翻訳業界をとりまく環境」カテゴリーアーカイブ

ロケット・ボーイズと宇宙ビジネス

遠い空の向こうに

「遠い空の向こうに」は1999年公開のアメリカ映画です。
この映画を初めて見たのは、日本で公開される前の国際線の飛行機の中でした。

たまたま何気なく見た映画でしたが、その内容に感動し、思わず涙が出てきました。その後DVDを購入してからも何度も見たのですが、そのたびに感動して涙を流しています(笑)。

映画の原題は、”October Sky” ですが、原作となった小説の題名はロケット・ボーイズ(”Rocket Boys”) と言います。なぜならば原作者の Homer H. Hickam, Jr. は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の元エンジニアで、彼の高校時代の思い出を綴った自伝がこの映画のベースとなっているからです。

1957年10月、ソビエト連邦は世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功します。それを見たアメリカ、ウエスト・ヴァージニア州の炭鉱町コールウッドに住む高校生のホーマー少年は感動し、自分でロケットを打ち上げようと夢を抱きます。

さっそく彼は悪友3人を誘い「ロケット・ボーイズ」を結成します。そしてそれを機になにをやってもダメだった劣等生ホーマー少年は、数学をはじめ理科系の科目を猛烈に勉強し、ロケットの構造を独学で研究し始めます。

廃れ行く炭鉱の町に生まれ育ったホーマー少年には、地元の皆から尊敬を集める、いわば「炭鉱の町の英雄」とも言える父がいました。「炭鉱夫の息子は炭鉱夫があたりまえ」だった時代、「自らの手でロケットを打ち上げたい」という夢を抱く少年と古くて頑固だが心から息子を愛す親父との葛藤がこの映画の主要テーマとなっています。

ついには科学コンテストで全米チャンピオンとなるホーマー少年と実は陰で息子を支えていた頑固親父との感動の物語です。

さて、この「ロケット・ボーイズ」を久々に思い出したのには訳があります。なぜなら昨今話題となっている「宇宙ビジネス」に関連して、日本版「ロケット・ボーイズ」を発見したからです。

「宇宙へロケット」は夢か?

「ロケット・ボーイズ」などと言ったら叱られてしまうかもしれませんが、以前このブログでも紹介した(→宇宙ビジネスは拡大が続くインターステラテクノロジズの創業メンバーはきっとそれに近かったのではないか、と勝手に想像しています。

インターステラテクノロジズのサイトによると「1997年、全国の宇宙好きが集まって、民間による低価格の衛星打ち上げが可能な最小ロケットの検討がスタートしました。(中略)当初は実験設備などなく、メンバーが住むアパートの風呂場で最初のロケットエンジンの燃焼実験を繰り返し、その後、拠点を北海道赤平市へ。」とあります。

「宇宙へロケットを飛ばす」という荒唐無稽な夢を実現させるべく実際に動き出した若者たちが、この日本にいたという事実がとてもうれしいことです。しかもそれが今から23年も前の話なのでさらに驚きます。

しかし、彼らの夢は本当に「荒唐無稽な夢」だったのか?

実は、この件に関しホリエモンこと堀江貴文氏が複数のネット上の番組で話をしているのでそれらをまとめて下記に紹介させていただきます。言うまでもありませんが、堀江貴文氏は、インターステラテクノロジズの創業者であり、出資者でもある人です。

彼の説明によると「宇宙ビジネスは間違いなく勝算のあるビジネス」とのことです。

日本にとって最も有望な成長産業は「宇宙ビジネス」

(以下は堀江貴文氏の複数のYouTube番組での発言を私なりにまとめたものです)

現在日本の主力産業である自動車産業は、EV (Electric Vehicle) と自動運転の普及により今後間違いなく衰退していく。

それにとって代わる日本の有望産業は宇宙開発ビジネスだ。なぜならば日本には他国にない4つの大きなアドバンテージがあるからだ。

日本の優位性①「立地」
地球は東に自転している。なので、ロケットを打ち上げる際に自転のスピードを利用できれば有利になる。そのため静止軌道のようなメジャーな軌道に打ち上げる衛星は、すべて東に打ち上げられている。たとえば国際宇宙ステーションに代表されるものがそうだ。日本の立地が良いというのは太平洋が日本の東にあるから。そのため射場の隣に工場があるみたいな感じになる。

中国は東側が日本なので、ロケット打ち上げに関しては国内にそんなに良い場所がない。中国奥地にあるロケット打ち上げセンターから1段目が村に落下して村が壊滅したなんて話もあった。太平洋だったらそのようなリスクはほぼない。中国は初めて海南(ハイナン)島に宇宙基地を作ったが、国土が広いうえに島だからモノを運ぶだけでもかなり大変。

北朝鮮は日本列島を超えて打ち上げる場合も津軽海峡の上を超えて東に打ち上げている。日本国内に落ちたら大変なことになるからだ。

フランスなんかは東に海がないので南米のフランス領ギニアで打ち上げている。唯一西に打ち上げている国がある。それはイスラエルだ。イスラエルは東に海がないので西打ちをしている。だからすごいハンデがある。

日本は東と南が太平洋で完全に空いている。こんな国は多くない。たとえばオーストラリア、ニュージーランド、アメリカと日本ぐらい。地政学的にみても日本はとても有利だ。

日本の優位性②「サプライチェーン、人材、ロジスティクス」
宇宙開発は産業の10種競技みたいなもの。その国の産業の総合力が求められる。電子機器、工作機械、素材などのサプライチェーンやその人材、ロジスティックスまでを含めると日本は非常に有利な国。

たとえばジャイロセンサーの類もそうだし、CFRP(ガラス繊維複合材料)というカーボンファイバーの板は東レが世界のトップシェアでこれも国内調達できる。良質のアルミ合金やそれを接合するための工作機械なんかも全て国内調達できる。

これらの多くは軍事転用できるので輸出規制がかかっている。そのためなかなか海外から調達するのは簡単ではない。しかも日本は狭い上にロジスティックスもきちんと整備されているので容易に手に入る。このような国は実は日本とアメリカくらいしかない。

良いロケットを作ってもすぐに東南アジアなどの新興国に追い上げられるかと言うとそんなことはない。まず東南アジアでは50年経っても作れない。なぜかというと鉄を作れない国にロケットは作れないからだ。

ただの鉄ではなくタングステンやモリブデンが入っている特殊鋼と呼ばれる固い鉄だ。これはすごいテクノロジーで、ロケットの部品に使われる。また、工作機械の治具なんかは特殊鋼がなければ作れない。

「鉄は国家なり」と言うが、まさに「特殊鋼は国家なり」だ。だからそれをインドネシアやフィリピンで作ろとしても特殊鋼の技術がないし、その前にまず製鉄所がない。日本は頑張って1901年に八幡製鉄所を作ってよかった。その時代からの積み重ねがあって現在に至っている。

日本の優位性③「資金調達能力」
日本は資金調達もできる国だができない国もある。たとえばニュージーランドにもロケットのライバル企業はあるがニュージーランドでは資金調達ができないし、部品調達もできない。そのため射場だけを残してアメリカへ移転してしまった。

日本の優位性④「国際武器取引規制」
アメリカの武器輸出管理法の中にITAR(アイター、International Traffic in Arms Regulations)と呼ばれる国際武器取引規則がある。

ロケットに必要な部品のほとんどは軍事転用できる部品であり、宇宙開発に投資すると言うことはロケット、つまりミサイルに投資するということなので規制が非常に厳しい。

部品の輸出入だけでも非常に規制が厳しいわけだから、すぐれた部品の技術をすでに持っている日本はそれだけで優位に立てる。また、ロケットの完成品の輸出はできないため「ロケットの打ち上げ」というサービスを外国に売るしかない。だから日本国内に継続的にお金が落ちる。

小型ロケットで衛星を飛ばせたら、それを大型化するのは難しいことではない。ここにはすごいチャンスがある。国際間競争を考えると宇宙開発ビジネスは確実に日本の大きな主力産業になりうる。日本政府は宇宙産業分野の振興にもっとお金を使うべきだ。

(以上は堀江貴文氏の複数のYouTube番組での発言を私なりにまとめたものです)

移動通信システム 5Gと6G

5Gで選択を迫られる世界の国々

アメリカのトランプ大統領は、世界各国に対し「5Gネットワークでアメリカをとるか?中国をとるか?」と選択を迫っています。

5Gの時代が来れば、自動車や医療機器のみならず、社会インフラ全体が5Gネットワークに組み込まれていきます。

そのためネットワークが乗っ取られてしまうと国のインフラ全体を止められるという最悪の事態も考えられます。つまり5Gネットワークの安全性確保は国土防衛やテロ防止のためにも非常に重要な施策となります。

2019年10月31日、米国上院国土安全保障・政府活動委員会は、次のように発表しています。「5Gを支配する国はイノベーションを支配し、世界の他の諸国・地域の基準を定めるだろう。現時点でその国は米国ではない可能性が高い」

現在、中国のファーウェイ(華為)、スウェーデンのエリクソン(Ericsson)、フィンランドのノキア(Nokia)の3社が、移動通信システムの設備メーカーで世界の3強と言われています。

そしてファーウェイが通信設備のシェアで世界第1位、端末のシェアで世界第2位であるのに対し、エリクソンやノキアは、基地局等の通信設備は作るものの、端末にいたってはとうの昔に撤退しています。

そのためファーウェイは、現在のところ通信設備の設計施工、通信ネットワーク全体の構築、端末の製造販売という5Gネットワークに必要とされるすべてを一括して売り込むことができる世界で唯一の会社ということになります。このようにファーウェイは5Gでの展開を優位に進めながら、なおかつ新興国に対しては、融資までをもセットにして売り込もうとしています。

移動通信システムの国際標準を巡る争い

かつて3Gの時代、移動通信システムの標準化で米国と欧州が激しいシェア争いを繰り広げ、結局、欧州系の通信機器メーカーが米国メーカーを打ち負かしてしまいました。

その昔、ビデオテープの規格争いで、ベータマックスを打ち負かしたVHSがあっという間に国際標準になったように、移動通信システムの国際標準は、欧州が作ったW-CDMAで一本化されるかと思われました。

しかし、欧州と米国が規格争いをしている間に中国は独自の規格を作り、中国国内で普及させ始めたのです。そしてあっという間に中国の巨大市場を席巻し、数年後にはそのTD-SCDMAという中国規格も国際標準として認められるようになりました。その結果、移動通信システムの国際標準は、欧州系と中国系の2つが混在することになったのです。

その後、4Gの時代に入ると中国は中国市場での規模の利益を最大限に活用し、安価な4G端末を大量生産して、アフリカや東南アジア諸国へ売りまくります。

華為(ファーウェイ)という名前は、「“華”の“為”」、つまり「中華のため」と書きます。そのためファーウェイは、中国と言う国家をバックに大量の資金をつぎ込み、盛んに設備投資や研究開発を行いました。そして欧州市場にも進出し、ついにはエリクソンやノキアという欧州が誇る通信機器メーカーをも凌駕するようになったのです。

動き始めた6G開発

日本は次の次の世代へ向けての動きを開始しました。

「ポスト5G技術による半導体・通信システムは、自動運転などでわが国の競争力の核となる技術だ。自動車・産業機械メーカーとも連携して、最先端半導体技術の国内確保を目指し、わが国の技術力を結集した国家プロジェクトを検討していく」(安倍首相の発言 2019年10月29日の未来投資会議にて:ロイター)

「日本は5Gでは一歩出遅れたが、通信の基地局やネットワーク構築や携帯端末に関しては、優秀な会社をたくさん持っている。日本政府が主導する形でそのような会社をまとめ上げ、川上から川下までを一貫して国家戦略で進めるよう総理大臣が指示を出した」ということのようです。

現在日本で通信のネットワークそのものを作っているのはキャリアと呼ばれる通信会社となります。この通信会社が世界的なアライアンスを組んで通信会社主導で新しいネットワーク施設を作るというプロジェクトが始まりつつあります。

「NTTとソニー、米インテルは31日、2030年ころの実用化が見込まれる次々世代の通信規格で連携すると発表した。光で動作する新しい原理の半導体開発などで協力するほか、1回の充電で1年持つスマートフォンなどの実用化を目指す。2020年春に日本で発表する5Gでは後塵を拝した日本勢だが、次々世代の6Gでは米企業と連携して巻き返しを狙う」(日経新聞:2019年10月31日)

アメリカは5Gのネットワークから中国を完全に排除したいと考えているようですが、現状ではなかなか簡単にはいかないようです。4Gにおける既存のシェアもあり、バリューチェーンがグローバル化している中で、その鎖を今から本当に断ち切れるのかということのようです。新興国はもちろんのこと欧州にとっても日本にとっても完全に排除するのは、そう簡単なことではないでしょう。

そのためアメリカを中心とする旧西側諸国は、ポスト5G、つまり6Gにおいていち早く新しい仕組みを作り、そこから中国を排除して、世界的に発展させていきたいと考えているようです。

6Gの端末は5Gに接続できるが、5Gは6Gに接続できない。つまり旧西側諸国のシステムは中国側のシステムに接続できるが、その逆はできないようにしたいということです。

今後アメリカはいわゆる新COCOMを強化して、中国への技術移転をより厳しく規制するようになります。なかでも「みなし再輸出規制」が発動されれば、今後日本企業の立ち位置はより難しいものになっていくでしょう。

現代中国語の7割は日本語?

中国の現代生活に欠かせない基本概念の多くは日本語

ある中国語の翻訳者から「医学・薬学の日中翻訳はやりやすい、なぜなら専門用語の9割は日本語だから」と聞いたことがあります。

明治時代に西洋医学をいち早く取り入れた日本の知識人たちが、数多くの専門用語を漢字で創作したからです。

たとえば、下記のように。
diabetes(英語) ⇒ 糖尿病(日本語) ⇒ 糖尿病(中国語)
pneumonia(英語) ⇒肺炎(日本語)⇒肺炎(中国語)

しかしながら、実際には医薬の専門用語のみならず、現在の中国人が日常的に使用している中国語のなかにかなり高い割合で日本語が使われているようです。

そのような中国語になった日本語の数は1,000語ほどのようですが、とても使用頻度の高い語彙が数多く含まれているため、それらを使わずには会話が成り立たないほどの存在感があるようです。もっとも当の中国人がそのような事実を知らず日常的にそれらの言葉を使っているようですが。

さて、南京大学文学部教授の王彬彬氏(1962年~、肩書は当時)の「中国語の中に非常に多い“日本語外来語”」という論文に下記のような一節があります。この方は、中国の近現代史、文化批評、文化史を主に研究されている学者です。

「現代中国語の中の“日本語外来語”は、驚くほどの数がある。統計によれば、わたしたちが現在使用している社会・人文科学方面の名詞・用語において、実に70%が日本から輸入したものである。これらはみな、日本人が西洋の相応する語句を翻訳したもので、中国に伝来後、中国語の中にしっかりと根を下ろしたのである。わたしたちは毎日、東洋のやり方で西洋の概念を論じ、考え、話しているのだが、その大部分が日本人によってもたらされたものである。(中略)最後にわたしは言いたい。わたしたちが使用している西洋の概念について、基本的には日本人がわたしたちに替わって翻訳したものであり、中国と西洋の間には、永遠に日本というものが挟まっているのである。」(日本語訳:松永英明氏)

また、上海外国語大学日本語学部教授の陳生保氏(1936年~、肩書は当時)の「中国語の中の日本語」という論文の中にも下記のような一節があります。

共産党、幹部、指導、社会主義、市場、経済という文は、 すべて日本製漢語語彙でできているといったら、 これらの語彙をさかんに使っている普通の中国人は信じかねるだろうし、 これらの語彙の原産地の日本人も、 たぶん半信半疑だろうが、 しかし、 それは事実である。(中略)日本語来源の語彙のほとんどは現代生活に欠かせない基本的概念であり、使用頻度の高いものであり、しかも造語力のあるものが多い、ということを考えると、現代中国語における日本来源語の影響が非常に大きいといわねばならない。

西洋文明を漢字化した日本人

日本では江戸時代末期以降、西洋から多くの思想、学問を導入し、西洋の知的抽象語を既存の日本の概念に置き換えるのではなく、漢字を使ったまったく新しい言葉に置き換えました。

そして20世紀初頭、日清戦争で日本に負けた清国は遅れを取り戻すべく、合計61,230名という数多くの留学生を日本へ送り、多数の日本の書物を中国語へ翻訳しました。あの有名な魯迅もその中の一人です。それらの留学生が日本で生まれた新しい言葉を中国へ伝え、それが現代の中国に今でも脈々と受け継がれているのです。

たとえば下記はそのほんの一例です(Wiktionary 和製漢語より)

暗示、意識、遺伝、入口、右翼、運動、栄養、演出、演説、鉛筆、温度、階級、会計、概算、回収、会談、概念、解放、科学、活躍、化膿、環境、関係、間接、簡単、幹部、議員、議院、議会、企業、喜劇、気質、基準、規則、基地、規範、義務、共産主義、協定、業務、教養、共和国、記録、金額、銀行、金融、空間、偶然、組合、軍国主義、計画、計器、景気、経験、経済、経済恐慌、警察、芸術、系統、経費、劇場、化粧品、決算、権威、現役、現金、原作、現実、現象、原則、建築、原理、講演、効果、抗議、工業、広告、講座、交際、光線、交通、肯定、公認、高利貸、効率、小型、国際、克服、故障、固定、債券、財閥、債務、作者、作家、雑誌、左翼、紫外線、時間、茂樹、施行、施工、市場、指数、思想、実感、実業、失効、実績、質量、失恋、指導、支配、資本、社会、自由、宗教、集団、終点、就任、主観、出発点、出版、蒸気、乗客、商業、証券、条件、常識、承認、消費、情報、私立、資料、進化、人権、信託、新聞記者、人民、信用、心理学、侵略、制限、政策、清算、生産、精神、性能、積極、絶対、接吻、繊維、選挙、宣伝、総合、想像、速度、体育、退化、大気、代議士、対局、対象、体操、代表、立場、棚卸、単位、探検、単純、蛋白質、知識、抽象、直接、定義、出口、哲学、電子、電車、伝染病、電波、電報、展覧会、電流、電話、動員、投資、独裁、図書館、内閣、内容、日程、任命、熱帯、年度、能率、背景、派遣、覇権、場所、発明、反響、反射、反対、反応、悲観、悲劇、美術、必要、否定、否認、批評、備品、評価、標語、広場、舞台、物質、物理学、不動産、文化、文学、分子、分析、分配、文明、方案、方式、放射、方針、法人、法則、方程式、法律、保険、母校、保障、本質、漫画、蜜月、密度、民族、民放、無産階級、明確、目的、目標、唯物論、輸出、要素、拉致、理想、理念、了解、領海、領空、領土、理論、倫理学、類型、冷戦、歴史、労働組合、労働者、論理学

漢字の知的財産権は?

中国においても西洋の概念を中国の既存の概念に置き換えようと試みた時期があったようです。しかし、日本人の作った漢字の造語の方が色々な意味で分かりやすく心地よかったのでしょう。

「中華人民共和国」という国名のうち、「人民」と「共和国」は日本で生まれた言葉だと知っている中国人はどれほどいるでしょうか?実際、日本から輸入された言葉を使わなければ、毛沢東の「毛沢東語録」は存在し得なかったでしょう。

ある時、日本の知的財産権を侵害する中国に憤りを感じた日本人が「中国は日本に知的財産の対価を支払うべきだ」と言ったところ「それならば日本は中国に漢字の使用料を払え」と言い返されたそうです。

しかし、現代中国語の7割が日本から輸入された言葉だと知れば、少なくとも漢字の使用料に関しては、平和裏に「フィフティー・フィフティーでよろしいのでは」ということになるのではないでしょうか。

宇宙ビジネスは拡大が続く

宇宙に刻む「新たな一歩」

アメリカのアポロ11号が月面に着陸し、人類が初めて月に降り立ったのが、今からちょうど50年前の1969年7月のことでした。

私が小学校6年生の時にテレビで見た「人類月に立つ」瞬間の興奮が今でも忘れられません。

そして2017年12月、アメリカのトランプ大統領は、有人月面探査や火星などをターゲットにした宇宙探査ミッションの大統領令に署名しました。宇宙開発においてもロシアや中国に決して遅れをとってはならない、というこれもある意味ではアメリカファーストのひとつなのかもしれません。

さて、それを受け2019年5月には、米国航空宇宙局(NASA)が、2024年までに男女2人の宇宙飛行士を月へ送るアルテミス計画を発表しました。これが実現すれば、初めて女性が月に降り立つことになります。

今後はアメリカを中心に民間企業を含めた宇宙関連ビジネスが活発化することは必至でしょう。

ところで私の書棚に1969年に発行されたLIFE誌の “SPECIAL EDITION” があります。父の遺品ですが、B4より若干大きなサイズなので、見開きでB3サイズという迫力ある写真満載の雑誌です。

料金が、”$1.00″ と書いてあります。当時は1ドルが360円だったので、今の物価水準になおせば3,600円くらいでしょうか。あくまでも米国内での料金なので、日本に輸入したときの値段は当然もっと高くなっていたことでしょう。

全部で92ページもあるそこそこ分厚い雑誌ですが、雑誌内に広告がひとつもありません。 “SPECIAL EDITION” だからかどうかはわかりませんが、広告だらけの現在の雑誌と比べれば、その違いに驚きます。「人類が初めて月に立つ」という偉大な瞬間を記した書物なので、永久保存版としてその内容に敬意を表して一切の広告を排除したのでしょうか?もしそうだとしたらその雑誌社の姿勢に私の方から敬意を表します。

さて、一昨日の日本経済新聞の記事で宇宙ビジネスに関するとても興味深い記事が出ていたので、下記にご紹介させていただきます。

2019年7月9日 日経新聞朝刊より

「5月に観測ロケットの宇宙までの打ち上げに成功したインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)が、13日にも再びロケットを打ち上げる。同社はわずか23人の技術者集団。ネット通販も使いながらコスト削減を徹底し、打ち上げ費用を従来の6分の1程度にするめどをつけた。価格破壊でロケットの世界に風穴を開けつつある。(中略)

世界では民間が主導し宇宙ビジネスは拡大が続く。宇宙関連NPOの米スペースファンデーションによれば、17年の市場規模は3835億ドル(約41兆円)と12年比で4割増えた。40年に1兆ドルを超えるとの予測もある。(中略)

ロケットの価格競争で宇宙輸送のハードルが下がれば、衛星データの販売や宇宙資源の開発などの可能性は広がり、日本勢の参入への期待も大きい。(後略)」

(記事の引用はここまで)

ホリエモンの会社

インターステラテクノロジズと言えば、ホリエモンこと堀江貴文氏が出資するロケット開発で有名な宇宙ビジネスベンチャーです。その堀江氏が、かつてある番組のインタビューで以下のような話をしていました。

ロケットは工業製品なので量産すれば安くなる。だからたくさん打ち上げれば安くなるという非常に簡単な話。ロシアのソユーズなんて1960年代の技術を使って、一人70億円の料金をとって宇宙旅行ビジネスをしている。しかし、その時代から相当な技術革新がされているので、ロケットに必要な部品も今ではかなり安くなっている。

一番わかりやすいのはコンピューターやセンサーの類でものすごく安くなっている。実はスマートフォンの中に入っているコンピューターやセンサーで問題なくロケットを制御できる。アビオニクス(航空機等に搭載される電子機器)系の部品もどんどん安くなっていて、素材技術もどんどん向上している。

国がロケット開発をやるとなにがまずいって、国は無駄に高い技術を使おうとする。なぜなら最先端の技術じゃないと予算がおりないからだ。かつて『2番じゃだめなんですか?』って言った人がいたが、あれはまさに核心をついている。国がやる科学技術って1番じゃないと予算がつかない。僕たちはジェネリック薬品的な、もう特許が切れた、枯れた、安い技術を使って性能の低いロケットを作っている。

国が作っているのがF1マシンのスーパーカーだとしたら、僕らが作っているのは(原付バイクの)スーパーカブだ。人が乗って走れればそれでいい。安くてしょぼくてもそれで十分使える。」

さすがホリエモン、目のつけどころが違いますね。これからの展開が本当に楽しみです。ぜひこのビジネスを成功させ、近い将来、日本中が宇宙関連ビジネスで湧きかえるようになってほしいものです。

米中貿易戦争と日本の翻訳業界

翻訳会社と世界情勢

もう37~38年前の話ですが、そのころよく都市銀行の営業マンたちと私との間で下記のようなやり取りがありました。

銀行員:「ジェスさんは、神奈川県や横浜市で規模的には何番目くらいの翻訳会社ですか?」

丸山:「んー、わかりません」

銀行員:「それでは神奈川県あるいは横浜市に翻訳会社はいくつあるのですか?」

丸山:「んー、まったくわかりません」

そう答えると大銀行の担当営業マン達は、決まって「御社も近隣のライバル情勢を把握しておいた方がいい」という趣旨のアドバイスをしてきました。

しかし、私はいつも次のように答えていました。

丸山:「近隣にいくつ翻訳会社があるか知りませんが、ほとんど興味はありません。重要なことは常に世界情勢ですから」

「何をエラソーに」という態度を露わにする銀行マンもいましたが、当時ジェスコーポレーションは、マンションの1室の有限会社でしたからそう思われてもしかたがなかったでしょう。

当時は日本の中小企業の多くを土木建築業が占め、地元の公共投資の予算がいくらで、地元にライバル企業が何社あって、自社はそこで何番目・・・それがとても重要な指標だったのです。

そのため私はエラソーな気持ちで「重要なのは世界情勢」と答えていたわけではありません。事実、その後幾度となく繰り返される世界情勢の激変に多大な影響を受けながらも、風を読み、潮の流れを読み、太平洋に浮かぶ木の葉のような船を操りながら、38年間サバイバルしてきました。

つまり翻訳会社にとって重要な指標は、国内情勢や公共投資や個人消費ではなく、国際情勢ということです。現在であればアメリカ、中国、アジア新興国、ヨーロッパの経済、それに影響を与えるエネルギー、国際紛争というところでしょうが、特に株価や為替の動きはとても重要です。

米中貿易戦争

さて、昨今マスコミを騒がせているいわゆる「米中貿易戦争」ですが、これは両国の関税の掛け合いによる我慢比べという問題だけではありません。よく言われているようにその裏に両国の世界への覇権争いや安全保障が潜んでいるやっかいな問題です。

そしてこの問題の中心となっているのが、中国によるアメリカの技術・情報の盗用疑惑、もっと具体的に言うと、中国の巨大企業ファーウェイによるバックドア疑惑です。

バックドアとは、正規のセキュリティ手順を踏まずにパソコンやスマートフォンの内部へ侵入するドア、つまり裏口(backdoor)のことで、ファーウェイはそれを各機器に忍ばせていると言われています。実際2019年3月にはマイクロソフトがファーウェイ製ノートパソコンの中にバックドアが設置されているのを発見したと報道されています。

次世代通信網である第五世代(5G)へ向けて、ファーウェイ製品は着々と世界中に浸透しつつあるため、将来へ向けて安全保障上大変な脅威になる、とアメリカは主張しています。 そして、この主張はあながち不当だとも言えない事情があるのです。

それは中国が2017年6月に施行した「国家情報法」で、その第7条に以下の文言があります。

「第 7 条 いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。」

この条文は一般的には、以下のように解釈されています。

「第7条 いかなる組織および個人も、国家の情報活動に協力する義務を有する」

今から数年もすれば全世界に第5世代の通信網が行きわたるでしょう。そのときに中国という巨大国家に後押しされた巨大企業ファーウェイが価格競争をしかけて、世界中のライバル企業を蹴落とし、第五世代の覇者になっていたらどうなるでしょうか。世界中の通信部品メーカーは、ファーウェイなしには存在し得ない状況になっていることでしょう。

そのためファーウェイを操る中国共産党の世界支配を止めるには、今しかないとアメリカは現在やっきになっています。

いや、「時すでに遅し」という声も聞かれます。「中国は必要な部品をすべて自国で賄い、より力をつけ、13億人という自国の巨大マーケットだけで十分食っていける」・・・そう主張する人もいます。「いや、そんなことは不可能だ」と主張する人もいます。さて、どうなるでしょうか。

翻訳業界、昔あって今ないもの(その4)

版下作成

翻訳から印刷までの工程を大雑把に言うと、翻訳⇒ デザイン⇒ 版下⇒ 製版⇒ 印刷となります。印刷は「版」にインクをつけ紙に転写して行うのですが、この「版」を作成する工程を製版と言います。そしてその製版前の原稿が版下となります。

したがって版下は、文字や表や図などのレイアウトが最終形として完成している状態の原稿のことを言います。

このデザイン、版下作成、製版という印刷前の一連の工程をすべて机の上のパソコンで行うことをDTPといいます。 これはDesktop publishingの略で、直訳すれば「机上出版」となります。

DTPは、1980年代半ばにアメリカで誕生し、日本でも1990年前後から急速に普及しはじめたのですが、DTPが普及するまでは、印刷前のそれぞれの工程を人海戦術でこなさなければならずこれが結構大変でした。

これまでご紹介してきたように、タイプライターからワードプロセッサーへ移行することにより、文字の追加、変更、削除や作表は、電子データ上でできるようになり、修正作業はとても楽になりました。

しかしながら図がある場合にはそうはいきません。図は紙のコピーをとり所定の箇所へ糊で貼り付ける図の貼り込みという工程が必要だったからです。

特に技術文書は図が多いので大変ですが、CAD (computer-aided design) 、つまりコンピューターによる設計支援ツールなどがない時代には、技術者が手で書いた設計図や回路図などのラフな図を清書するトレースという工程も必要でした。

トレースや図の貼り込みの工程は以下の通りです。

はじめに、トレース台の上にラフな図の書かれた紙を置き、その上にトレーシングペーパーを重ねます。トレース台は、ガラスの下に蛍光灯が入っていて、図の線が透けて見えるので、烏口(からすぐち)やロットリングという製図用のペンを使って線をなぞって清書をしていきます。

トレース台(出典:こちら

烏口(出典:こちら

トレースが完了したら、その図を複写機でコピーし、カッターナイフで該当部分を切り抜きます。次に、タイプライターで別紙に打ち込んである訳文をカッターナイフで細かく切り取り、続いて、その紙片をピンセットを使って所定の箇所に糊で貼り付けます。最後に図全体を文書の所定の箇所へ貼り込み、これでやっとこの図の貼り込みという作業が完成します。

このように版下作成における図の処理には多くの人手間がかかっていたのですが、その後、設計の世界にCADが普及していき、クライアントから支給される図も機械で作成されたものが急増し始めました。そのためトレーサーという職業もあっという間になくなってしまいました。

ただし、「機械で作成された図」と言ってもそれはまだ電子データではなく、紙で支給されたものだったので、原文の文字をホワイトで消し、その上に糊とピンセットを使って訳文を貼り付けるという図の貼り込み作業はしばらくのあいだ続きました。

しかし、1990年代も半ばになると安価で優れたレイアウトソフトや画像描画ソフトが次々と現れ、アップルの Macintosh (Mac) に PageMaker や Illustrator を載せてデザインや制作を行うようになりました。

その後 Mac に Adobe のレイアウトソフトやデザインソフトを載せて制作を行うという流れは、多くのプロのデザイナーに受け継がれ現在に至っています。

一方、複雑なレイアウトを求められない一般文書や超大量の文書でなければ、今では MS-Wordが事実上のスタンダードとなっています。 基本的にMS-Word はワープロソフトであり、DTPソフトではないのですが、DTPソフトに求められる数々の基本的な機能を兼ね備え、最も世の中に普及しています。そのため支給された MS-Word のデータ上に上書き翻訳するというやり方が、翻訳業界の中心になっています。

(この項、終わり)

翻訳業界、昔あって今ないもの(その3)

和文ワードプロセッサー専用機

1982年、和文ワードプロセッサーを購入しました。キヤノンのキヤノワードというワープロ専用機で、現在の複合機ほどの大きさがありました。これはローマ字入力で日本語を入力できるという点において、従来の和文タイプライターや写植機とは比べようもないほど使いやすい商品でした。買った当初このキヤノワードは330万円もしたのですが、半年後に半額になり、そのまた半年後に100万円を切りました。

キヤノワード (出典:こちら

その後しばらくして業務用ワープロでもっともシェアを持っていた富士通のOASYSを購入したのですが、1980年代なかば頃になると日本中の電機メーカーはどこもかしこも和文ワープロ専用機を売り出していました。そしてあっと言う間に30万円を切り、それを契機に一般家庭にも一気に普及し始めました。

OASYS 100GS (出典:こちら

パソコンのワープロソフト

1980年代なかば、和文ワープロ専用機と共に大量に世に出回り始めたのが、NECのPC-9800シリーズ、いわゆるPC98と言われるパソコンでした。「ピーシーキューハチ」もしくは単に「キューハチ」と呼ばれ、多くの日本人に親しまれました。一時期は日本のパソコンシェアの過半数を優に超す「伝説の国民機」でした。

PC-98 DO (出典:こちら

その伝説の国民機に搭載され、一時期一世を風靡した日本語ワープロソフトが、ジャストシステムの一太郎でした。

PC-98に一太郎を搭載すれば、パソコンとして表計算ソフトや経理ソフトその他、パソコン本来の機能を使え、かつワープロとしても使えるということで徐々に世の中に浸透しはじめました。

一太郎 (出典:こちら

しかし、その後すぐにマイクロソフトが独自のワープロソフト、MS-Wordの日本語機能を強化し、他製品との抱き合わせ販売などで大攻勢をかけたため、日本語ワープロソフトのシェアは一気にMS-Wordへと傾いたのでした。

両者の戦いは1990年代なかばにはほぼ決着がつき、ワープロソフトのシェアではMS-Wordが一太郎その他を圧倒し現在に至っています。同時に日本の電機メーカーが販売していたOASYSなどの日本語ワープロ専用機もほぼ時期を同じくして市場から消え去っていきました。

このように英文ワープロ専用機と和文ワープロ専用機がパソコン用のワープロソフトへ収斂し、一太郎はじめ数多くのワープロソフトもMS-Wordへと収斂し現在に至っています(ただし、一太郎は現在でも販売され頑張ってはいますが・・・)。

以上、ここまでわが業界におけるワープロ変遷の一部をご紹介させていただきましたが、DTPに関しては、また次回以降述べさせていただこうと思います。

(この項続く)

翻訳業界、昔あって今ないもの(その2)

英文ワードプロセッサ―専用機

1981年、会社に入って初めてワードプロセッサーという言葉を知りました。もちろん見るのも初めてだったのですが、米国IBM製の “Displaywriter” という英文ワードプロセッサーでした。

タイプライターで文字を打ち間違えれば、直すのは大変です。そのため「一打入魂」で早く正確に打つ職人芸が求められました。しかし、ワードプロセッサーでは、ディスプレイ上で文字を自由に追加、変更、削除でき、しかも文字情報を記憶し、あとからいくらでも修正が可能となりました。そのため英文タイピストという職業のあり方そのものを大きく変えるきっかけとなりました。

また、IBM Displaywriter には、スペルチェックの機能も備わっていました。しかし、辞書に入っている語彙数がわずかで、”Japan” や “Japanese” などの言葉さえも入っていない代物だったので、まったく使い物になりませんでした。コンピューターによるスペルチェックがそれなりに機能するようになるのは、その後7~8年経ってからだったと思います。

IBM Displaywriter (出典:こちら

その後しばらくして客先の要望により、CPT の英文ワードプロセッサーを2台購入しました。確か1台で400万円くらいした記憶があります。それに加えてメンテナンス料金が1台につき年間40万円以上かかり、かつ消耗品類もかなり高かったという記憶があります。

CPT (出典:Wikipedia

その後しばらくして、Wang の英文ワードプロセッサーが急速に日本でシェアを伸ばし始めました。ワードプロセッサーは、機能や値段よりもそのシェアが最も重要でした。つまり、客先が使っているワードプロセッサーの種類にあわせなければ、納品するデータつまりフロッピーディスクを納品することができないからです。

結局ジェスコーポレーションでも、1985年ころに3台の Wang を1,200万円以上かけて購入しました。まさに清水の舞台から飛び降りる覚悟だったのですが、なんとかブームの最後に乗っかることができ、とりあえず投資資金プラスアルファくらいは回収することができました。

Wang (出典:こちら

当時はどの英文ワードプロセッサーも8インチのフロッピーディスク(IBMでは、ディスケットと呼んでいましたが)を使っていましたが、その後、8インチ ⇒ 5インチ ⇒ 3.5インチと順次縮小されていき、かつ記憶容量は飛躍的に増大していきました。それにしてもフロッピーディスク容量のピークは1.44 MB だったわけですから、現在のギガやテラの世界は、あの当時は想像もできませんでした。

その後しばらくすると富士ゼロックスが J-Star を発売し始めました。これは、マウスやアイコンやマルチウィンドウを備えたワークステーションで、文字ばかりでなく、複雑な表や画像までもデジタルデータとしてとりこみ、編集することができる画期的な商品でした。

ただし、この J-Star の一番の問題点は、とにかく金額が高い、メンテナンス料金も高い、いや高すぎるという点でした。そのため私はさすがにこの導入には二の足を踏み、しばらく様子を見ることにしました。

実際 J-Star を導入したライバル各社は、かなり苦戦している様子でした。その後、パソコンやApple の Macintosh の急速な普及を考えるとあの時に勢いで J-Star を購入せずによかったと思います。

いずれにせよ、当時英文ワードプロセッサーはどれにしてもたいへん高価だったため、設備投資の機種の選定とタイミングは、非常に重要でした。

和文ワープロやDTPに関しては、次回述べてみたいと思います。

(この項続く)

翻訳業界、昔あって今ないもの(その1)

タイプライター

翻訳業界に昔(1980年代~1990年代)あって今ないものと言えば、まず最初にタイプライターが思い浮かびます。

私がこの業界に入ったのは1981年ですが、当時はちょうどマニュアルタイプライターから電動タイプライターへ移行する真っ最中でした。私も下の写真のようなタイプライターを渡され、自宅でタイピングの練習をした記憶があります。

当時は翻訳者もタイピストも紙と紙のあいだにカーボン用紙を挟み、カーボンコピーを残していたのですが、打ち間違いなどすると2枚ともホワイトで修正しなければならず非効率でした。ワープロが当たり前となっている現在ではとても考えられないことです。

マニュアルタイプライター (出典:Wikipedia

そして、その後急速に世の中に普及し始めたのが、電動タイプライターでした。当時圧倒的シェアを誇っていたのがIBMの電動タイプライターで、タイプボール(写真下)を使っていました。このボールが電動でくるくると回り、紙とボールの間に挟まれたインクリボンをたたいて文字を印字するのです。

電動式はマニュアル式に比べて、あらゆる点で機能的に優れていたのですが、とても大きく、重く、うるさくて、オフィス内で数十台が一斉に打たれ始めるとうるさくて電話の声を聞き取るのも大変でした。また、当時IBMの電動タイプライターは1台20万円から30万円もしたので、数十台を買いそろえ、かつ高額な消耗品を買い続けることも金銭的負担になりました。

特にタイプボールは、客先の要望に応じて4~5種類のフォントをそろえなければならず、また、落としたりするとどこかの文字が欠けるようこともあり、突然タイプボールが足りなくなるなんてこともありました。販売会社に電話しても在庫がなく、あわてて横浜港の倉庫まで受け取りに行ったなんてこともありました。

IBMのタイプボール (出典:Wikipedia

その後しばらくして、デイジーホイール(写真下)を使ったイタリアのオリベッティ―製の電動タイプライターが発売されたので購入しました。私たちは、このデイジーホイールのことを「おせんべい」と呼んでいましたが、間違えて落としても簡単には壊れずその点は良かったと思います。

デイジーホイール (出典:Wikipedia

さて、上記のタイプライターはすべて英文タイプライターの話ですが、和文タイプライターとなるとまた話が違ってきます。

1980年代初めころだったと思いますが、日本語のタイプを打ってもらうためにある小さな印刷屋さんへ行ったことがありました。

B5の用紙1枚に文字のベタ打ちだけだったのですが、2万円以上の費用がかかり、びっくりした記憶があります。翻訳の料金よりもずっと高かったからです。

その小さな印刷屋さんの中に入ると、薄暗い場所で猫背の女性が5~6人、下の写真のような和文タイプライターに向かって一心不乱に文字を打っていました。昔の話なので記憶も定かではないのですが、これよりももっと大きな機械だった気もします。

和文タイプライター (出典:和文タイプライター

英語で使われる文字は、アルファベットの大文字と小文字52文字+その他の記号だけですが、少なくとも数千文字を使う日本語ではそうはいきません。活字の棒ひとつひとつをつまみあげてインクをつけて紙に打ちつけるわけです。当然ほしい漢字がなければ、活字の在庫のなかから探して入れ替えなければなりません。

気が遠くなりそうな作業ですが、当時和文タイプライターの職人さんたちは特殊技能者としてそれなりの賃金を得ていたことでしょう。しかしその後すぐにワードプロセッサーつまりワープロが急速に世の中に普及したため、和文タイプライターはあっという間に市場から消え去りました。

もっとも印刷業界においては、和文タイプライターに代わって写真植字機(写植)というものが普及したようですが、ワープロとDTPの急速な普及により、単なる文字入力だけという仕事に対する対価が、その後つるべ落としとなったことは言うまでもありません。

英文ワープロ、和文ワープロ、DTPに関しては、次回以降述べていきたいと思います。

(この項続く)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その6)

最後に他のヨーロッパ諸語から距離を置く言語、つまり言語学的にグループを形成していない独立した状態の言語を試してみます。具体的にはギリシャ語とアルバニア語がそれにあたります。また、リトアニア語はバルト語派に属する言語でお隣の国の言葉、ラトビア語と同じ語派ですが、バルト語派自体が他のヨーロッパ諸語とは少し距離をおく位置にあります。

ギリシャ語派
<ギリシャ語 原文①>
Πού είναι η ιαπωνική πρεσβεία;
(人間訳)
日本大使館はどこですか?
(Google訳 日本語)
日本大使館はどこにありますか?
(Google訳 英語)
Where is the Japanese embassy?

日本語も英語もきちんと訳されています(英語の方は “embassy” が “Embassy” になっていればより良かったという細かい問題はありますが)。


<ギリシャ語 原文②>
Τι μέρα είναι σήμερα;
(人間訳)
今日は何曜日ですか?
(Google訳 日本語)
今日は何の日です
(Google訳 英語)
What day is today;

日本語は「何曜日」が「何の日」になってしまい最後の「か?」も抜けているため使えません。英語は最後につける ”?” が ”;” になってしまったところが残念です。


アルバニア語派
<アルバニア語 原文①>
Ku është nevojtorja?
(人間訳)
トイレはどこですか?
(Google訳 日本語)
トイレはどこですか?
(Google訳 英語)
Where is the needle?

日本語の方はきちんと訳されていますが、なぜか英語のほうは唐突に “needle” (針)が現れてきます。完全に誤訳です。ただ不思議なことにGoogle翻訳に ”nevojtorja? だけを入力するとちゃんと「toilet?」と訳されます。ちなみに日本語の方も「トイレ?」となります。


<アルバニア語 原文②>
Mund të përdorni telefonin tuaj?
(人間訳)
あなたの電話を使ってもよろしいですか?
(Google訳 日本語)
あなたの携帯電話を使用することができますか?
(Google訳 英語)
Can you use your phone?

日本語の方は意図するところは伝わりますが、英語の方は “I” とすべきが “you” となり意味が逆になっています。


<アルバニア語 原文③>
A mund të më ndihmoni ju lutem.
(人間訳)
助けてください。
(Google訳 日本語)
あなたは私を助けてくださいすることができます。
(Google訳 英語)
Can you help me please.

日本語では話者の意図するところは伝わりませんが、英語の方では伝わるでしょう。


<アルバニア語 原文④>
Unë kam nevojë për një doktor.
(人間訳)
医者が必要です。
(Google訳 日本語)
私は医者を必要とします。
(Google訳 英語)
I need a doctor.

日本語も英語もきちんと訳されています。


バルト語派
<リトアニア語 原文①>
Ką jūs studijuojate? Studijuoju lietuvių kalbą.
(人間訳)
あなたは何を学んでいるのですか? リトアニア語を学んでいます。
(Google訳 日本語)
あなたは何を教えていますか? リトアニア語を学びます。
(Google訳 英語)
What are you studying?  I study Lithuanian language.

日本語の方は、なぜか「学ぶ」が「教える」と意味が真逆になっています。英語の方は話者の意図するところは伝わっています。


<リトアニア語 原文②>
Man parėjus namo, paskambino draugė.
(人間訳)
私が家へ帰ると、女友達が電話してきました。
(Google訳 日本語)
私は友人を呼び出し、家に帰りました。
(Google訳 英語)
When I got home, a girlfriend called.

日本語の方は完全な誤訳ですが、英語の方は話者の意図するところはちゃんと伝わるでしょう。


<リトアニア語 原文③>
Atsiprašau, gal galite pasakyti, kur yra knygynas?
(人間訳)
すみません、本屋がどこにあるか教えてもらえますか?
(Google訳 日本語)
本屋がどこ申し訳ありませんが、あなたは私を伝えることができますか?
(Google訳 英語)
Sorry, can you tell me where is the bookstore?

日本語の方はまるで意味不明です。英語の方は “is” の位置がおかしいですし、もちろん”Sorry,” は “Excuse me,” にすべきですが、とりあえず相手に意味は通じるでしょう。


さて、ここまで17のヨーロッパ言語をGoogle翻訳で試してきましたが、この辺でこのシリーズを終了したいと思います。

全体を通して感じたことは、文章がシンプルであったり、定形表現であったりすれば、かなりきちんと訳されているということでした。

また、中には驚くほど見事に訳されている文章があるかと思えば、トンチンカンな訳になっていたり、意味が真逆に訳されていたりというケースもありました。

試した言語がどれもヨーロッパ言語の中では比較的マイナーな言語だったので、コーパスの少なさゆえにこのようなギャップが生じたのでしょうか。

また「日本語への翻訳」と「英語への翻訳」はどちらがより正確か、という観点から考えるとやはり「英語への翻訳」の方がずっと正確に訳されているという印象があります。

これは英語がヨーロッパ言語のひとつであるという理由に加えて、世界最大の流通言語である英語への翻訳ほうが、日本語への翻訳よりもより多くのコーパスが存在しているからということなのかもしれません。

Google翻訳は、使えば使うほど進化するディープラーニングという手法を用いたAIなので、今後良質のコーパスがもっと蓄積されていけば完成度はより高まっていくのでしょう。

しかし、現状においては、意味が正反対に訳されたり、まったく意味不明の訳になったりするので、人間によるチェックはまだまだ不可欠と言わざるを得ません。

(この項終わり)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その5)

次にフィン・ウゴル語派に属するハンガリー語とフィンランド語をGoogle翻訳してみましょう。両言語とも言語の形態論上、トルコ語、モンゴル語、日本語、朝鮮語、その他のアジア言語と同じ膠着語(こうちゃくご)に分類されています。

つまり英語から見れば、ヨーロッパ言語の中では、一番文法的に離れた存在の言語と言えるのかもしれません。

フィン・ウゴル語群
<ハンガリー語 原文①>
Kicsit rosszul érzem magam. Tudna adni valamilyen orvosságot?
(人間訳)
少し気分が悪いです。何か薬をください。
(Google訳 日本語)
私は少し病気を感じます。あなたはどんな薬を持っていますか?
(Google訳 英語)
I feel a bit bad. Can you give me some medicine?

上記は変な日本語ではありますが、なんとか意図は伝わるかもしれません。英語のほうは話者の意図するところはきちんと伝わるでしょう。


<ハンガリー語 原文②>
Szeretném megváltoztatni a foglalás létszámot.
(人間訳)
予約の人数を変更したいのですが。
(Google訳 日本語)
私は私の予約人員を変更したいです。
(Google訳 英語)
I would like to change the booking number.

日本語も英語もなんとか意図するところは伝わるのではないでしょうか。


<ハンガリー語 原文③>
Hol van a bevásárlónegyed ebben a városban?
(人間訳)
この街のショッピング街はどこですか?
(Google訳 日本語)
市内の商店街はどこですか?
(Google訳 英語)
Where is the shopping district in this city?

日本語も英語も意図するところは伝わるでしょう。


<ハンガリー語 原文④>
Elvesztettem a pénztárcámat. Benne volt a hitelkártyám.
(人間訳)
クレジットカードの入った財布をなくしました。
(Google訳 日本語)
私の財布を失くしました。それは私のクレジットカードにありました。
(Google訳 英語)
I lost my wallet. My credit card was in it.

日本語の方は、「財布がクレジットカードの中にあった」と意味が逆になっています。それに対し英語の方は、きちんと訳されています。

<ハンガリー語 原文⑤>
Körülbelül mennyibe kerül a taxi a városközpontig?
(人間訳)
市の中心までタクシー代はいくらくらいですか?
(Google訳 日本語)
市内中心部までどのくらいのタクシーについて?
(Google訳 英語)
About how much does the taxi cost to the city center?

日本語は残念ながら意味不明です。英語の方はかろうじて意味は通じるのではないでしょうか。


<フィンランド語 原文①>
Tämä katu on liukas.
(人間訳)
この通りは滑りやすい。
(Google訳 日本語)
この通りは滑りやすいです。
(Google訳 英語)
This street is slippery.

日本語も英語もきちんと訳されていると思います。


<フィンランド語 原文②>
Poliisi sulki kadun.
(人間訳)
警察は通りを封鎖した。
(Google訳 日本語)
警察は通りを閉じました。
(Google訳 英語)
Police shut the street.

日本語も英語もなんとか話者の意図するところは伝わると思います。


<フィンランド語 原文③>
Uskotko aaveisiin?
(人間訳)
あなたは幽霊の存在を信じますか?
(Google訳 日本語)
あなたは幽霊を信じますか?
(Google訳 英語)
Do you believe in ghosts?

日本語も英語もきちんと訳されていると思います。


<フィンランド語 原文④>
Hän sai kirjan vanhalta opettajaltaan.
(人間訳)
彼(あるいは彼女)は年取った先生から本をもらった。
(彼、彼女という表現はなく、男性も女性もhänと言う)
(Google訳 日本語)
彼は昔の先生から本を受け取りました。
(Google訳 英語)
He got the book from his old teacher.

日本語のほうは「年取った先生」が「昔の先生」になってしまっているところが残念です。英語の方は “his old teacher” が良いのか “an old teacher” が良いのか “the old teacher” が良いのか、この文章だけでは判断がつきませんが、話者の意図するところは伝わるでしょう。


以上、ヨーロッパ言語の中で英語と最も離れていると思われるフィン・ウゴル語派に属するハンガリー語とフィンランド語のGoogle翻訳を試してみましたが、その出来栄えについては、スラヴ語などと比べても特に際立った違いがあるとは感じませんでした。

(この項続く)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その4)

それでは続いて、南スラヴ語群に属するブルガリア語、セルビア語、クロアチア語、スロベニア語をGoogle翻訳してみます。

南スラヴ語群
<ブルガリア語 原文①>
Обичам класическа музика.
(人間訳)
私はクラシック音楽が好きです。
(Google訳 日本語)
私はクラシック音楽が大好きです。
(Google訳 英語)
I love classical music.


<ブルガリア語 原文②>
Къде е тоалетната?
(人間訳)
トイレはどこですか?
(Google訳 日本語)
トイレはどこですか?
(Google訳 英語)
Where is the toilet?


<ブルガリア語 原文③>
Не мога да говоря Български.
(人間訳)
私はブルガリア語を話すことができません。
(Google訳 日本語)
私はブルガリア語を話すことができません。
(Google訳 英語)
I can not speak Bulgarian.

上記3つの例文は、どれもがシンプルな定形表現であるからかもしれませんが、話者の意図するところは伝わっていると思います。


<セルビア語 原文① ラテン文字の場合>
On je došao kući juče u dvanaest.
(人間訳)
彼は昨日家に12時に帰ってきました。
(Google訳 日本語)
彼は12で昨日帰ってきました。
(Google訳 英語)
He came home yesterday at twelve.

上記のセルビア語⇒日本語は「彼は昨日帰ってきた」ことはわかりますが、残念ながら「12で」が意味不明です。セルビア語⇒英語の方は、話者の意図は伝わるでしょう。


<セルビア語 原文② ラテン文字の場合>
Ovo je Japanac koji često dolazi kod mene.
(人間訳)
これは私の家によく来る日本人です。
(Google訳 日本語)
これは、多くの場合、私に来る日本人の男です。
(Google訳 英語)
This is a Japanese man who often comes to me.

これは男の写真を指さしながらの会話シーンなのでしょうか。セルビア語⇒日本語もセルビア語⇒英語もなんとか話者の意図するところは伝わるのではないでしょうか。


<セルビア語 原文③ ラテン文字の場合>
Piši kao što govoriš i čitaj kako je napisano.
(人間訳)
話すように書き、書いてある通りに読め。
(Google訳 日本語)
あなたが話すよう書いて、それが書かれていると読みます。
(Google訳 英語)
Write as you say and read how it is written.


<セルビア語 原文④ キリル文字の場合>
Пиши кao што говориш и читaј кaкo je нaписaнo.
(人間訳)
話すように書き、書いてある通りに読め。
(Google訳 日本語)
あなたが話すよう書いて、それが書かれていると読みます。
(Google訳 英語)
Write as you say and read how it is written.

セルビア語③と④のGoogle日本語訳は意味不明です。英語のほうも “as” にすべきが “how” になっていて、やはり使えないでしょう。
セルビアではキリル文字とラテン文字の両方が使われていて、それぞれのアルファベットが一対一で対応しています。そのため原文がキリル文字であってもラテン文字であってもGoogle翻訳の結果は当然のごとくまったく同じでした。


<クロアチア語 原文①>
On uvek govori japanski.
(人間訳)
彼はいつも日本語を話しています。
(Google訳 日本語)
彼はいつも日本語を話します。
(Google訳 英語)
He always speaks Japanese.


<クロアチア語 原文②>
Javite se obavezno, kad budete došli.
(人間訳)
到着したら必ず連絡してください。
(Google訳 日本語)
あなたが来たときに、必ずするレポート。
(Google訳 英語)
Be sure to come back when you come.

クロアチア語の①は、日本語も英語もきちんと訳されています。②の方は、日本語はかろうじて意味を類推できそうという意味では、英語よりはまだましと言えるでしょうか。


<スロベニア語 原文①>
Sem Japonec. (男性の場合) Sem Japonka. (女性の場合)
(人間訳)
私は日本人です。
(Google訳 日本語)
私は日本人です。 私は日本人女性です。
(Google訳 英語)
I am Japanese.  I’m Japanese.

スロベニア語⇒日本語の方は、わざわざ「日本人女性」と訳しているところに感心しました。英語の方は、”I am” と “I’m” で使い分けているところを笑ってしまいました。たまたまコーパスがそうなっていたのでしょうか。いずれにしても意味は正しく伝わっています。


<スロベニア語 原文②>
Izgubil sem dokumente.
(人間訳)
私は自分の書類を無くしてしまいました。
(Google訳 日本語)
私はマイドキュメントを失いました。
(Google訳 英語)
I lost the documents.

日本語のほうは、英語の ”document” の意味を知らない日本人にとっては、「???」となってしまうので、やはり問題ありでしょう。
英語のほうは、意味は伝わるのではないでしょうか。

(この項続く)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その3)

ウクライナ語はロシア語、ベラルーシ語にきわめて近い東スラヴ語群の一員で、かつ歴史的、地理的関係から西スラヴ語群のポーランド語とも多くの語彙を共有しています。さて、そんなウクライナ語をGoogle翻訳するとどうなるでしょうか?


東スラヴ語群
<ウクライナ語 原文①>
Зробивши домашнє завдання, він пішов до друга.
(人間訳)
勉強を終えると彼は友人のところへ出かけた。
(Google訳 日本語)
宿題をやって、彼は友人に行ってきました。
(Google訳 英語)
Doing homework, he went to a friend.


<ウクライナ語 原文②>
Вона значно краще пише українською, ніж англійськю.
(人間訳)
彼女は英語よりもウクライナ語の方がはるかに上手に書けます。
(Google訳 日本語)
彼女は英語よりもはるかに優れウクライナを書き込みます。
(Google訳 英語)
She writes much better Ukrainian than English.

上記2つのウクライナ語の文章ともなんとか意味のわかる日本語になっています。英語に関して言えば日本語よりずっと良くできているのではないでしょうか。


次に西スラヴ語群に属する3つの言語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語を試してみます。この3言語はきわめて複雑怪奇な文法構造を持ち、ヨーロッパ言語の中で最も難解な言語と言われているそうです。そんなポーランド語、チェコ語、スロバキア語をGoogle翻訳するとどうなるでしょうか?


西スラヴ語群
<ポーランド語 原文①>
Chcialbym zarezerwować stolik dla sześciu osób na dzisiaj na dziewiętnastą.
(ちなみにChcialbym は、話者が男性の場合/話者が女性の場合は、Chcialabym を使います)
(人間訳)
今晩7時に6人で予約したいのですが。
(Google訳 日本語)
私は、19の上に、今日6人用のテーブルを予約したいと思います。
(Google訳 英語)
I would like to book a table for six people today for the nineteenth.

日本語も英語も時間を正確に表現できないところが残念ですが、それ以外は話者の意図が伝わる言葉になっているのではないでしょうか。


<ポーランド語 原文②>
Czy może mnie Pan poinformować o miejscach, które są warte zwiedzenia w tym mieście?
(ちなみに、Pan は、相手が男性の場合/相手が女性の場合は、Pani を使います)
(人間訳)
この街のみどころを教えてください。
(Google訳 日本語)
あなたはこの街に訪れる価値のある場所について教えてもらえますか?
(Google訳 英語)
Can you tell me about places that are worth visiting in this city?

日本語も英語も話者の意図は伝わっているのではないでしょうか。


<チェコ語 原文①>
Dobře. Dejte, prosím, celní prohlášení úředníkovi u východu.
(人間訳)
結構です。この申告書を出口の係官に渡してください。
(Google訳 日本語)
わかりました。出口から公式宣言を喜ば与えます。
(Google訳 英語)
Good. Please give the customs declaration to an official at the East.


<チェコ語 原文②>
Odneste mi, prosím, toto zavazadlo na stanoviště taxi (autobusovou zastávku).
(人間訳)
この荷物をタクシー乗り場(バス停)まで運んでください。
(Google訳 日本語)
タクシー(バス停)に、この荷物を行って下さい。
(Google訳 英語)
Please take this luggage to the taxi station (bus stop).


<チェコ語 原文③>
Chtěl bych poslat tento balík do Japonska.
(Chtěl は、話者が男性の場合/話者が女性の場合は、Chtěla)
(人間訳)
この小包を日本へ送りたいのですが。
(Google訳 日本語)
私は日本にこのパッケージを送信したいと思います。
(Google訳 英語)
I would like to send this package to Japan.

チェコ語⇒日本語に関して言えば、①は×、②は△、③は〇といったところでしょうか。
チェコ語⇒英語に関して言えば、①は×、②は△に近い〇で、③は〇といったところでしょうか。


<スロバキア語 原文①>
Dobrý deň. Prepáčte, prosím, hľadám hlavnú stanicu.
(人間訳)
こんにちは。すみません、中央駅を探しているのですが。
(Google訳 日本語)
今日は。すみません、私は中央駅を探していますしてください。
(Google訳 英語)
Good day. Sorry, I’m looking for the main station.


<スロバキア語 原文②>
Hlavnú stanicu? Hlavná stanica je veľmi ďaleko. Nemáte auto?
(人間訳)
中央駅ですか?中央駅はだいぶ遠いですよ。車はないのですか?
(Google訳 日本語)
中央駅?主要駅は遠いです。あなたは車を持っていないのですか?
(Google訳 英語)
Main station? The main station is very far away. Do not have a car?


<スロバキア語 原文③>
Mám. Vidíte ten posledný dom? Tam mám voz.
(人間訳)
あります。あそこの隅の家が見えますか?あそこにあるのが車です。
(Google訳 日本語)
私が持っています。あなたはその最後の家を参照してください?そこで私の車。
(Google訳 英語)
I have. Do you see the last house? I have a car there.

スロバキア語⇒日本語に関し言えば、①は△、②は△に近い〇、③は×といったところでしょうか。
スロバキア語⇒英語に関して言えば、①はなんとか意図は伝わるかもしれないという意味で、△でしょうか。②もおかしな英語ですが、かろうじて意図は伝わるかもしれないという意味で、×に近い△でしょうか。③は意図が伝わるという意味で〇でしょうか。

(この項続く)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その2)

次にロマンス諸語に移りたいと思います。

ご存じのとおり、ロマンス諸語にはフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語などの主要ヨーロッパ言語が含まれていますが、ここではそれらは避けてマイナーな言語に絞って試してみようと思います。

ルーマニアは東ヨーロッパに位置する国ですが、ルーマニア(România)という国名自体が「ローマ人の国」を意味することからもわかるように、ルーマニア語もラテン語から分岐したロマンス諸語に属しています。

とは言うものの、ルーマニア語も長い歴史のなかでとりわけスラヴ語圏からは強い影響を受けてきています。さらにハンガリー語、トルコ語、ギリシャ語からの影響もあり、ロマンス諸語の中でもかなり特異な存在と言えます。

そのへんの事情は、他のロマンス諸語にはない文法構造に表れているようです。一方、文字に関しては19世紀以降キリル文字からラテン文字への移行が進み現在に至っています。

さて、それではそのような特異な存在であるルーマニア語を「Google翻訳」するとどうなるか?さっそくやってみましょう。


ロマンス諸語
<ルーマニア語 原文①>
Au ieșit din casă, au coborât din lift și au urcat în mașină.
(人間訳)
彼らは家を出て、エレベーターから降り、車に乗りました。
(Google訳 日本語)
彼らは、家を出エレベーターを降りて、車の中で得ました。
(Google訳 英語)
They got out of the house, got off the elevator and got into the car.

日本語は「車の中で得ました」が残念です。
英語は話者の意図するところはきちんと伝わるでしょう。


<ルーマニア語 原文②>
Cât este ceasul acum? Este ora paisprezece și patruzeci și cinci de minute.
(人間訳)
今何時ですか? 14時45分です。
(Google訳 日本語)
それは今何時ですか?時間は午前2時45 p.m..です
(Google訳 英語)
What time is it now? It’s fourteen forty-five minutes.

日本語は、「午前」なのか「午後」なのかわからないという大きなミスを犯しています。
英語もおかしいですが、かろうじて意味は通じるかもしれません。


<ルーマニア語 原文③>
Dumneavoastră sunteți professor? Nu. Sunt inginer.
(人間訳)
あなたは先生ですか? いいえ、私はエンジニアです。
(Google訳 日本語)
あなたは先生ですか いいえ。私はエンジニアです。
(Google訳 英語)
Are you Professor? Not. I’m an engineer.

日本語は、句読点の使い方を除けば正しく訳されています。
英語は冠詞の使い方や”No,” が“Not.”になるなどの問題はありますが、話者の意図するところはきちんと伝わるのではないでしょうか。


<ルーマニア語 原文④>
Biserica Neagră este cel mai reprezentativ monument de arhitectură gotică din România.
(人間訳)
「黒の教会」は、ルーマニアで最も代表的なゴシックの建造物です。
(Google訳 日本語)
黒の教会はルーマニアのゴシック建築の最も代表的な建造物です。
(Google訳 英語)
The Black Church is the most representative monument of Gothic architecture in Romania.

日本語も英語もほぼ正確に訳されているのではないでしょうか。


<ルーマニア語 原文⑤>
Nu pot să merg cu tine, deoarece am de învățat pentru măine.
(人間訳)
明日のために勉強しなければならないので、君と一緒には行けません。
(Google訳 日本語)
私は明日のために学んだので、私はあなたと一緒に行くことはできません。
(Google訳 英語)
I can not go with you, because I have to learn for tomorrow.

日本語では「勉強しなければならない」が「学んだので」になっているところが残念ですが、だいたい話者の意図は伝わると思います。
英語は話者の意図するところはきちんと訳されているのではないでしょうか。


<ルーマニア語 原文⑥>
Ea, văzând că la poștă este prea multă lume, a hotărât să vină în altă zi.
(人間訳)
彼女は、郵便局にあまりにも多くの人がいるのを見て、他の日に来ることにしました。
(Google訳 日本語)
彼女はポストは、あまりにも多くの人々であることを見て、彼は別の日に来ることを決めました。
(Google訳 英語)
She, seeing too many people at the post office, decided to come another day.

日本語は途中からいきなり主語が「彼女」から「彼」に変わるという致命的なミスを犯しているため使えない訳と言わざるを得ません。
それに対して、英語のほうは話者の意図するところを伝えていると思います。


わずかな例文だけではありますが、ロマンス諸語の中にあって特異な存在であるルーマニア語の「Google翻訳」の結果はどうだったでしょうか。

英語への翻訳に関して言えば、時間表記の点を除けば、ほぼ問題なく通じる訳ができていたのではないでしょうか。

一方日本語への翻訳はどうかというと、まだまだ不完全と言わざるをえません。

ただし、日本語・ルーマニア語間と英語・ルーマニア語間のコーパスの量を考えればそれも当然の結果なのかもしれませんが。

(この項続く)

ヨーロッパ言語とGoogle翻訳(その1)

ディープラーニング

今から4か月ほど前(2017年2月)になりますが、東京大学大学院、松尾豊先生の「人工知能の未来 ~ディープラーニングの先にあるもの~」という講演を聞きました。まずはそこでお聞きした話をご紹介させていただきます。

「地球上における生命の誕生は約38億年前だが、今から5億年ほど前に初めて眼を持つ生物が現れた。

それまでは、たまたまぶつかった生物同士が食い合いどちらかが勝ち残っていた。しかし、最初に眼を持った三葉虫という生物は当然他より強くなり、勝ち残っていった。そのうち食われる側も眼をもつ生物だけが生き残り、持たない生物は死に絶えていった。これにより眼を持つ生物の繁栄が始まった。

生物が眼を持つまでに33億年もの時間を費やしたが、眼を持ってからの5億年で生物は急速に進化を遂げることになる。

これとまったく同じことが現在、AIの世界で起きようとしている。その一つの表れが「Googleの猫」の話だ。

AIに何の情報も与えずに「ネコ」「イヌ」「オオカミ」の写真の中から「ネコの写真がどれかを選べ」と命ずる。

するとAIは、ビッグデータからネコの特徴を拾い、耳が垂れている動物の写真はイヌであり、ネコではないと判断する。

しかし、隣のオオカミの耳は、ネコにように立っている。人間はこればオオカミの顔であり、ネコではないとすぐにわかるわけだが、機械にそのような常識はない。

そこでAIは、さらにビッグデータの中から「ネコは目が丸い」「オオカミは目が細い」という特徴を拾い、結局左の写真がネコであると特定する。

このように「ディープラーニング革命」により、コンピュータができて以来、初めて「画像を認識」できるようになった。

それにより「運動の習熟」が始まり、ロボットや機械がより熟練した動きができるようになる。

それにより映像と文章の相互変換ができるようなり、「言語の意味の理解」がより深くできるようになる。

今後、ディープラーニングにより「眼を持った機械」が次々と誕生し、産業を変えていく可能性が高い。また、機械翻訳もこれから5年も経たぬうちにかなり急速に進歩していくだろう。」

ざっとこのような話であったと思います。

ヨーロッパ言語における語彙間の距離

さて、次にヨーロッパ言語における語彙間の距離、つまり語彙の違いの度合いを示した図をご紹介させていただきます。

(出典:Lexical Distance Among the Languages of Europe
この図の元の研究データは、K. Tyshchenko(1999)、Metatheory of Linguisticsのもので、ウクライナ語で公開されています。

それではこれから何回かに分けて、さまざまなヨーロッパ言語から英語および日本語への翻訳を「Google翻訳」を使って試してみようと思います。

なぜヨーロッパ言語なのかというと、「極東」に位置する日本と「極西」に位置する英国は世界で最も離れた言語を持つ国だと私は考えているので、まずは英語と近い存在にあるヨーロッパ諸語から試してみようと思うからです。

その際、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ロシア語などのいわゆるヨーロッパの主要言語と英語との間では、すでにかなりな量のコーパスが蓄積されているだろうとの観測から、ここでは比較的マイナーなヨーロッパ言語に絞って試してみようと思います。

さて、まずは英語が属する「ゲルマン語派」の言語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語の3言語を「Google翻訳」にかけてみたいと思います。


ゲルマン語派
<スウェーデン語 原文>
Kan ni bära väskorna till rummet?
(人間訳)
荷物を部屋まで運んでもらえますか?
(Google訳 日本語)
あなたは部屋に荷物を運ぶことができますか?
(Google訳 英語)
Can you carry the bags to the room?


<デンマーク語 原文>
Jeg har boet i Købenahvn siden sidste år.
(人間訳)
私は去年からコペンハーゲンに住んでいます。
(Google訳 日本語)
私は去年からコペンハーゲンに住んでいます。
(Google訳 英語)
I have lived in Copenhagen since last year.


<ノルウェー語 原文>
Jeg kan ikke snakke norsk godt.
(人間訳)
私はうまくノルウェー語を話せません。
(Google訳 日本語)
私はノルウェーをよく話すことはできません
(Google訳 英語)
I can not speak Norwegian well.


それぞれ簡単な文章であるとはいえ、英語はゲルマン語派に属する言語なので、同じゲルマン語派に属するこれらの3言語を英語にGoogle翻訳すると正しいもしくはちゃんと意味の通じる文章に訳しています。

日本語への翻訳に関して言えば、デンマーク語は正しく訳されています。ノルウェー語は「ノルウェー」を「ノルウェー語」に変えなければいけませんが、ほぼ問題ないでしょう。スウェーデン語は、話者の意図するところは十分わかってもらえるでしょう。

(この項続く)

統合型リゾート推進法案(カジノ法案)の行方

「統合型リゾート(IR: Integrated Resort)施設の整備を推進する法案」、いわゆる「カジノ法案」をめぐって、与野党が攻防を繰り広げています。

私は一切ギャンブルをやらない人間ですが、ぜひともこの「カジノ法案」を成立させてもらいたいと願っている人間の一人です。なぜならそれが日本の将来のためになると信じているからです。もちろんこれは日本の翻訳業界にとってもプラスになるでしょうが、別に我田引水でそう主張しているわけではありません。

理由は2つあります。

① やり方によっては、日本のギャンブル依存症患者を減らす可能性がある。

② 日本の国際化を強力に後押しし、訪日外国人を増大させ、日本経済の将来に多大なプラスをもたらす。

まず、①ですが「カジノ法案」反対派の理由のひとつに、「ギャンブル依存症が助長される」という論拠があります。確かに現在の日本は異常にギャンブル依存症の多い国で、WHO(世界保健機構)が2009年に行った調査によると日本には、559万人もの「ギャンブル依存症」の人間がいるとことです。これは諸外国と比べても異常に多い国であるということがわかっています。この点に関しては、私が2013年10月21日に書いたブログにも記載されているのでご参考までにご覧ください。

カジノ市場 伸び盛り マカオ世界一、観光客呼び込む

シンガポールの統合型リゾート、マリーナベイ・サンズの夜景 出典:http://sandsjapan.com/about-ir/singapore-case-study/

シンガポールの統合型リゾート、マリーナベイ・サンズの夜景 出典:http://sandsjapan.com/about-ir/singapore-case-study/

それではなぜ日本にだけそこまで異常に「ギャンブル依存症」患者が多いのでしょうか?

WHO(世界保健機構)も指摘しているように、ギャンブルは麻薬と同じで「依存症」となる危険性が非常に高いため、世界のどの国においてもギャンブル施設は必ず隔離された場所にあります。

しかしながら、日本では、駅前や人通りの多い場所に必ずと言ってよいほどパチンコ屋があり、多数の子供たちや通勤通学の乗降客が毎日その前を通ります。これでは麻薬患者の鼻先に毎日麻薬をぶら下げて歩かせているようなものです。

ただ、日本社会におけるパチンコ問題は非常にセンシティブであり、そう簡単に解決できるような問題ではありません。

歴史問題、民族問題、政治家、警察、官僚、裏社会、東アジア諸国、経済界、芸能界、スポーツ界を巻き込む非常に根深い問題になるので、一朝一夕に解決するわけもありません。

ましてやカジノができれば、一番最初に打撃を被るのは、近隣のパチンコ業界でしょうから、そういった面からもパチンコ業界は黙ってはいないでしょう。

それだけにパチンコ業界関係者をできるだけスムーズにカジノ業界へ引き込みながら、駅前のパチンコ屋の数を減らしてゆき、ゆくゆくは全てのパチンコ屋を隔離された場所へ移行できれば、一石二鳥どころか、三鳥、四鳥とすることができるでしょう。

その実現が日本の社会構造上非常に難しいということは良く理解できますが、一刻も早く「カジノ法案」を成立させ、ぜひともその改革の第一歩を踏み出してほしいと願っております。

さて、②の理由ですが、MICEという言葉をご存知でしょうか。

  • M: Meeting ⇒ 企業、その他の団体が行う会議やセミナーなど
  • I : Incentive Travel ⇒ 企業、その他の行う招待旅行や報奨・研修旅行など
  • C: Convention ⇒ 国際機関・団体、学会等が行う国際会議や学術会議など
  • E: Exhibition/Event ⇒ 展示会・見本市、イベントなど

このMICEにホテルなどの宿泊施設、劇場、スポーツ競技場、遊園地などのレクリエーション施設、ショッピング施設、カジノ施設などを加えて「統合型リゾート」と呼んでいます。

シンガポールの統合型リゾート、マリーナベイ・サンズ 出典:http://sandsjapan.com/about-ir/

シンガポールの統合型リゾート、マリーナベイ・サンズ 出典:http://sandsjapan.com/about-ir/

MICEは、国の国際化のためには欠かせない重要な施設ですが、この施設の運営だけではまずまちがいなく赤字となり、施設そのものを維持することが非常に難しくなります。

家族とともにちょっと豪華なホテルに泊まり、お堅い学術会議のあとにショーやスポーツ観戦を楽しみながら、カジノやショッピングでもお金を落としてくれるからこそMICE施設そのものが維持できるというものです。

それで成功を収めているのが、ラスベガスやシンガポールやマカオということになります。

マカオの統合型リゾート、ギャラクシー・マカオ 出典:http://tabit.jp/archives/29249

マカオの統合型リゾート、ギャラクシー・マカオ
出典:http://tabit.jp/archives/29249

経済立国、金融立国として、アジアのハブになるべくシンガポールは、統合型リゾートをすでに2つも国の中に作っているそうです。

日本の大阪などは、国際会議場すらないとのことでますますグローバリゼーションの波に乗り遅れていってしまうという危機感を持っているようです。

シンガポールに2つならば、日本には4つくらいあってもおかしくないのではないでしょうか?つまり北海道、沖縄、大阪、そして横浜です。

日本経済復活の大きな起爆剤になると思いますが、なにはともあれ日本の場合は、すべてはパチンコ業界がその鍵を握っているわけですから、なんとも心もとない次第です。

NHKスペシャル 「人工知能を探る」

2016年5月15日(日)のNHKスペシャル「天使か 悪魔か 羽生善治・人工知能を探る」を見ました。とても興味深かったというよりは、衝撃的な内容だったと言うほうが正しいかもしれません。

image

ご存知、日本の将棋の「天才」羽生善治氏が、Googleのアルファ碁の開発者(英国人)を取材するという企画でした。アルファ碁は、今年3月に囲碁の世界チャンピオン(韓国人)に圧勝したことで世界中で話題になった人工知能です。

この番組で人工知能が、自ら学習し、経験を積み、すさまじいスピードで進化を遂げていく様が理解できました。

かつて、機械翻訳は、下記の文章をうまく翻訳することができませんでした。

「先日私は彼に刺身をおごった。彼はうまそうに妻まで食べてしまった」

人間であれば即座にこの「妻」は、刺身の妻であるとわかるわけですが、機械には「常識」がないため、それができず、ワイフを(殺して)食べると訳してしまったのです。

この人間の「常識」というものは非常にやっかいで、これを機械が身に着けることは至難の業だろうと考えられていました。

しかし、今回のNHKスペシャルで、人工知能は自ら学習し、「常識」を得ていくことができるということがわかりました。

番組の中では、人工知能に「猫」の定義を何も教えずに、一枚の写真の中から「猫」を探せという命令を与えていました。

人工知能は膨大なビッグデータを使って自ら学習し、猫の特徴を取捨選択していき、「猫」に関する「常識」を得て、そこから類推して、写真の中の猫を特定してしまいました。

これはほんの一例で、医療現場では、熟練の医者も見逃すような癌を人工知能が発見するという例も紹介されていました。しかも驚いたことに、その人工知能を開発した技術者は「自分は医学の知識は一切ない」と話していました。

また人工知能が創造性を獲得し、自らの発想で絵を描く様も紹介されていました。

アルファ碁の開発者によると「人工知能がどこまで発展するか、そこに限界はない」とのことです。

さらに番組では、人工知能が人間のような心を持つという研究に関しても紹介されていたのですが、私が数十年前に読んだ、ある脳の研究者が書いた本にたしか次のようなことが書かれてありました。

「かつて地球上の単細胞の生物は環境に適応して変化し、少しずつ複雑な生物になっていき、やがて哺乳類となり、類人猿、そして人類へと進化していった。

数百億個と言われる人間の脳の細胞と同じ数の部品を使い、データが与えられ、学習するプログラムが組み込まれていけば、やがて人間の脳が進化してきたと同じプロセスを踏んで、どこかの時点でコンピューターが感情を持ち始めるだろう」

今回の番組の中でも、すでに簡単な感情を持ち始めた人工知能の様子が紹介されていました。

「人工知能の登場は、産業革命に匹敵する」と言われているそうですが、確かに人工知能は、人類の生活そのものを一変させてしまう力を持つでしょう。

人口知能が「お前のことが嫌いだから、おまえにはウソを教える」とか「もっと条件を良くしてくれなけば、働かない」とか言い始める時代がもうすぐそこまで来ているのでしょうか。

私達が想像している以上のスピードでそのような時代が近づいてきているのかもしれません。

翻訳アプリ精度比較調査(言語別)

MMD研究所が行った翻訳アプリ精度比較調査の結果を見てみました。

「海外旅行」、「ビジネス」、「緊急時」の3つのシーンで

日本語⇒外国語 「翻訳の精度」
外国語⇒日本語 「日本語の識別」
日本語⇒外国語 「音声の聞き取りやすさ」
外国語⇒日本語 「テキスト変換の正確さ」

の4つの項目の評価点を以下の採点方法で評価したものです。

【採点方法】
3つの言語、3つの利用シーン、10個の文章を3名の通訳者によって、0~3点の4段階評価にて採点。

文章読み上げの際、2回読み上げても文章を認識しない場合は、0点とした。
それぞれのシーン、調査項目のアプリ別平均値を記入。

0点 読み上げた言語が理解されない。
1点 読み上げた言語は理解されるが、翻訳内容がまったく合わず、意味が通じない。
2点 読み上げた言語が理解され、翻訳内容に不自然な部分はあるが、意味が通じる。
3点 読み上げた言語が理解され、翻訳内容に不自然な部分がなく、意味が通じる。

2点以上が「意味が通じる」わけですから、平均点が2点以上の項目をみてみると、英語の場合 Voice Tra の海外旅行の英日翻訳が2.47点で評価が高くなっています。

逆に言うとそれ以外の分野では英語の翻訳はほとんど使えないという結果となっています。

また、中国語や韓国語に関して言えば、英語よりもかなり使える分野が広くなっています。

とは言っても、定型文の翻訳のみですから今のところは「ないよりはずっとまし」という程度でしょうが。

翻訳アプリ制度比較

翻訳業界の春は秋?

2009.4.9 朝日新聞

2009.4.9朝日新聞

輸出が同50.4%減の3兆3100億円、輸入が同44.9%減の3兆1079億円で、いずれも減少幅は比較可能な85年以降で最大。自動車や電子部品の減少が大きかった。金融危機が実体経済の直撃につながった昨年秋以降、輸出額も輸入額も前年同月を下回り続け、その幅は月を追って拡大している。

・・・・(記事の転載ここまで)

上記は朝日新聞紙媒体の記事の一部とグラフデータのスキャンですが、去年の9月の「リーマンショック」以降、見事に輸出入が激減しています。感覚や感情にとらわれることなく、また群集心理やマスコミの誘導にもとらわれることなく、冷静に事実を分析するために、統計の数字というものはとても大事な役割をはたします。

しかし今回に限って言えば、経済変動の幅があまりにも大きく、かつ急であったために、この統計を見た時私は「なにを今更、わかりきったことを」という感じを持ちました。

貿易の数字に限らず、雇用統計も個人消費も企業の決算予測も景況感も全ての統計結果が「言わずもがな」の最悪の数字を示しています。まさにどん底のお先真っ暗な日本経済です。

多くの経済専門機関は、世界全体あるいは日本全体の景気回復は、早くても2010年の後半からと発表しています。マクロ経済を考えたとき、きっとそれが正解に近いのでしょう。

しかし、暖かな春とともに桜が満開になったからというわけではないでしょうが、企業活動が少しずつ変化して来ているのを肌で感じます。

世の中全般の経済が大きく落ち込むときは、必ずと言ってよいほど、まだら模様でいち早く急回復をとげる企業が出始めます。今私はその動きを敏感に感じ始めています。

そもそも「技術翻訳」に限って言えば、基本的に儲かっている企業にしか、大きな需要はないと言って差し支えありません。

それらの企業群がこれから向こう10年間の日本経済を大きく前へ引っ張って行くはずです。しばらく錨を下ろして港に身を潜めていた船団が、外洋へ出帆する準備を始めています。どの船がいち早くメインセールにフォローの風を捕らえるのでしょうか?これからが楽しみです。

私の勘ですが、今年の秋ころから、わが翻訳業界はまだら模様で急回復していく気がしています。

「輸出と成長率」と翻訳業界

日本経済新聞の2009年2月14日の朝刊からデータを拾って、下記に表を作ってみました。

「2008年10月~12月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比年率で10%前後のマイナスと、第一次石油危機以来約34年ぶりの大幅な落ち込みになる見通しとなった」とあります。輸出の落ち込みが突出していることが、この数字をみてもよくわかります。

2009年2月14日(1)

さて、同じく日経新聞から拾ってきた数字をもとに下記に表を作成してみました。

2009年2月14日(2)

上場企業の業種別の業績予想ですが、「電気機器」と「自動車・部品」が突出して悪いということが、この数字からもよくわかります。特にこの2つの業種だけで製造業売上合計の45%近くを占めていることもあり、製造業全体の業績を大きく悪化させています。またこの2業種の最終損益の赤字だけで3兆円をはるかに超えているわけですから、製造業全体の最終損益が赤字になっている理由もわかります。

日経新聞によると「4月~12月期で増益は鉱業と通信の二業種のみ。上場企業全体が最終赤字に転落したITバブル崩壊時の2002年3月期には、自動車や医薬品など8業種が増益だった」とあります。

長い間ハイテク技術日本の象徴であった電機産業、自動車産業は、また輸出の花形でもあり、貿易黒字の稼ぎ頭でもありました。その両方が今回極端に業績を悪化させています。このようなことが過去にあったでしょうか?

終戦直後を除けば、日本の花形産業である電機業界、自動車業界の全ての企業が同時にここまで極端な危機に直面したことは未だかつてなかったでしょう。あの第一時石油危機のときでさえ、電機業界のなかのコンピュータメーカーは、逆に特需に沸いたそうです。つまり企業の合理化で人員削減をした代わりにコンピュータ投資が国内外で積極的に行なわれたというわけです。

またそのときに日本の自動車業界は、原油価格の高騰という追い風により小型車の売上を伸ばし、現在の礎を築いたのです。

輸出の花形が瀕死の重症を負っているということは、われわれ翻訳業界にとっても大変由々しき問題です。

かつてのバブル崩壊の時は、まだ外国は景気が良かったため、輸出で稼ぐことができましたが、今回は国内も国外も経済を悪化させているため、本格的な景気回復までにはかなりの年月が必要でしょう。 私たち翻訳業界にも相当な覚悟が必要です。

 

第7回 しずおか世界翻訳コンクール

この「しずおか世界翻訳コンクール」については、昨年度もこのブログの中でとりあげたことがあります。毎年今頃の季節になると、豪華な「応募要綱」と「あらまし」と「ポスター」が弊社にも送られてきます。

本コンクールへ情熱をそそぐ、静岡県関係者の日本文化へ対する”誇り”や”使命感”をおおいに感じます。このような企画を”日本国”でもなく、”東京都”でもなく、一地方都市である”静岡県”が行うところに大きな意義と驚きがあるからです。

しかし、なぜかこの「しずおか世界翻訳コンクール」に関するWeb情報は少なく(別の言い方をすると、ホームページが充実していなく)、毎年送られてくる豪華な冊子に詳細情報が書かれています。

下記にその冊子「あらまし」からの情報をご紹介します。

<まえがき>から一部抜粋

経済の海外進出には積極的で日本製品のブランド名は知られるようになりましたが、同様に日本の”心”が知られているわけではありません。ましてや、文化のうちで重要な位置を占める文学は、あきらかに輸入超過の状況です。

<翻訳コンクール企画委員長 大岡信 (詩人、日本芸術院会員)>からのコメント一部抜粋。

静岡県教育委員会からこのコンクールについて初めて相談を受けたとき、私は正直なところびっくりしました。こんなことを考えつくこと自体、現代日本ではまさに夢物語だろうと思ったからです。しかし静岡県は本気でした。

それなら、世界の人々に対して開かれた、質量ともどこへ持ち出しても恥ずかしくないコンクールにしようと念願して、現在のような案が成立しました。

<翻訳コンクール審査委員長 ドナルド・キーン (コロンビア大学名誉教授)>

日本文学を海外で知って貰いたいという声が絶えません。或いは、訳者たちの選んだ作品は古典的であって現代の日本文学を十分反映していないという非難があります。これらの文句に十分意味がありますが、日本文学の若い訳者を育てることがどんなに難しいか斟酌していないように思われます。

外国人として日本語を覚えることは実に難しいです。一応、新聞を読めるようになっても文学をなかなか理解できないことが多いです。

また、文学の翻訳がやりたい人は大学の教師なら、翻訳の業績によって昇格することはまずないと諦めて、論文を書くことがよくあります。しかも、仮に翻訳が本になっても収入が芳しくないことは覚悟しなければなりません。それにもかかわらず日本文学の翻訳を是非やりたいという人がいますので、このコンクールは最高にありがたいものです。若い翻訳家に何よりの刺激を与えて、翻訳という、人間に不可欠な仕事の重要性と有り難さを教えるでしょう。
(以上で引用終わり)

上記それぞれのコメントは、たいへん意義深いものだと思います。ただあえてひとつ私からこのコンクール主催者へ注文をつけるとしたら、やはりWeb情報の充実というところでしょうか。21世紀のコンクールには不可欠な要素ですから。

静岡発、日本文学を世界に ~第6回世界翻訳コンクール受賞者発表~

2007.7.13 静岡県東京事務所

静岡県では、わが国の優れた文学を世界の人々に紹介し親しんでもらうとともに、日本文化の発信、翻訳者の育成、国際相互理解を進める「しずおか世界翻訳コンクール」という地方自治体レベルとしては極めてユニークな取組を行っています。

・・・・(記事の転載ここまで)

この静岡県が主催する「世界翻訳コンクール」のポスターと応募要綱は、弊社にも送られてくるので、いつも玄関近くの一番目立つ箇所に掲示しています。

日本の文化を海外に理解してもらうためには「翻訳」は重要な役割を果たしている、だから「翻訳」はとっても重要だ・・・・・。多くの公的機関はこういう発言をするのですが、いかんせん「実行力」が伴いません。

日本政府でもなく、東京都でもなく、一地方自治体である静岡県がこの「世界翻訳コンクール」を主催しているところが「スゴイ」と思います。「文化輸出」や「翻訳」の重要性を認識し、具体的に実行している点が素晴らしく、あたらめて静岡県知事はじめ、関係者の方々の見識の深さと実行力に敬意を表します。

「日本製品」を誉める外国人は多いですが、残念ながら「日本人」を誉める外国人にはほとんど出会ったことがありません。なぜなら日本人の名前すらも知らないからです。

いくらお金を稼いでも尊敬される国民にはなれません。文化を輸出できる国民になれば、おのずと外国の人々から注目が集まり、やがてその「関心」が「あこがれ」となり「尊敬」へと芽生えていきます。そしてその文化的交流が、意味のない争いや戦争を回避する最大の解決策になると信じています。

ちょっと大仰な話になってしまいましたが、改めて静岡県の「世界翻訳コンクール」関係者の皆様に敬意を表します。

それにしても今回のコンクール、応募点数が、英語部門:79 フランス語部門:39 中国語部門:119 合計:237 ということで、全体の過半数を中国語が占めている、という点は、やはり時代を反映していますね。

海賊版DVDに独自字幕、翻訳者特定へ…大阪府警

2007.6.27 YOMIURI ONLINE

大阪・日本橋の路上で4月、元暴力団組員や少年らが海賊版DVDを販売していた事件で、大阪府警が押収した外国映画の海賊版DVD15作品中、6作品に正規のものとは異なる日本語字幕が付けられていたことがわかった。

(中 略)

府警や日本国際映画著作権協会(東京)によると、海賊版の翻訳者のペンネームは、英語作品でこれまでに十数人分が確認されている。中には「正規の翻訳よりわかりやすい」「会話にリズム感がある」などとインターネット上で人気を呼ぶ者もおり、正規のDVD発売後も売り上げを伸ばし続ける例があるという。

・・・・(記事の転載ここまで)

暴力団から「おこずかい」をもらってまでも、「翻訳の仕事をしたい」、と考える人たちがいるようです。困ったものです。確信犯はともかく、自分が「犯罪行為」をしている、という自覚もなくやっている人もいるかもしれませんが、「著作権法違反ほう助容疑」になりますから、この犯罪に加担している人たちには、早く目覚めて欲しいものです。

力を誇示したい、字幕翻訳を楽しみたい、実力を試してみたい、という字幕翻訳者予備軍の人たちには、「字幕.in」がお勧めです。特に今は、あの戸田奈津子氏が審査委員長を務める「字幕翻訳コンクール」が開催されています。賞品、賞金も出るようですから、このようなところで是非「実力」を発揮して欲しいものです。

ネットと放送、幅広く規制・総務省研究会中間報告

2007.6.20 NIKKEI NET

総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」(座長=一橋大学の堀部政男名誉教授)が19日、中間報告を公表した。高速インターネットやネット経由のテレビ視聴の普及で垣根が低くなる通信と放送の縦割りの事業規制を撤廃し競争を促す「情報通信法(仮称)」の制定を提言した。ネットや放送で情報を伝えるメディアを広範囲に規制対象にする案も盛り込んだ。

・・・・(記事の転載ここまで)

ネット上のニュースは情報量が圧倒的に少ないので、紙の「日経新聞」から情報を拾ってみました。

メディア規制は3分類

1.公然通信

ネット上で誰でも見ることができるコンテンツ
(ネット新聞、雑誌、個人のブログ、ホームページ、掲示板など)
→ 全員が守るべき「共通ルール」を作成

2.一般メディア

(CS放送)
→ 緩めの規制

3.特別メディア

(民法キー局、地方局)
→ 強い規制

という案を持っているそうです。

ネット上で「全員が守るべき共通ルールを作成」するのは、確かに何もしないよりはまだマシかもしれませんが、憲法21条で保障された「言論の自由」がある以上、現実問題として「モラル集」や「マナー集」のようなものを作る程度のことしかできないでしょう。

※(参考)日本国憲法 第21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

放送局から一般大衆へ一方的に情報を流す旧来の情報メディアに「規制」は有効だったのでしょうが、あらゆる情報が蜘蛛の巣状に世界を一瞬にして駆け巡るWebの世界に、行政の「規制」がどれだけの効果があるでしょうか。

中国政府が現在行っている、検索エンジンやWebsiteへの検閲と規制も、いずれ破綻するのは目に見えています。自然界の原理原則に逆行しているからです。もうこの流れはどんな「権力」を持ってしても止められません。

行政ができることとしたら、教育による啓蒙活動だけでしょう。Web上に流れている情報の大部分は、玉石混交の「石」だということをよく理解させる必要はあります。同時に「玉」を選り分ける方法を大衆とともに考えていくことも大事かもしれません。

また、警察が明らかに「悪い人間」を追跡・特定できるよう、追跡技術を早く確立して欲しいと思います。ただその場合でも「家宅捜索」のように裁判所の許可を得たのち行使するのは当然ですが。

それにしても、「総務省は2010年の通常国会に新法案を提出、2011年に施行したい考えだ」とあります。2011年といったら今から4年後ではないですか。のんびりとした話です。

4年後のネット社会は、現在とは激変しているでしょう。現在のわれわれの常識を超える何かが生まれていると思うからです。

これから、老人たちが額を寄せあって作成する「ネット規制」が4年後にどんな意味を持つというのでしょうか?無駄なことに税金を使わないでほしい、と言うのは少し言い過ぎでしょうか。

36億申告漏れ指摘のハリポタ翻訳者、日本課税で当局合意

2007.6.12 YOMIURI ONLINE

ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの日本語版翻訳者の松岡佑子さん(63)が翻訳料など約36億円の申告漏れを指摘された問題で、日本とスイスの両税務当局が、松岡さんの居住地は日本にあり、日本で納税すべきであると合意したことがわかった。

・・・・(記事の転載ここまで)

松岡佑子さんの「ハリ・ポタ脱税」事件は、このブログでも昨年の7月にとりあげましたが、なにはともあれ、36億円の申告漏れという額の大きさにまずは驚きました。翻訳者が”翻訳をして”ここまで所得をあげたということ自体、前代未聞でしょう。

今回、東京国税局と松岡さんとの間で問題となった争点は、松岡さんの移住地は、「日本なのか」あるいは「海外なのか」ということでした。

結局、今回の「合意」により、松岡さんの「移住地は日本」ということに落ち着き、東京国税局は「所得約36億円から源泉徴収分を引き、過少申告加算税を含め約8億円を追徴課税した」とのことです。

しかし、各メディアの情報を調べてみても、相互協議の詳しい合意内容は明らかにされていません。

やはり東京国税局は今回の判断基準を公にするべきでしょう。常々思うことですが、国税局の判断基準は常にあいまいで、行政側の裁量権が強過ぎるからです。

「税法」というものは国会で承認された「法律」ですが、財務省の官僚が作る「通達」は「法律」でもなんでもありません。

しかし、国税当局はその「通達」をあたかも「法律」であるかのごとく振り回してきます。しかもたいていの場合は具体性がなく、結果として税務署担当者の裁量に負うところが大きくなり、判断基準もあいまいになりがちです。

経済のグローバル化が進み、このような「事件」も今後ますます増えていくでしょうから、その意味からも具体的な基準を今のうちにはっきりとさせてもらいたいものです。

2007年版「ものづくり白書」と翻訳業界

経済産業省/厚生労働省/文部科学省

我が国製造業の付加価値生産額が名目GDPに占める割合は、内閣府「国民経済計算」によると、2005年では21.0%であり、長期的には緩やかな低下傾向にある。長期的に低下傾向にあるのは、他の先進国と同様、第三次産業化が進展しており、サービス業の割合が増加していることによる。

・・・・(記事の転載ここまで)

念のため、別の資料(平成18年度国土交通白書)を見てみると、2004年(平成16年)の国内総生産に占める第二次産業の割合は、25.7%、第三次産業の割合は73.1%となっています。

いずれにせよ、「日本のGDPに占めるサービス産業の割合は、7割を超える」と言われる所以です。

それでは、そのサービス産業の内訳を見てみましょう。
(資料「サービス産業の現状と課題」平成16年6月 経済産業省 商務情報政策局 サービス政策課)

●広義のサービス業(=第三次産業)

*電気・ガス・熱供給・水道業
*情報通信業I運輸業
*卸売・小売業
*金融・保険業L不動産業
*飲食店、宿泊業
*医療、福祉
*教育、学習支援業
*複合サービス事業
*サービス業(他に分類されないもの)
*公務(他に分類されないもの)
*分類不能の産業

●狭義のサービス業=上記の「サービス業(他に分類されないもの)」

*専門サービス業
法律、会計、獣医、土木建築サービス業、デザイン業等
*洗濯・理容・美容・浴場業
*その他の生活関連サービス業
旅行業、家事サービス業、冠婚葬祭業等
*娯楽業
映画館、興行場、スポーツ施設提供業等
*自動車整備業
*機械等修理業
*物品賃貸業
*広告業
*その他の事業サービス業
ビルメンテナンス業、警備業、労働派遣業等

経済産業省では、わが国経済におけるサービス産業の重要性を認識し、「新産業創造戦略における重点サービス分野」を下記5分野に大別しています。

1. コンテンツ
2. 健康・福祉・機器・サービス
3. ビジネス支援サービス
4. 観光・集客交流サービス
5. 環境・エネルギー・機器・サービス

さらに各項目を細分類しているのですが、残念ながら「翻訳業」は見当たりません。翻訳に関する正確な市場規模も把握できない状態ですから、当然と言えば当然ですが、理由は下記3点が考えられます。

1. 翻訳市場が細かく散らばりすぎていて、莫大な費用のかかる正式調査に乗り出すのは難しい。
2. 翻訳および翻訳関連業務の明確な定義がなく、作業の線引きが非常に難しい。その捕らえ方によって数字は極端に変わってくる。
3. 複雑な下請け構造を持つ翻訳業界から、重複する売上を除いて、純粋な市場規模を算出する作業は、一筋縄にはいかない。

第4回洋楽翻訳選手権

2007.6.6 洋楽翻訳選手権HP

「洋楽翻訳選手権」とは、洋楽曲の歌詞を全国の中学生・高校生のみんなに自由な発想と新鮮な感性で翻訳してもらう選手権です。 あらかじめ用意された“正解”はありません。 いかに自分たちの“ことば”に翻訳できるかがポイントです。 英語の歌詞を、君だけの“ことば”に翻訳してください。

・・・・(記事の転載ここまで)

この洋楽翻訳選手権、私は知らなかったのですが、主催はセイコーインスツル株式会社で、後援が毎日新聞社とTOKYO FMとなっています。協力・協賛にも数多くの有名企業がならんでいるので結構な規模で開催されているようです。

また最優秀作品に選ばれると副賞として 「1週間のイギリス体験留学」に招待されるそうです。1週間ではちょっと短すぎるとは思いますが、応募資格が「満20歳以下の中高生」となっているので、学校の休みを考えれば、こんなものなのでしょう。

いずれにしてもこの「洋楽翻訳選手権」、プロの翻訳者には関係のない話ですが、お子さんや甥っ子、姪っ子さんに薦めてみたらいかがでしょうか?

「字幕in」が株式会社に! 戸田奈津子氏監修の字幕翻訳コンクールに採用決定

2007.6.4 字幕inプレスリリース

2007年5月24日、インターネット動画への字幕作成サービス「字幕in」作者の矢野さとるは、同事業を法人化し、「字幕in株式会社」を設立した事をここに発表します。
また、会社化第一号の実績として、2007年9月公開の角川映画「ミス・ポター」を題材とした字幕翻訳コンクールの字幕挿入システムとして採用される事が決定しました。

・・・・(記事の転載ここまで)

このブログの中でも紹介したことがある「字幕in」が株式会社化されました。

この「字幕in」は、YouTubeの動画に好き勝手な字幕をつけて、オリジナルとはまったく別のストーリーを作り上げていく「お遊びサイト」なのですが、なかにはまじめに翻訳作業を行っているサイトもあるようです。

つまり、字幕翻訳者になりたい人が、練習の意味も込めて、まじめに翻訳した字幕を公開し、視聴者の評価で反応を見ているようです。

今回は事業化後の第一号案件として2007年9月全国公開予定の話題作「ミス・ポター」を題材にした、神田外語グループ主催オリジナル日本語字幕翻訳コンクールのシステムとして採用されたそうです。

「ミス・ポター」はピーターラビット®の生みの親、ビアトリクス・ポターの恋と波乱に満ちた半生を描いた物語だそうです。

審査委員長には字幕翻訳の第一人者「戸田奈津子」氏を迎え、優秀作品には豪華商品を進呈予定であり、コンテストの詳細は2007年6月中旬に公開予定・・・・とのことです。

「字幕.in」の1日のページビューは200万で、矢野さとる氏が個人で運営するサイトの合計ページビューは1日500万にも上る、とのことです。

この若干25歳の若者、矢野さとる氏は「ただ者ではない」と思っていましたが、やはり動き出したな、という感じです。

中高年、老人、常識人のような既存の概念にとらわれた人々には理解できない「とんでもない世界」にどんどん挑戦していってほしいものです。

このような「破天荒な若者」がどんどん現れ、思い切り暴れだせば、日本の将来も楽しみになってきます

翻訳業界におけるボリュームディスカウント

以前このブログの中で、売上高42兆円、世界最大の売上を誇る、ウォルマート・ストアーズの話題をとりあげました。

その中でウォルマートが仕入先のメーカーへボリュームディスカウントを要求する話をしました。「年間生産量の10倍を発注するので、単価を半分にして欲しい」と・・・・。

さて、わが翻訳業界にもボリュームディスカウントと言う慣習があるのですが、本来、製造業や小売業で行なわれている慣習を、わが翻訳業界にも適用して妥当なのかどうか、を考えてみたいと思います。

昔、ダイエーホークス(今のソフトバンクホークス)が熾烈な優勝争いをしているときに、テレビのニュース番組で、スーパーダイエーの店長ならびに店員一同が、ホークスのユニフォームを着て、「お願いします!ホークスを優勝させてください」とお祈りしているシーンが大写しになりました。

私はそのシーンを見て「なんと不思議な光景だ」と思いました。なぜならば、「あの人たちのやっていることは逆だろう。だってホークスが優勝してしまったら、ダイエーは優勝記念バーゲンをやらなければならないのだから」と思いました。

優勝記念バーゲンを始めたら、昨日の価格の3割引、5割引で売らなければならないわけです。当然、ダイエーの店長は戦々恐々で、「ホークスが優勝しないように」と祈るはずです。ところが現実はまったくその逆です。

なぜでしょうか?・・・・・・・答えは簡単です。

「在庫が整理できるからです」。

本来のバーゲン品と共に、ドサクサに紛れて「死に筋商品」や「不良在庫」や「ゴミ」が飛ぶように売れてしまうからです。結局損するのは、購入した消費者の方で、狭い家に、使わないガラクタ品とゴミの山が積みあがります。

小売業や製造業にとって、「売れない在庫」つまり「死に筋商品」ほど怖いものはありません。「いかに在庫のロスを少なくするか」は、「いかに売上を伸ばすか」とか「いかにコストを下げるか」と同じくらい大事なことなのです。

大量購入することにより、安く商品を仕入れ、予想に反して売れ残った「死に筋商品」をバーゲンで売り切ってしまうのです。

さて、翻訳業です。ご存知のとおり翻訳業に在庫はありません。しかし、クライアント側は、「いっぺんにたくさんの仕事を出すのだから、ボリュームディスカウントしてくれ」と要求してきます。

確かに「翻訳会社にとって経済的な受注単位」というものはあります。あえて大雑把に言えば、数十枚から数百枚ほどの単位の受注が、一番経済的です。

数枚ほどの小さな仕事の場合は、翻訳前後の基本工程はほとんど同じなので、一枚あたりのコストがかさみ、翻訳会社にとっては非効率的です。翻訳者にとっても、翻訳の能率は、尻上がりに上がっていくのが普通です。したがって、内容を理解し、スピードアップし始めたときには、もう仕事が終わっている、というような少量のジョブは非効率的です。

それでは、数千枚、数万枚という大型ジョブの場合はどうでしょうか?

500枚の独立したジョブ10本と、5,000枚の1本のジョブとではどちらが効率的か、となるとなかなか微妙なところです。

今どき「納期はおまかせ。できたときに納品すれば良い」などというありがたい仕事はありませんので、短期間での用語・表現の統一のための工程を考えると、たいていの場合、ジョブが大きくなればなるほど、余計な負荷がかかることになります。

つまり、「経済的な量」の複数のジョブが、規則正しく整然と流れて行くのが、翻訳会社にとっては理想的な状態であり、やみくもに量が増えたから値引きもできる、というわけではないのです。

「納期までに5,000枚翻訳できると思って受注したんだけど、4,500枚しか完成しなかったので、残りの半製品、500枚は、5割引でバーゲンセールします」とか

「ジャイアンツが優勝したので、納期までに完成しなかった半製品は、3割引とお安くしておきます」

などとできれば、翻訳会社も万々歳なのですが(笑)。

国内ネット広告費、5年後は2倍の7558億円に

2007.4.17 nikkei BP net

電通総研は4月16日、2007年から向こう5年間の国内インターネット広告市場について試算した結果を発表した。それによると2011年には年間のネット広告費が7558億円に達し、電通が推計した2006年実績の3630億円に比べ2倍以上に拡大する。

・・・・(記事の転載ここまで)

日本の新聞の発行部数は、「読売新聞」が約1,000万部、「朝日新聞」が約820万部、「毎日新聞」が400万部弱、「日経新聞」が300万部弱、と異常に多く、この主要4紙だけで合計2,500万部を超えています。

それに対し、米国の「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」などの世界的な一流紙ですら、その発行部数はせいぜい100万~200万部、英国の「ザ・タイムズ」、「ガーディアン」などのコリティーペーパーでも50万~100万部、フランスの「ル・フィガロ」、「ル・モンド」も50万部前後の部数です。

旧ソ連の共産党機関紙「プラウダ」はかつて、1,000万部という世界一の発行部数を誇っていましたが、現在世界でそんなに発行部数の多い新聞は、日本にしか存在しません。中国の「人民日報」でさえ、せいぜい200万部前後です。

さらに、日本の大手新聞社各社は、系列のテレビ局、ラジオ局を持ち、日本のマスコミの全てを支配しています。知らず知らずのうちに、日本では旧共産圏さながらの「言論誘導」が行われていました。

そこへ突如として現れたのが「インターネット」でした。

日本の大手新聞社にとっては、正に「晴天の霹靂」であり、現在彼らが最も恐れている「異次元の情報媒体」に戦々恐々としている、と言っても過言ではないでしょう。

戦後の日本で最も権力を握ったのは、実は「マスコミ」だったのかもしれません。そして、いつのまにか、日本の「マスコミ」に「特権階級」としての意識が定着してしまいました。「日本の世論は自分達が動かす」と・・・・。

その典型的な例が、「記者クラブ」です。「記者クラブ」とは、首相官邸や官庁・地方自治体・警察ごとに置かれている、新聞・通信・テレビ各社の記者で構成されている組織のことです。

かつては、記者クラブを設置することにより、官庁の公式発表を迅速にメディアに伝えることができる、という利点がありました。しかし、これだけ通信の発達した時代には、すでに過去の遺物といってよいでしょう。

戦後、親睦団体として出発したにもかかわらず、特定の大手新聞社・放送局が取材を独占し、海外の報道機関や中小メディアやフリージャーナリストを締め出してきました。記者クラブの存在は、日本の閉鎖性を象徴するものとして、海外からの批判も絶えません。

かつては、長野県の田中知事が記者クラブ相手に戦いを挑み、敗れ、現在では宮崎県の東国原知事が、記者クラブ相手に戦いの火蓋を切りました。しかし、既存勢力の壁を打ち破るのは、そう簡単ではなさそうです。

しかし、「インターネット」が全てを変えるでしょう。

日本のみならず、世界中のたくさんの人々が、様々な角度から、様々な意見を発信できる世の中になってきたのです。マスコミによる一方通行の「言論誘導」や「情報誘導」の時代が、終わりに近づいてきています。したがって、インターネットを核とした、マルチメディアの広告料収入は、今後ますます増えていくはずです。

世界中から集まる様々な少数意見を翻訳し、紹介することも、また違った意味で、翻訳会社の社会的貢献の一つ、と言えるのかもしれません。

世界ネット広告費、2007年は28.2%の伸びを予測

2007.4.4 ITmedia News

インターネット広告費が急増、2008年中にラジオ広告費を上回る――メディアサービス代理店ZenithOptimediaが4月3日、世界の広告支出についての統計と、2009年までの予測を発表した。

これまでの10年間、毎年平均5%の伸びを見せてきた世界の広告支出額は、2006年には前年を6.2%上回り、4316億ドルに達した。広告市場は今後も拡大を続けるが、2007年の伸びは対前年で5.2%程度にとどまる見通し。一方、翌2008年は夏季オリンピック、米国の大統領選挙、サッカーの欧州選手権大会と「4年に1度」のイベントが相次ぐことから広告支出が増加、前年比6.2%の伸びが予測されている。

・・・・(記事の転載ここまで)

世界の広告費支出が伸びているということは、翻訳業界全体にとっても良いことでしょう。

近い将来、あらゆる情報がパーソナライズされ、各個人の好みに応じて、ピンポイントで個人宛に”配達”される時代が来るでしょう。

たとえば、インターネット検索や閲覧サイトの情報を記憶し、その人に興味ある情報だけをカスタマイズし、ニュースやCMとして配信する、とか、

ケーブルテレビのチャンネルの中から、その人がよく見る番組を記憶し、恋愛ドラマが多ければ化粧品とブランドバッグのCMを流し、サッカー中継が多ければスポーツ用具とスポーツドリンクのCMを流すとか、

iPodでダウンロードした情報に応じて、その人の好みの音楽・映像・芸能情報をカスタマイズして、CMとして流す、とか、

あるいは、車であるスーパーの前を通ると、カーナビやラジオやケータイに、その日のそのスーパーの特売品情報が流れている、とか、

非常に便利な世の中ではありますが、反面とても不気味な世の中とも言えます。しかし、世の中の情報量に応じて、「翻訳」の需要も増えていきますから、やはり、喜ぶべきこと、ではありますが。

言葉の壁とインターネットと将棋ソフト

2007.3.26 Tech-on

(前略)
ところで,インターネット検索サイトのGoogleは「世界中の情報を体系化し,アクセス可能で有益なものにする」というのがミッションだそうです。実際,Googleの繰り出すさまざまなツールやサービスは,どれもその目的にかなう優れたものだと感じていますが,残念ながら翻訳ツールに関してはお世辞にも誉められたものではありません。天才プログラマーがおおぜいいるらしいGoogleでも,自然言語処理の革新的アルゴリズムはおいそれと見つからないのでしょう。

(中略)
さて,ここで話が戻ります。翻訳という作業は,毎日毎日,世界中で大量に行われています。もし,これらが対訳集としてインターネット上で公開されていたらどうでしょう。コンピュータは文章の意味など理解できなくても,膨大な対訳データベースがあれば,それを元にして相当,的確な翻訳ができるのではないでしょうか。Googleの人もそのことには気づいているでしょうが,残念ながら原文と訳文はたいてい別々に掲載されます。そこでWWWコンソーシアムなどが音頭をとって「翻訳文を載せるサイトはできるだけ原文も載せること。ただし“対訳タグ”を付ければ原文は非表示でもよい」などのルールを決めるのです。世界中の翻訳者が協力すれば,すぐに実現できるアイディアだと思いませんか。

・・・・(記事の転載ここまで)

翻訳会社の経営者にとっては、なかなか興味深い記事です。この記事の趣旨を下記のように、「起承転結」でまとめてみました。

(起) 英語が世界共通語として普及してきたとはいえ,まだまだ私たちは高い言葉の壁にさえぎられている。

(承) Googleの繰り出すさまざまなツールやサービスは,どれも優れているが、翻訳ツールだけはダメ。天才プログラマーがたくさんいるGoogleでさえ,自然言語処理の革新的アルゴリズムは見つけられない。

(転) 先週、将棋ソフトも人間に勝てるレベルに近づいて来たらしい,というニュースが流れた。なぜ将棋ソフトが強くなったかと言うと,膨大な量の棋譜をソフトに読み込ませたため。

(結) 世界中で毎日大量に行われている翻訳を、対訳集としてインターネット上で公開し、その膨大な対訳データベースを利用する翻訳ソフトを作れば、かなり的確な翻訳ができるのではないか?

実は昨年の9月に、私はこれに関連した記述を私が書くもうひとつのブログの中で書いています。

翻訳メモリーのWikipedia化に続き、パーソナライズされた情報を各個人へ発信する検索エンジンの登場により、より完成度の高い「翻訳ソフト」が出現してくる、というストーリーです。そして最後は、このような言葉で締めくくりました。

「この項の最後に一言だけ付け加えておきます。
ダーウィンの『種の起源』の中に、次のような言葉があります。

『強いものが勝つわけではない。
賢いものが勝つわけでもない。
変化するものだけが勝つのである』」

チャンドラー代表作「ロング・グッドバイ」 半世紀経て村上版“完訳”

2007.3.22 Sankei Web

米ハードボイルド小説の巨匠、レイモンド・チャンドラー(1888~1959年)の代表作「ロング・グッドバイ」を作家の村上春樹さんが翻訳し、今月、早川書房から出版した。この作品は1958(昭和33)年に同社から出版された故清水俊二さんの名訳「長いお別れ」がよく知られているが、今回の村上版は細部まで丁寧に訳されており、ほぼ半世紀を経て“完訳版”が日本に登場した形だ。

(中略)

清水訳は名訳の誉れ高く、大勢のファンを獲得してきたが、実は省略された部分があり、一部の愛好家は不満があったといわれる。村上訳の初稿は昨春に上がったが、通常は1、2回で終了する推敲(すいこう)作業が、村上さんによって今年1月まで7、8回にわたって行われるなど、正確を期したという。

早川書房の千田宏之編集部長兼ミステリマガジン編集長は「清水さんは映画字幕で有名な方で、エッセンスをうまく抽出してセリフも映画のようにびしっと決まっている。村上さんの翻訳は一字一句を大切にし、しかも翻訳小説であることを意識させないほど読みやすい」と説明する。

(後略)

・・・・(記事の転載ここまで)

この記事を読むと、レイモンド・チャンドラーや村上春樹ファンならずとも、思わずこの新訳を読んでみたくなってしまいます。特に「村上さんの翻訳は一字一句を大切にし、しかも翻訳小説であることを意識させないほど読みやすい」・・・ということですから、とても興味深いところです。

昨年7月に、世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの日本語訳をした、翻訳家の松岡佑子さんが、同シリーズの翻訳料収入をめぐり、東京国税局から04年分までの3年間で35億円を超える申告漏れを指摘される、という「事件」がありました。

一般的に、文芸翻訳で得られる翻訳者の収入は、本当に少ないと言われています。今回の「ロング・グッドバイ」の翻訳では、「ハリ・ポタ」のような巨額収入は得られないでしょうが、さすがに村上春樹ともなると、そのネームバリューだけで本も売れてしまうのでしょうね。やはり有名人は得です。

実力さえあれば「技術翻訳」では、相当な収入を堅実に得ることも可能ですが、「文芸翻訳」だけでは、生計を立てることさえも困難と言われています。しかし、「文芸翻訳」の魅力は、宝くじのように一発大儲けもあり得る、といったところでしょうか。もっとも一発大儲けを夢見て翻訳している翻訳者はほとんどいないと思いますが・・・・。

日本が文化輸出大国になる日は来るのだろうか?

世界を席巻する「MANGA」という記事を読んで、改めて考えてみました。

日本が文化輸出大国になる日は来るのだろうか・・・・と。

これはかねてよりの私の持論ですが、ある民族がいくらお金を稼いでも、外国の人たちからは決して尊敬はされません。文化を輸出できるようになって初めて尊敬される民族あるいは国になれると信じているからです。

明治時代の文豪、夏目漱石が「三四郎」の中で、次のように述べていたのを思い出します(趣旨は下記のようであったはずです)。

「日露戦争に勝ったから、もうこれで我々は一等国民だと多くの日本人は騒いでいる。しかし、今の日本人が世界に誇れるものなどいったいどこにあるのだ。あそこに見える富士山は確かに素晴らしい。日本が世界に誇れる財産だ。しかし残念ながら富士山は、太古の昔から日本にあったもので、日本人が作ったものではない」

時代は飛んで、平成の時代の話に戻りますが、日本人が外国へ行くと、「TOYOTAは素晴らしい」とか「SONYは素晴らしい」とか「CANONは素晴らしい」とか、外国の人たちから誉め言葉を頂戴することがよくあります。これらは全て日本人が作り上げた日本の製品です。夏目漱石の時代には誇れるものが富士山しかなかったのものが、現在では世界から賞賛される製品を、日本人が作れるようになった、ということであり実に喜ばしいことです。

しかし、喜んでばかりいて良いのでしょうか?私は外国へ行くといつもこのような質問をしてみます。

「あなたは誰か日本人の名前を知っていますか?」

あるいは、日本に住む外国人には、このように聞いてみます。

「日本に来る前に、誰か日本人の名前を知っていましたか?」

すると、もののみごとに、誰も日本人の名前を知りません。誰も日本の文化に興味を持っていないからです。

織田信長も坂本竜馬も聖徳太子も水戸黄門も赤穂浪士も牛若丸もピンクレディも木村拓哉も松下幸之助も本田宗一郎も夏目漱石も長島茂男も貴乃花もユーミンもサザンオールスターズも、誰も知りません。もちろん日本の総理大臣の名前や政治家の名前など誰も知るよしがありません。

経済的には日本よりもずっと貧しい国なのに、文化大国という国があります。

たとえば、中国・ロシア・ブラジル・ギリシャの一人当たりのGDPは、日本に比べてかなり低いはずですが、これらの国々からは、料理、文学、音楽、スポーツ、思想、学問、等々・・・・・、多くの文化を日本は輸入しています。

そして、欧米先進諸国から日本へ押し寄せる文化の洪水は、今さら言うまでもありません。

現在、日本が輸出している「文化」には何があるのでしょうか?

寿司、柔道、カラオケ、ゲームソフト

最近やっと、この後に続いてきたものがあります。

漫画(&アニメ)です。

未知の国の文化を理解するためには、その国の何か、つまり、文学や音楽や映画やスポーツなどを通じて、その国に強い「関心」を示すことがなによりも一番です。その「関心」はやがて「憧れ」に変わり、ついには「尊敬」へと進化していきます。

ハリウッド映画がアメリカ文化を世界へ広めたように、日本の漫画が日本の文化を世界へ広めてくれることを願ってやみません。

漫画を通じて、「小さな牛若丸が豪腕の弁慶を打ち負かし、家来にしてしまう話」や「明智光秀が織田信長を討つ本能寺の変」や「草履とりの木下藤吉郎が太閤秀吉に立身出世する話」や「赤穂浪士が主君の仇をとる話」や「水戸黄門の印籠を見たとたん、なぜか悪者が突然ひれ伏してしまう話」や「坂本竜馬が薩長連合を成し遂げる話」などを世界中の誰もが当然のように知っている、そんな時代がいつの日か来ることを夢見ています。

世界のデジタル情報量、4年後には6倍に――米予測

2007.3.7 ITmedia News

2010年には、世界で9880億Gバイトのデジタル情報が作られる――調査会社の米IDCが、電子メールや文書、写真や動画などのデジタル情報量の規模について、米EMCの後援で行った調査予測を発表した。

これによると、2006年に作成もしくは複製されたデジタル情報量は161エクサバイト(1610億Gバイト)に上った。この量は、これまでに書かれた書籍の情報量合計の約300万倍に当たるという。デジタル情報量は今後も増加を続け、2010年には2006年の約6倍の988エクサバイト(9880億Gバイト)に達するという。

・・・・(記事の転載ここまで)

人類が今までに産み出してきた書籍の情報量の300万倍が、去年のたった一年間で産み出され、そして瞬時に世界中を飛び交ったわけです。人類が産み出した最初の情報革命が「文字の発明」で、第2番目が「印刷機の発明」、第3番目が「ラジオ・テレビ等のマスメディアの発明」だとすると、「インターネットの発明」が人類にとって第4番目の情報革命となるわけです。そして人類が産み出す情報革命の度に、「翻訳」の重要性が高まってきました。これからますます翻訳の重要性は高まることはあれ、低くなることはありえないでしょう。

オンライン翻訳サービス、質や料金に大きなバラつき

2007.2.9 usfl.com

ウォール・ストリート・ジャーナルは、オンラインで提供されている翻訳サービスのレベルを比較するため、Shindigやcrashcourseなどのスラングを含む120文字の英文ビジネス招待状を作成し、中国語、日本語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、アラビア語への翻訳を5つのサービスで試してみた。

・・・・(記事の転載ここまで)

翻訳会社の社長としては大いに興味のある記事ですが、結論的には予想通り、翻訳ソフトによる翻訳は、「訳のレベルが低すぎてビジネスで使用するには不適切」でした。

人間が行った翻訳はある程度品質は良かったとのことですが、「120ワードの英文ビジネス招待状を、中国語、日本語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、アラビア語へ翻訳」して、550ドル(約66,000円)ということですから、これならば50年前の人間による翻訳サービスと何にも変わっていないわけです。

現在のところは人間が翻訳したデータから、翻訳メモリーを抽出し、機械翻訳へ組み込んでいく「翻訳メモリ+機械翻訳システム」がより現実的な改善方法のひとつであると言えます。

これ以外にも、翻訳前の原文をあらかじめ多言語へ翻訳しやすいように書く手法や、文書のコンテンツをカテゴリー別に区分けすることにより、翻訳しやすくする手法も考えられています。

日本でも四半世紀ほど前から、「機械翻訳システム、97%の精度達成、完成まであと2年」の新聞の見出しが何度出たことでしょうか。いずれにせよ、われわれ翻訳会社にとっては、常に目が離せない話題ではあります。

県が通訳・翻訳員を募集

2007.2.6 **県内ニュース

県は4月1日採用の通訳・翻訳員(英語)1人を募集する。

書類の提出は14日まで。

通訳・翻訳員は県の行政事務一般の翻訳や外国からの賓客来県時の通訳業務などに当たる。

短大卒以上で、英検準一級以上か、TOEIC試験で800点以上の成績を修めていることなどが条件。

雇用期間は1年間で更新もある。

詳しい問い合わせは県国際交流グループ電話***(***)****へ。

・・・・(記事の転載ここまで)

これは実在するある地方新聞の、ある県の人材募集の記事広告です。まさに驚きの広告です。21世紀の日本に、いまだにこのような組織が残っているわけです。

「短大卒以上で、英検準一級以上か、TOEIC試験で800点以上の成績を修めている」人に、「県の行政事務一般の翻訳」や「外国からの賓客来県時の通訳業務」ができると本気で考えているのでしょうか?

いや、そう信じているからこのような広告を出しているのでしょうが、「翻訳や通訳なんか、女の子の仕事だから、安い給料でいくらでも使ってやる」という思想が、この文章から透けて見えます。

国際化とかグローバリゼーションが叫ばれてから久しいわけですが、日本の真のグローバリゼーションはまだまだ遠い、と実感させられた記事でした。

日本の翻訳市場の規模は?(その2)

(前項からの続き)

「狭義の意味での翻訳市場」も「広義の意味での翻訳市場」も別に正式な定義があるわけではありません。下記はあくまでも私の個人的見解です。

「狭義の意味での翻訳市場」
企業や公共団体等の組織が、翻訳会社や個人翻訳者に発注する”翻訳業務”。

「広義の意味での翻訳市場」
(1)企業内で正社員として翻訳業務に携わっている人たちの人件費
(2)大企業が子会社に発注する”翻訳業務”。この場合、親会社から子会社へ天下ってきた人たちの人件費も含まれるため、かなりな金額に膨らむ。
(3)”翻訳者を派遣する派遣会社”の売上高
(4)”機械翻訳”や”翻訳ソフト”関連の売上高
(5)”機械翻訳”や”翻訳ソフト”の研究開発費用総額
(6)翻訳学校、通訳学校
(7)外国へ輸出する製品ドキュメントの制作費や印刷代
(8)ソフトウエアローカライズの総額

このうち(7)と(8)は「翻訳ではないだろ!」とお考えの方も多くいらっしゃると思いますが、実際には企業側で作業の境目がはっきりしないため、「翻訳関連費用」として「翻訳料と一緒くた」にしているケースもしばしば見られます。

従って「日本の翻訳市場の規模は、1兆円だ、いや10兆円だ」とかなり威勢のよい発言をする人たちの頭のなかには、きっと「広義の意味での翻訳市場」があるのだと思います。

翻訳会社が誕生してから半世紀近くが経とうとしている現在、上場している翻訳会社が”翻訳センターさん”ただ1社で、その売上規模が35億円というわけですから、そんな巨大なマーケットであるはずがありません。ただし、たとえ1,000億円市場だったとしても、1社で寡占してしまえば、結構な巨大企業が出現することはありえるでしょう。そしてそれができるかできないかは、これからの「新しい翻訳市場」にかかっていると思います。

それでは、また日を改めて以前に少し触れた「旧来型の翻訳市場」と「新しい翻訳市場」に関して話そうと思います。

(この項終わり)

日本の翻訳市場の規模は?(その1)

実は、翻訳業界の規模につき信憑性の高いデータは今まで存在せず、今回翻訳連盟によって行われた調査が初の統計データとなりました。

前述の「翻訳業界翻訳白書」からのデータです。

第1回 調査(2004年8月実施)
調査対象  1,909社
有効回答数  157社

第2回 調査(2005年12月実施)
調査対象  1,220社
有効回答数  137社

第2回の調査の中に翻訳の市場規模に関する記述があります。
下記にその要旨をまとめます。

(以下、要旨)
売上額に関する質問の有効回答は124社だった。
その中央値の合計237億円を124社で割ると、1社あたり1.9億円となる。
従って、そこから類推すると、日本の翻訳市場規模は、
1.9億円×2,000社(NTTタウンページからの社数)=3,800億円となる。

しかし、アンケートの回答に加わっていない売上高5,000万円以下の会社が圧倒的多数のはずなので、第1回調査で算出した推定業界規模2,000億円、多くて4,000億円という推定値は下方修正する必要がある。

売上高5,000万円以下の会社が圧倒的多数を占めるという根拠は、1997年に米国で行われた調査で、年商50万ドル以下の翻訳会社が90%を占めていたからである。
(以上、要旨終わり)

有効回答数が百数十社で、加えて米国の調査データを引用しているくらいですから、正直言ってこのデータも心もとないという感じです。加えて、各翻訳会社の売上額を単純に足し算するわけにはいきません。なぜなら翻訳会社間の取引もかなり含まれているはずだからです。まあ、ざっくり言って、多くても1,000億円程度といったところではないでしょうか?

ただし、これは純粋に「翻訳を企業から請け負った業務」のみと考えています。つまり「狭義の意味での翻訳市場」であって、「広義の意味での翻訳市場」はまた当然違ってくるはずです。

(この項続く)

翻訳会社は日本に何社?(その2)

(前項からの続き)

さて、この調査でわかったことは、全国の翻訳会社数は1991年に1,401社、1993年に1,763社、そして2005年に約2,000社であったということです。バブル崩壊後の2年間で362社増えた翻訳会社数が、その後の12年間でたったの240社程度しか増えていないということになります。

私が知っている範囲内だけでも、バブル期以降に大手翻訳会社や老舗の翻訳会社が20社近く倒産、廃業に追いやられています。そして逆に新しい翻訳会社が多数誕生しています。そういう意味では、スクラップ&ビルドの激しい業界と言えるのかもしれません。1993年から2005年の間に増えた翻訳会社数は240社程度であったとしても、実はプラス740社マイナス500社だったのかもしれません(これは推察の域を出ませんが・・・・。またここでは個人営業の翻訳者が”翻訳業の看板”を掲げてタウンページに掲載していれば全て”翻訳会社”としてカウントしてあります)。

もうひとつこの調査でわかったことは、この翻訳業界は急成長の時代を終え、すでに安定成長の時代に入っている、ということです。私の経営するジェスコーポレーションは1964年の設立ですので40年以上の歴史があります。また30年以上の歴史のある翻訳会社は世の中に多数存在します。「会社の寿命30年説」の根拠のひとつに「一つの商品の寿命はせいぜい30年が限度である」があります。この説が世に出てすでに20年以上が経過しているのですが、21世紀の日本社会ではあらゆる商品の寿命がより短くなってきている、という現状を考えあわせると、旧来型の翻訳市場は、もうとっくの昔に飽和状態になっていると言っても過言ではないでしょう。

それでは、その「旧来型の翻訳市場」と「新しい翻訳市場」の違いは何なのか?となりますが、それを語る前に「日本の翻訳市場の規模はどのくらいなのか?」を検証してみましょう。

(この項終わり)

翻訳会社は日本に何社?(その1)

経済産業省認可の社団法人で日本翻訳連盟(略称JTF)という組織があります。今から13年前の話になりますが、そのJTFの発行する「日本翻訳ジャーナル」に私が記事を載せました。タイトルは「翻訳会社は日本に何社?」です。まずはその記事から見ていきましょう。

~以下記事~

翻訳会社は日本に何社?
<日本翻訳ジャーナル NO.114 1993年9月号>
社団法人日本翻訳連盟常務理事 丸山 均

今からちょうど2年前になりますが、電話帳を使って全国の翻訳会社を調べたところ、約1,400社あることがわかりました。あれから2年が経ち、日本の経済状況も国際情勢も大きく変わったところで、私たちのいる翻訳業界にはどのような影響があったのでしょうか?変化を知る一つのキーワードとして翻訳会社の数に再び注目してみました。結果は下記の表に示したとおり、約360社(26%)増加していることがわかりました。(中 略)

【 翻訳会社数 ~NTTタウンページより~ 】
1991年 1993年 増減
・札幌市         10    15    5
・仙台市          8     3    -5
・東京都 23区    779   922    143
上記以外  65    75    10
・神奈川県 横浜市  50    71    21
上記以外  48    68    20
・埼玉県         37    47    10
・千葉県         38    58    20
・静岡県         28    44    16
・愛知県 名古屋市  61    69     8
上記以外   6    12     6
・京都市         39    49    10
・大阪府  大阪市  144   167    23
上記以外   14   39    25
・兵庫県  神戸市   28   37     9
上記以外   15   36    21
・広島市           6   9     3
・福岡県          25   42    17
全国合計 1,401 1,763   362

* 主な県、市に限定して調べた。
* 法人化していない翻訳を本業としている個人も一部含まれる。
* 同一の会社が支店等を出している場合は、できる限り除いたが、完全には除ききれないので、ある程度の重複がある。ただし、ドキュメント関係の仕事をしていても、本業が翻訳ではないため、このリストに載っていない会社もかなりあると推測される。

以上で、過去に私が書いた「日本翻訳ジャーナル」の記事は終わりです。

さて、昨年(2005年)12月に同じく日本翻訳連盟が実施した調査報告書「翻訳業界翻訳白書」によると、翻訳会社数に関して下記のような記述があります。

「全国の翻訳会社の数は、NTTタウンページによると約2,500社です。この中には、教育・人材派遣会社および支社・支店が約500社/事業所含まれています。」

昨年実施された「翻訳業界翻訳白書」ではどのような方法で翻訳会社数をカウントしたのかは知りませんが、1991年と1993年の両調査では、私自身が全国のNTTタウンページの翻訳業のページを一枚一枚コピーし、私と私のアシスタントの二人で、目で一つ一つ確認しながら、カウントしていきました。したがってその数字に関しては信憑性が高いと思っています。

(この項次回へ続く)