電器 1,000億円以上
キヤノン 1,000億円以上

実は今、世界景気はかつて人類が経験したことがない、火をふくような好景気に見舞われている。IMF(国際通貨基金)によると、過去3年間、世界の経済成長率は4%を上回り、06年、07年もこの驚くべき高成長が続くと予測されている。

要するに今、素晴らしい業績を上げている大企業は、絶好調の世界経済を、自社の収益拡大に直結させた企業ばかりだ。そこには劇的なビジネスモデルの転換が見られる。

単純な「輸出」という発想を捨て、世界のどこで生産し、いかなるブランドを立ち上げ、どのような販売ネットワークを構築するか、を考えることが重要。

人口減少時代に突入した日本の国内市場の成長にはおのずと限界がある。だが、「フラット化する世界」は今、かつてない高度経済成長を迎えている。その象徴がBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)である。この歴史的チャンスに目をつむっているようでは経営者とは言えない。中小企業も本気で世界を視野に入れるべき時代がやってきたのである。

さて、以上で記事は終わりですが、この中の「単純な輸出という発想を捨て」という記述が気になります。確かに日本の大手電機メーカー各社は、海外での生産高や販売高を急激に伸ばしてきています。海外での販売高がこんなに急激に伸びているのだから、当然翻訳の発注量もうなぎ登り、と思いきや、ほとんど増えていなかったり、逆に減っていたりもします。

なぜだろうと不思議に思い、調べてみたことがありますが、わかったことは「国内で生産して輸出する」という従来型ケースと「海外で生産して海外で販売する」という21世紀型ケースの違いにある、という私なりの結論に達しました。

部品をアジア諸国に点在する現地法人で生産し、北米や欧州へ輸送して、そこで組み立て、そこで販売する。そして、現地で組み立てを担当した企業のマニュアルライターが、簡単に作られたスペックだけを頼りに、現地の言葉でマニュアルを書き起こす。したがってそこには「翻訳」という工程が発生しない。

20世紀の翻訳会社は、国内のオフィスで翻訳の仕事が発生するのを待っていればよかったのですが、21世紀の翻訳会社は、BRICsのような成長著しい新興国へ自ら乗り出し、「翻訳関連ジョブ」を開拓していくセンスが求められる、ということなのでしょうか?

(この項、続く)