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「第25回 JTF翻訳祭」を終えて

先週(2015年11月26日)、大盛況のうちにJTF翻訳祭を終えることができました。

まだ正式な集計結果は出ていませんが、速報値で、有料入場者数が900数十名、登壇者50名超、ボランティアスタッフ100名超で合計1,100名ほどの来場者がありました。特に交流パーティーでは、400名ほどの参加者があったと思われます。いずれも過去最高の人数でした。

今までに24回積み上げてきた過去の実績と今回のスタッフ関係者および登壇者の方々のご尽力により、なんとか成功裏に終えることができました。翻訳祭企画実行委員長としての責任を果たすことができ、ほっと胸をなでおろすとともに、皆様への感謝の気持ちで一杯です。

今回は第25回という節目の年だったため、いろいろと新しいことを試みてみたのですが、下記にそれらを列挙してみます。

  1. 翻訳業界にとらわれることなく、国際的な仕事でご活躍中のさまざまな著名人・有名人の方々に積極的にお声がけをし、登壇していただいた。
  2. 海外からの登壇者も積極的に募集し、今回は5人の方々に翻訳祭のためにご来日いただき、ご登壇いただいた。
  3. 翻訳とは直接関係ないが、旬の話題である「マイナンバー」関連のセッションを取り入れてみた。
  4. MT(機械翻訳)エンジンメーカー3社にご登壇いただき、当日その場でお渡しした英語データの機械翻訳をその場で出力し、来場者へ紙で配布した。そして、その出力結果を各分野のプロの翻訳講師の方々に講評していただくという、まさにライブ形式(台本なし)のセッションを行った。
  5. 従来各セッションの部屋は120名収容の部屋1種類だけだったが、今回は240名、150名、120名の3種類の大きさの部屋を用意した。
  6. 2セッション連続にして、180分(間に休憩30分)という長時間のセッションを作ってみた。
  7. パーティー時間を従来より30分延長し、プロのエンターテイナーによるパフォーマンスを取り入れた。

新しく試みたことの全てが成功だったわけではありませんが、やってみなければわからないこともたくさんあるので、今回のこの経験を次回以降に大いに活用したいと思っています。

また、今回の翻訳祭のテーマは「四半世紀の時を超えて、そして次なる未来へ」だったため、MTに関連するセッションも4つほど設けてみました。実際フタを空けてみたら、MTのセッションが1番人気だったため、多くの方々がMTの現状と今後に非常に高い関心を持たれているということがよくわかりました。

現在、この翻訳業界にはMTとクラウド翻訳による地殻変動が静かに、そして着実に進行しているということを改めて感じた翻訳祭となりました。

「第25回 JTF翻訳祭」のお知らせ

日本最大の翻訳イベント、「JTF翻訳祭」が開催されます

一般社団法人日本翻訳連盟(JTF)が主催する「JTF翻訳祭」が、今年も開催されます。日時は、2015年11月26日(木)9:30~21:00で、場所は、例年通り「アルカディア市ヶ谷(私学会館)」となります。

詳細はこちらの「翻訳祭プログラム詳細」をご覧ください。

なお、タイトルに「日本最大の翻訳イベント」と書きましたが、数多くの海外の翻訳イベントに参加した経験のある方のお話では、1,000人以上の来場者のあるこのJTF翻訳祭は、「世界最大」と言っても過言ではないだろうとのことでした。

さて、今年は、「JTF翻訳祭25周年」ということもあり、JTF副会長でもある私が翻訳祭企画実行委員会の委員長を務めさせていただくことになりました。

そのため今回は例年よりも若干会場の規模を大きくし、なおかつ従来にないスペシャルゲストをお呼びすることにしました。

フェルドマン氏 <ロバート・アラン・フェルドマン氏>

まずそのお一人目が、テレビ東京で平日の夜11時から放映されているWBS(ワールドビジネスサテライト)のレギュラーコメンテーターでもある、ロバート・アラン・フェルドマン氏です。

フェルドマン氏は、モルガン・スタンレーMUFG証券のマネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミストであり、現在世界をまたにかけて、経済・金融分野の最前線でご活躍されているトップクラスのエコノミストです。

翻訳業界は小さく、ほとんどの翻訳会社は中小零細ではありますが、その規模とは裏腹に、常に相手にしているのは世界経済や日本経済です。

翻訳会社の景気に決定的な影響を与える要因は、日々刻々と変化する国際情勢や為替相場であり、経営者は常に経済動向を大局的にとらえながら、経営判断をすすめていく必要に迫られます。その辺が地元や地域経済に密着して活動する地場産業や土木・建設業との決定的な違いだと私は考えています。

今、世界は、中国のバブル崩壊?、ギリシャ問題、ウクライナ問題、イスラム国、難民の受け入れ等々で揺れ動いています。また、国内ではアベノミクスの今後の行方に注目が集まっています。

そういった意味からも、今回のフェルドマン氏の講演は、まさにタイムリーであり、値千金の講演になると大いに期待しております。

戸田奈津子氏 <戸田奈津子氏>

お二人目は、もうご紹介の必要もないほどの超有名人であり、翻訳業界の巨人でもある、戸田奈津子氏です。

翻訳業界とまったく縁のない方々にとって、「翻訳」とは映画の字幕の翻訳であり、ベストセラー小説の「翻訳」であるようです。

しかし、映画(テレビやビデオを含めた映像)の翻訳や出版物の翻訳は、一般大衆に与える印象は圧倒的に強いのですが、現実には、それらのシェアが、日本の「実務翻訳」全体の需要に占める割合は、ほんのわずかと言われています。

最近は、翻訳連盟や翻訳祭などの広報のおかげもあり、徐々に「産業翻訳」とか「実務翻訳」などの言葉が一般に浸透し始めましたが、その認知度はまだまだ低いと言わざるをえないでしょう。

さて、戸田奈津子氏です。字幕翻訳者としての実力や実績は申し分がなく、トム・クルーズなど有名ハリウッドスターの通訳も務め、テレビ画面にもしばしば登場される翻訳業界のスターですから、今まで翻訳祭に縁のなかった方々にも足を運んでいただけるだろうと願っております。

また、翻訳祭には現役のプロ翻訳者も多数出席されるので、字幕翻訳第一人者の戸田奈津子氏が語る仕事の舞台裏を同じプロとしてきっと興味深く聞いていただけると思っております。

とにかく戸田奈津子氏は、わが翻訳業界における「ずば抜けたスター」ですので、どれほどの来客数があるのか、過去の経験からは読むことが難しいです。そのため、ご興味のある方は、お早めにチケットをご購入いただき、当日もお早めに戸田氏のセッション会場でお並びになることをお勧めいたします。

米倉誠一郎氏 <米倉誠一郎氏>

さて、三人目のスペシャルゲストは、一橋大学イノベーション研究センター教授 アカデミーヒルズ日本元気塾塾長の米倉誠一郎氏です。

テレビ画面で米倉氏のお顔を拝見なさった方々も多くいらっしゃると思いますが、企業のイノベーションに関して、各方面でご講演やご指導をされているトップクラスの企業経営の指導者です。

今回のセッションはお仕事のご都合で45分間しかお時間がとれないとのことで残念ですが、「イノベーションとパラダイムチェンジ」について、さまざまな事例を基にお話いただけるとのことです。

今回の翻訳祭企画実行委員の中の一人に、米倉氏のご講演を聞いた経験のある人がいて、「すばらしい内容の話を、非常にわかりやすく、楽しく語っていただける先生」と絶賛しておりました。そんなご縁もあり今回の運びとなりました。

翻訳業界における「イノベーションとパラダイムチェンジ」をぜひともご自分の企業経営に取り入れていただければと願っております。

ばんざいミック <ばんざいミック氏>

さて、最後になりましたが四人目のスペシャルゲストは、ばんざいミック氏です。

例年、各セッションの講義のあとに2時間の「交流パーティー」を行うのですが、今回はその時間を30分延長し、プロのエンターテイナーによるパフォーマンスを披露していただきます。

ばんざいミック氏は、以前英字新聞記者であった頃、記者として大道芸の取材をし、そのパフォーマンスに魅了され、自らもジャグリングを習得、パフォーマーとしての道を歩み始めたそうです。プロのエンターテイナーであり、現役の翻訳者でもあります。

英語、日本語、中国語、スペイン語を操りながら、さまざまなパフォーマンスと抱腹絶倒のコメディーショーをお見せいただけるとのことなので、まさに翻訳祭のパーティーに最もふさわしいプロの芸人さんと言えるでしょう。

「交流パーティー」で世界各地、日本各地から集まってくる人たちとの交流を深めながら、皆で楽しい時間を過ごしましょう。

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その他、この4人のスペシャルゲストの他にも数多くの素晴らしいセッションを用意してあります。ぜひとも「第25回 JTF翻訳祭」にお運びいただけますよう、心より願っております。よろしくお願いいたします。

「緊急融資」と翻訳業界

2008年12月5日、中小企業庁は「緊急保証制度」の対象業種の中に「翻訳業」を加えました。以下は中小企業庁のサイト内の記述です。

【10月31日から開始しました「緊急保証制度」については、11月14日に73業種を追加し、現在、618業種を対象に実施しているところでありますが、最近の景況悪化や中小・小規模企業の年末資金繰り対応等を踏まえ、電子部品製造業、理美容業、ビルメンテナンス業など80業種を追加指定することとなりました。

この結果、対象業種は全体で698業種となります。

追加指定業種は12月10日から本保証制度の対象となります。

対象業種の中小・小規模事業は、金融機関から融資を受ける際に一般保証とは別枠で、無担保保証で最大8,000万円、普通保証で最大2億円まで信用保証協会の100%保証を受けることが出来ます。】

とあります。正直言って、私はこの「緊急保証制度の対象業種拡大」の中に「翻訳業」を加えることには反対です。

会社経営に「資金の確保」が重要であることは今更言うまでもありません。たとえば、小売業・卸売業などはその典型例で、粗利益額に対し、動かすお金(仕入と売上)が巨額になるため、不測の事態に備え、常に余裕を持って資金の確保をしておく必要があります。

また、装置産業とも言える製造業であれば、最初に多額の設備投資をしてから、長期間にわたって投資額を回収していく必要があります。そのため、常に多めに運転資金を確保しておかねばなりません。

しかし、「翻訳業」はどうでしょうか?

翻訳業に巨額の仕入や設備投資が必要でしょうか?

なぜ、今回のような8,000万円だ、2億円だ、というようなお金が必要になるのでしょう。しかも、一般保証とは別枠ということですから、通常の設備投資資金や運転資金とは別に特別融資を受けると言うわけです。

創業間もない「翻訳会社」であれば、途中で資金が枯渇してしまうケースも出てくるでしょう。また、たとえ歴史のある会社であったとしても、経済の激変により一時的に資金ショートする場合もあり得るかもしれません。

しかし、その会社が本当に「翻訳会社」なのであれば、一般の保証枠の中で十分に資金を確保できるはずです。

もしそれがカバーできないのだとすると、それは現在の経営の「何かが間違っている」からだと思います。

「借金」とは「もらったお金」ではなく、金利や保証料を上乗せして「必ず返さなければならないお金」のことです。すこし厳しい言い方をすると翻訳会社にとって「借金」は「麻薬」であるとも言えます。

今回のこの「緊急保証制度」の業種の中に「翻訳業」を入れるか入れないかについては、経済産業省から社団法人日本翻訳連盟(JTF)に問い合わせが来ました。

私もJTFの理事として、理事会では「翻訳業」を対象に入れることには反対の立場を表明しようと考えていたのですが、一部の会員企業から事務局宛に、実施に向けての強い要望が出ている、ということもあり、私としては黙認することにいたしました。

人それぞれ価値観が違いますが、もし今回の「緊急保証制度」を使って、新たな融資を受けようとしている「翻訳会社」の経営者の方がいるとしたら、私はこう申し上げたいと思っています。

「“麻薬患者”に“麻薬”を打てば、今はよくても数年先は地獄です。会社を健全に回復させるために、“今何をすべきか”をもう一度冷静に考え、信念に基づき果敢に実行してください」・・・と。

しつこいようですが最後にもう一言、結論です。

「“翻訳会社”が“翻訳会社”であるかぎり、決して借金をしてはいけません」。

第16回 JTF翻訳祭を終えて

先週の木曜日、10月12日に東京のマツダホールにて第16回JTF翻訳祭が開催されました。私は今回の翻訳祭企画実行委員会の委員長を拝命しておりましたので、大盛況のうちに無事終えることができ、ホッと胸をなでおろしております。これもひとえに実行委員の皆様とJTF事務局の努力のおかげですので、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

翻訳祭の内容(講演、パネルディスカッション、翻訳プラザ、交流パーティ)に関しては、今後JTFのホームページやJTF翻訳ジャーナル、あるいは、翻訳事典(アルク)、通訳・翻訳ジャーナル(イカロス出版)、その他のメディアで紹介されることと思いますのでここでは割愛いたしますが、多数の立見客が出てしまい、主催者側としては冷や汗が出るほどの盛況であり、かつ内容も非常に充実していたことをお伝えしておきます。

今回の翻訳祭は外見上、従来の翻訳祭と大きな違いはありませんでしたが、実は過去の翻訳祭とは際立った違いが一つあります。それは予算面のことでした。過去の翻訳祭では全支出額の4割から多い時は9割を理事会社の寄付金によりまかなわれていました。今回は当初より「理事会社の寄付金に頼ることはやめて、自立できる翻訳祭を目指そう」という目標を持ってスタートしました。そのためチケットの新しい販売ルートの開拓やポスターや電話を使っての営業活動、そして新しい広告料収入の道を模索し、結果として十分な黒字と十分な集客を実現できました。また従来とは異なる販売ルートの開拓により、参加者の顔ぶれもかなり違う(とくに女性客や若い方々の姿が目立ちました)という印象も受けました。今回の成功の裏には、アメリアネットワークの長田氏の企画力と実行力があり、彼なくして今回の翻訳祭はあり得なかったでしょう。この場をお借りして、改めて重ね重ね御礼申し上げます。

最後になりましたが、今回の翻訳祭にご参加、ご協力いただきました皆様へ厚く御礼を申し上げて、取り急ぎ、第16回翻訳祭のご報告とさせていただきます。